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ぐっときた詩

時に 人が通る、 それだけ

三日に一度、あるいは五日、十日にひとり、ふたり、通るという、それだけの――

――それだけでいつも 峠には人の思いが懸かる。

そこをこえてゆく人
そこをこえてくる人
あの高い山の
あの深い木陰の
それとわからぬ小径を通って
姿もみえぬそのゆきかい

峠よ、
あれは峠だ、と呼んで もう幾年こえない人が
向こうの村に こちらの村に 住んでいることだろう

あれは峠だ、と 朝夕こころに呼んで。

石垣りん

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