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『ゴーストバスターズ』のシナリオをBS2に照らし合わせて分析してみた(夏休みの自由研究)

さてお盆休みである。
お盆といえばお化け、お化けといえば映画『ゴーストバスターズ』である。

1984年。生まれるより前の映画なだけあって、映像なんかは(とくにCGまわりが)さすがに旧い。けれどそれもまたいい味出してて、2020年のいま観ても面白いなと思った。2010年ごろに出会って、たぶん、もう5、6回は観ている。
少ないじゃないか、と思う人もいるかもしれない。けれども短い人生いろいろなものに出会いたい、リピートするものは湖池屋のポテトチップスくらいのわたしにとってはこれはかなり多いほうで、お気に入りの一作に入る。


【前回までのあらすじ】「よし! ラノベ書くぞ!」と思い立ったわたしは旅行するときもまずガイドブックからという人種のため、シナリオ作成のためのネット記事やら書物やらを漁り、ネットに記された先人たちの言葉から「これは広く参考になりそうだ」と思った『SAVE THE CATの法則』という本を購入する。​

じつはもう、二日前の時点でラノベは書きあがってしまった。

しかし、これは昔からそういう気質なのだけれど、自分、あるいは自分の作ったものを人に好きになってもらいたいというよりは自分の好きなものを人にすすめたい、自分の好きなものについてもう一段階深く考えてみたい、という気持ちのほうがはるかに強く(だいたいはロケ地などの地理的な方面に傾く。『ゴーストバスターズ』を観たのもニューヨークでロケされた映画だったからというのが大きい)、
そこで、なにかつぎのものを書きはじめるまえに、すこし回り道して大好きな映画のひとつ『ゴーストバスターズ』を『SAVE THE CATの法則』のなかに出てくる良いシナリオに共通するリズム(構成)、「ブレイク・スナイダー・ビート・シート」、略してBS2に照らし合わせてみよう! と思い至り、この遊びに興じることにした。

でも十万文字ほど完結までラノベ書いてみて思った。
自分で書くならフィクションよりも紀行文のほうが楽しいな。

まあそれもこれも人生経験。

というわけで、ここから先は『ゴーストバスターズ』(1984)のネタバレが含まれます。ネタバレしかないです。またBS2の各トピックの持つ役割についての詳しい説明はしません。本を買おう! Kindleでも買える!


おばけはこわくない

ぶっちゃけ、いやぶっちゃけるまでもなくこれがわたしの人生初シナリオ分析だ。だからBS2に則って考えてみても、自分の素直な感想から引っ張り出してみても、この作品に深いテーマ性があるようには思えなかった
見つけられなかった。だから一旦「ない」として話を進めさせてほしい。

テーマ性がない=悪いことじゃない。
マックのチキンナゲットと、ラーメンと呼んだら店主に怒られるどう考えてもラーメンな意識高い系ラーメンは比べられないし、マックのチキンナゲットと店主が目の前で一本一本揚げてくれる串カツも比べられない。
マックのチキンナゲットに高いプライドはない(とわたしは思っているし、価格帯からしてもマックはフランクなものだ)けれどうまい。それでいいじゃないか。プライドをもって、プライドを感じさせないものを世に届けている。

気軽に食べられて、味を知っていても、またおいしいと思える。
『ゴーストバスターズ』もまた、マックのチキンナゲット的作品だと思う。

ただ、ほかのさまざまな“お化けもの”とは明らかに一線を画した『ゴーストバスターズ』だけ……と言い切るには少々過言だが話が進まないので言い切らせてほしい特徴がある。それは最初から最後までお化けをコミカルなものとして描き切っているところにある。なにせラスボスがマシュマロのお化けなのだから。

子どものころに流行った“学校の七不思議”さえ、小学生向けのくせして『ゴーストバスターズ』よりはるかに怖い。
怖いもの見たさでお化け屋敷に行ったりもした。懐かしい。

お化け、なのにこわくない。
シンプル。それでいてお化けへの一般的なイメージとは真逆である。
テーマとは違うかもしれないけれど、これが『ゴーストバスターズ』の強烈な個性で、全編を通して徹底しているものだと思った。


『ゴーストバスターズ』がBS2分析に向いているワケ

具体的な、どのシーンがどのパートに対応している、などといった話をするまえに『ゴーストバスターズ』がBS2と照らし合わせて考えてみるに適した作品であることをプレゼンしたい。

まず、大ヒットした作品であること。
アメリカ本土だけの話じゃない、日本でも1985年の興行収入はぶっちぎりの第一位だ。

そして主人公たち三人組はイケメンでもないフツメンのおっさんである。途中参戦の四人目もじつにノーマルフェイスだ。もちろん顔は整っている。が、レオナルド・ディカプリオとか、ブラッド・ピットとか、そんなアレじゃない。つまりシナリオが面白くてヒットしたのだろうと期待(邪推ともいう)することができる。

つぎに、本編時間(冒頭の配給が終わって〜スタッフロール突入まで)がほぼぴったり100分(100分15秒)であること。

BS2は110枚のシナリオ(=110分の映画)を想定して書かれているが、
それを/110すればパーセンテージが出る。それを分析したい映画の本編時間にかければ対応する箇所が出てくるわけだが、100分の映画のときに限りそのわずらわしい作業が必要ないのである。(これは110分のときにも言えるが)地味に便利だ。
たとえばもの書き界隈では有名だと思われる“ミッド・ポイント”も、ぴったり50分のところを見ればよい。


やってみた

というわけで、こんな感じで『ゴーストバスターズ』の話の流れ、シーンの移り変わりを時間経過とともにまるまる一本ぶん書いていった。

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なにが重要で、なにが重要でないかはこの時点ではわからないからとにかくまんべんなくメモに起こした。

中学生のころは気に入ったゲームのシナリオをまるまる一本(×三本分くらい)ノートに書き写したりしていた。これくらい造作もない。しかし手が痛い。

しかし面白い。

本筋にいらない設定・説明に時間を割いていないのがいい。
なぜお化けをあんな小さな箱に捕獲できるのか?
なぜ異界からズールが降臨したのか?
説明はなされている。だけど観客に理解させようとはしていないと感じた。

それこそ一時停止でもして一字一句(吹き替えではなくなっち語で見た)噛み砕かないかぎりは理解……それでもできないだろう。すくなくとも、けっこうメチャクチャだ。スクリーンで一度見ただけで理解できるような説明の仕方ではなかった。そもそも(2020年時点での)現実にはお化けなんて捕獲できっこないのだから。理由があってあのビルにお化けたちのエネルギーが集まるんです、集まったんです。それがわかれば十分で、わたしたち観客が知りたい、見たいのはそんな小ネタなどではなくゴーストが痛快にバスターされていく経緯、ただそれだけなのだから。


BS2対応表

オープニング・イメージ:NY図書館

テーマの提示:わからなかった
時間でいうと「君は超能力者だ」とピーター(主人公)が女学生を口説いているあたり。“電気ショック”なんかはお化けの倒し方と通じてくるものがあるような気もした。

セットアップ:開始6分半でピーター、レイ、イゴンののちのゴーストバスターズ三人組が揃う
ここまでにはすでにお化けが話のテーマ(提示されるべき“テーマ”とはまた違う、いわば話のカテゴリー)であることも、インチキ超能力で女学生をものにできない主人公も描かれている。

きっかけ:図書館地下に女の幽霊がいる
あまりにもBS2で示された時間きっかりに現れたから驚いたよ!

悩みのとき:大学からの追放
「世間は研究に成果を求める」「この大学から追放されるのは運命」
「なぜ?」「俺たちで商売をはじめるためだ」
ピーターが悩まないかわりにレイが問題を提起して、それに答えていくかたち。

第一ターニング・ポイント:ゴーストバスターズ設立。ディナが依頼人としてやってくる

サブプロット:調査という名目で(下心ありで)ディナの家へ
こじつけるなら、ピーター目線だとのちに鍵の神が乗り移るルイスの初登場もここ。(のちにわかるが思考がいささか合理的な)税理士で、超能力など見えないものを研究する(していた)ピーターたちとは対ともいえる存在。

お楽しみ:ゴーストバスターズ大活躍! ホテルのお化け退治から一躍時の人に
メインテーマも流れ、ダイジェストで紹介されてゆくゴーストバスターズ。たしかにここが一番ノリノリで楽しい。言われてみればどの映画でもいちばん気に入る部分はだいたいいつもこのパートな気がする。
30分からホテル〜41分でメインテーマ終わり話はつぎのフェイズに。

ミッド・ポイント:ディナ取り憑かれる/この時ピーターはうきうきでデートのためディナを迎えに
まさに“見せかけの絶好調”だなとただただ感心させられるしかない。

迫り来る悪い奴ら:取り憑かれるルイス。“人間の敵”環境保護局の役人がゴーストバスターズ本部に乗り込んでくる
レイとウィンストンの乗った車の橋を渡るシーンも象徴的。

すべてを失って:貯蔵庫のお化けが解き放たれる。ゴーストバスターズ逮捕
死の気配については、ここよりすこしまえ(1時間2分)でここまで提示されてきたこの作品の世界観からは一足飛びに「あなたが死ぬかもしれないのが怖い」と言い出す受付の女性が象徴的な気もした。むろん「スイッチが切られる」そのものもそうだといえる。

心の暗闇:留置所
作品全体のトーンとして、暗くなりすぎないようにというのはあると思う。なので(?)シチュエーションに肩代わりさせているのかなとも思った。

第二ターニング・ポイント:「(NYの危機を)俺たちが阻止する」
市長室で宣言するピーター。ここもぴったり85/110(1時間17分)。

フィナーレ:お化けが退治される
ピーターの変化に絞ると、女生徒を手に入れることのできないインチキ超能力学者→超常現象を倒してディナを救う、ときちんと問題が解決され、対になっている。

ファイナル・イメージ:NY市民の歓声のなかを走り去っていくゴーストバスターズの車


なんてまとまったシナリオなんだ!

もしかしたらシナリオの勉強をしている人からしたら当たり前のことなのかもしれないけれど、ほんとにBS2ぴったりで感動した。もし選ぶ作品が違っていたら「なんかこれは、違うな」と思い悩むことになっていたかもしれない。『ゴーストバスターズ』を好きでいてよかった。

しかし『SAVE THE CATの法則』を読んだことがある(というより、ここに書いてあることと本、作品の3つをすぐに比べられる)人だと気になる点が出てくると思う。
そう、『ゴーストバスターズ』においてオープニング・イメージ(開始からたった1分の限られた範囲!)で主人公は映らない。
だがこんなにほかのところが計算され尽くしたリズムで進んでいく作品でそれはありうるのか? 絶対に対になっているはずだ。1分と1時間40分(100分)とは。

すこし考えてたどり着いた結論としては、
この作品の真の主人公は“あなた”であるというもの。

この作品の話を進めていくにあたっての主人公はピーターだけど、真の主人公は1分と100分に共通して映っているもの……つまりNY市民。

図書館(たまたまか計算かはわからないけれど、“動”か“静”かでいえば確実に“静”を象徴する場所だ)のまえから物語は始まる。

ゴーストバスターズのいない、静かなニューヨークの街から
市民の歓声の飛び交う、ゴーストバスターズのいるニューヨークの街へ。

とくに物語が動き出してからは、市民たちはずっとピーターたちに注目し、見守っている。そのなかの一人として楽しめるように設計されている話なのだと自分のなかで結論づけて、いまのところしっくりきている。

551のある時、ない時で考えてもらえればわかりやすいと思う。
楽しいのは? 断然「ある時」だ!


おわりに

世紀が変わっても色褪せない名作『ゴーストバスターズ』のおかげで「BS2ってマジだった!」という研究成果を得ることができた。

ここまで書いておいてなんだけど、
まあそんなシナリオのパート分けがなんだ的なことはさておき面白い映画なのでまだ見たことない! って人はぜひ一度観て! 観てみてほしい。
メインテーマ以外の曲も(語彙力がないのがもどかしいが)最高にキャッチーで551だ。100分は長いよってんなら、まずはメインテーマを流してみるだけでもいい。そして気に入ったらぜひ、本編に進んでほしい。

気が向いたらまたほかの映画でやってみるのも、面白いかもしれないな。

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