パリとゲーテ 大陸横断 ~3日目
「光が強ければ強いほどその影は濃くなる」的な言葉がありますが、これはどうやらドイツの著名な作家、ゲーテの格言らしい。
この言葉のすごいところは、風景だったり写真みたいなビジュアルとして捉えられる目の前のものを対象にした言葉と思いきや、人間（の性格）だったり、ひいては国家、政治などなど、形を持たない抽象的なテーマにまで落とし込むことができてしまうところ。もっと言うと、職場でそれっぽい話題になった時に「まぁ、光が強ければその分影も濃くなっちゃいますからね…」なんて訳知り顔でそれっぽく言っておけばなんとなくそれっぽい感じでその場が収まってしまうところ。こんな便利で崇高な言葉、他にありますか？
これ、最初に思いついたときゲーテは相当気持ちよかっただろうな。「今度地元の飲み会でこの格言、みんなに披露したろ…」とかいって、後輩の女の子にモテようとニヤニヤしていたに違いない。ゲーテよ、俺には狂おしいくらいわかる。なぜならそれは何を隠そうこの俺が、自分で思いついたことにして地元の飲み会で披露し、後輩の女の子にモテようとニヤニヤしていたからである。
パリに3日間くらい滞在してみて、パリを象徴するのはこの言葉だなと思った。
当時ハタチなりたてお尻真っ青ボーイにとってフランスだとかパリなんてものは、それこそゲーテだルイ何世だ知ったこっちゃありませんが、なんか中世のフランスらへん？の人たちはこぞって髪の毛くるくるモシャモシャでとっつきにくそうやなぁと思っていたし、芸術の都なんて呼ばれるくらいだからそれはもう全員美大卒で街並みなんかは小綺麗なものだと思っていたし、「なんか老若男女全員スキニーのズボン履いてるんでしょ？」と思っていた。（当時の俺はスキニーのズボン＝超オシャレな人が履くものだと思っていた。）
ところがどっこい、いざ蓋を開けて見たらビックリ仰天、街を歩けば老若男女歩きタバコとポイ捨てのオンパレードで、今でこそ新宿の歌舞伎町だのミナミの宗右衛門町だの、中途半端に人生経験を詰んでしまったが故に同じような街の景観はいくつも思い浮かぶけど、それを知らない当時のハタチなりたてお尻真っ青ボーイがカルチャーショックを受けるには十分すぎるくらいに、街が汚くて臭かった。
駅で小汚いおっちゃんに話しかけられて、よくよく聞いてみるとタバコ持ってるなら1本よこせみたいなことを言っていたのもなんとなくショックだった。今思えばおっちゃんも例に漏れず髪の毛がくるくるモシャモシャしてたし、もしかしたらルイ842世とかだったのかも……しんど…………。
ちなみに美大卒っぽい顔は1人も見かけなかったし、全員がスキニーのズボンを履いているわけでもなかった（履いている人もちゃんといたのはちょっと嬉しかった）のもちゃんとショックだった。
幸い俺は祖父の代から続く生粋のニコチンサラブレッドなので大して苦じゃなかったけど、3日間パリを案内してくれた友達は歩きタバコの連中とすれ違うたびに「あんま調子に乗んなよ、このフラ公が…」と悪態をついていたのが結構おもしろくて、今でも寝る前にたまに思い出してはちょっとだけ口元を緩ませたりしている。
なんか話の着地点を見失ってしまった感は否めませんが、なんとなく今になって感じるのは、例の言葉の「光」ってものは、僕たちが何か物事に対して持っているちっぽけな期待感とか、間違った知識とか、しょうもない固定観念だとかとイコールで言い換えられることがあるんじゃないかってことです。
その物事自体は何も変わらずにずっとそこにあるのに、受け取り手でしかないこっち側がそれに対して変な期待感とか、良くも悪くもバイアスを持ってしまったりすると、しかもそれが大きくなればなってしまうほど、その「影」、つまりその物事に対するガッカリ感とかショックなどなどもドス黒〜く濃くなっちゃう（ことがある）よね〜ってことです。
アイドルだってメイドさんだってアスリートだってタバコは吸いますよ、人間だもの。パリにだって宗右衛門町にだって汚い部分はありますよ、街だもの。もちろん全部が全部とは思わないけど、その「影」を大きくしてしまっているのはこっち側っていう場合も往々にしてありうるよね〜ってことを、誰も読んでいないのになんだか説教じみた感じにはなってしまいましたが、そういうことではなくて自戒を込めて記しておきます。何事に対しても間違った方向に期待はしすぎず、ハードルを上げすぎずに、謙虚に欲張らずに生きていきましょうや。
そういえばゲーテ、いまWikipedia みてみたら作家だけじゃなくて詩人、自然科学者、博学者（色彩論、形態学、生物学、地質学、自然哲学、汎神論）、政治家、法律家、の肩書も持っているらしい。ゲーテ、それは欲張りすぎ〜〜〜〜！
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