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村では2年に⼀度⼟地神に捧げ物をしなければならない。
村の皆の無病息災と豊作のためにその時に取れた質の良い作物をカゴいLぱいに神へ供え ると共に、村で最も美しい娘を捧げる。捧げられた娘は⼟地神と婚姻の契りを交わし。⼆年以内に⼦を授からなければならない。
それは⼟地神の⼒を娘の器に移すという儀式であり、⼟地神の⼒を衰退させないためのもので⼆年以内に⼦を授かることのできなかった娘は⼟地神に殺されてしまうのだ 。

“狐⼦尊(つちのきつねのしのみこと)”この村の⼟地神の名前で、村の⺠か
らは“オキツネサマ”と呼ばれ共存しているということはまだ幼さの残るみつも周知のことであった。オキツネサマは酸味を好んでいて、好物は⼈間の肝臓だということも。
みつはこの村の中で最も美⼈であった。
みつの家は貧しい農⺠でありながら兄弟が多く、家計は実に⽕の⾞で家族はいつも
腹を空かせていたが家は愛に溢れていた。みつの⽗はキリシタンで、家族もそれを信仰していた。特に、みつは熱⼼なキリシタンであったので⼟地神を信仰してはいなかったが、貧困に耐えかねた⽗は娘を⼟地神に捧げる代わりに裕福な⽣活を⼿に⼊れたのだった。
「もはや、⾃分は死んだ。」とみつは⼟地神へ捧げられる⼭中で考えていた。
愛する家族に捨てられ、神に捧げるはずであった操を邪神に捧げ、邪神の⼦を孕むなどという⾏為は彼⼥の想像に難く、イエスの受けた拷問のようであると考えたからだ。

⼟地神の社はさほど豪華な作りではないが、細かなところまで⼿⼊れが⾏き届いており、荘厳な雰囲気を醸し出していた。その雰囲気に圧倒され、今まで逃げることばかりを考えていたみつがその場から1歩も動くことができずにいると、社の奥から⾦⾊の⽑に⾝を包んだ⼤きな狐が現れた。
狐は⾚い眼でみつをじっと⾒つめた後にやりとニヒルな笑みを浮かべ 
「其⽅は私ではない他の神を信仰しているようだ」 
とひとこと言い放った後、みつの⼿をぐいと掴み⾃分の⽅へと引き寄せた。
「愚かな娘よ、其⽅はもう娘ではない。“⼥”になるのだ」
そう⾔われたとき︑みつはオキツネサマの瞳から⽬を離せずにいた。
その⾚い眼は私が全てであると語っており、みつは段々とそれ以外のことを考えることができなくなっていた。
 

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