笑みのなかに何を見るか
2023年3月29日(水)
9時半までに食べ終えた食器を流しに運ばなければ、自分で洗うこと。
起きてもなかなか朝食をとらないノコ(娘小3)にイライラした私が新しく作ったお約束だ。これはもちろんむーくん(夫)にもあてはまる。
休日の朝、のんびりしたい気持ちはわかる。でも、あたたかく見守れなかった。何故かと考えたら、シンクがいつまでも片付かないからだった。朝、昼、晩。食事の後片付けを「終えました」という区切りに、私はシンクが何もない状態であってほしいのだと気付いた。
これは、私がいつまでも食べないノコに苛立たないためのお約束である。
8時。
ノコは自分から起きてきたが、部屋着に着替えるとソファーに寝そべり、本を読みはじめた。それからCDをかけ、熱唱する。当分、朝食を食べる気はなさそうだ。
ノコがスキー合宿から持ち帰ったたくさんの衣類を私は洗濯機に突っ込む。どんどん干して、今日中に片付けてしまいたい。
9時半に一度ノコの様子を見に行くと、歌いながら足を踏み鳴らし、よく焼けた食パン2切れをこすっていた。パン屑製造器と呼ばれる所以だ。
食べ終えるまでまだしばらくかかるな…
ベランダで3回目の洗濯物を干していたら、ノコがやってきた。
「ママ、食器洗ったから見て」
おやおや、お約束を覚えていたんだ。率先して洗ったのはいいが、日ごろ食器洗いをしていないノコがきちんと洗えたか不安になる。
ノコが手を引くままに台所へ向かった。
「ほら!」
水切りカゴ代わりになっている食洗機に向かってノコが両手を開く。
なんとも自慢げ、誇らしげだ。
ミロを飲んだコップの内側が見えた。あれ、ミロがついてる。
「ミロ、落ちてなかったねぇ」
そういいながら、サッと洗って伏せる。
ノコが使ったスプーンを手に取れば、ヨーグルトがついていて、うわ、ガラスの器にも残っている。
「ここにも残ってたねぇ」
今、指摘する。後で指摘する。または、汚れに気付かない振りをして、ノコがいないときにこっそり仕上げ洗いをする。3つ選択肢が浮かんだが、今後もノコが洗う機会がありそうなので、はじめのうちに指摘したほうがよいと思えた。
やさしくいうと、ノコが怒る。
「笑っていわないで。バカにされたみたいで傷付く」
笑う?
あぁ、確かに今、私は微笑んでいる。
「バカにした笑いじゃないよ。やさしくいってるつもり」
「普通に事実だけいえばいいじゃん」
ノコの物言いが半ば怒鳴るようで、こちらだって傷付く。
売り言葉に買い言葉じゃないが、喧嘩腰のノコについいい返したくなる。
ーーじゃあ、もういわないね。
深く息を吸う。そして吐く。
「ヤァダ、ここにもついてるし。こっちも全然落ちてないじゃん!」
手を打って、大笑いしてみせる。
「バカにする笑いって、こういうのだと思うよ」
それから、平らな声で棒読み口調でいう。
「ココニモ ツイテイマス。コチラモ 落チテイマセン」
ノコを見て言葉を続ける。
「ママとしては、やさしい声で事実を伝えたつもりだよ。バカにしていないし、怒ってもいない。やさしくいうのもダメなの?」
ノコは口をへの字に曲げ、目を左右に揺らす。
「それで、いい」
「それで、なの?」
「それが、いい。ママ、やさしくいってくれてありがと」
ノコが抱きついてきたので、ぎゅうと抱き締める。
よくノコは学校でノコの言動をお友だちが「笑った」、つまりバカにしたと怒って帰宅する。
みんな、私をバカにしてる!
でも、もしノコが私が浮かべたようなあざけりのない微笑みですら、そう感じるのだとしたら。
私はどうノコに伝えたらいいのだろう。
お友だちはバカにしていないと思うよ。
そういえば、ノコのバカにされていると感じる心を否定してしまう。その場にいない私がいっても「ママに何がわかるの」とノコにいわれそうだ。
バカにされたと感じるのは、ノコに自信がないからなのか。
確かに見下す笑いというのはあるし、小学3年生だってするだろう。
ただ他意のない微笑みもノコは嘲笑に引っくるめている可能性を感じ、私は戸惑ってしまった。
どうしたら、ノコの心が軽くなるのだろう。
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