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【日記】ディスコは君を差別しない

金曜、朝起きて掃除など済ませる。外は台風予報で風が吹き荒れていた。泊まりに来ていた友人が別の関西勢グループと合流するというので先に家を出ていて、自分も後から追いかけるようにして少し早いが夕方頃にソニックマニアの会場へ向かった。

京葉線止まるかもなと思い、どちらでも辿り着けるように総武線に乗ったのだが、運行情報を見ると本数を減らす程度で運休にはならないとのことだったので途中駅で乗り換え海浜幕張に。一時間弱ほど商業施設の中で過ごし、開場予定時刻より少し前に待機列に並ぶ。雨はほとんど上がっていたが、空の色と雲の動く速度が地獄みたいでなんともおぞましく思えた。

開場の直前になって通り雨に降られたが、念のため持ち込んでおいたジャケットで身を守る。19時すぎになってようやく幕張メッセの中へ。フジロックと違い屋内なので、空調が効いて広々としていて超快適。2年前も同じことを思った、多分これは毎年のルーティンのように巡っていくのだろう。

一日何も食べておらず、またタイムテーブル的にも長谷川白紙が終わる深夜1時頃まで休めなさそうだったので、トップバッターのサカナクションを観る前にフランクフルトとビールで小腹満たし。軽食を済ませてからのんびりとステージ方面に向かい、中央から少し後ろあたりで観ることにした。

記憶が定かであれば12年前のCDJぶりにサカナクションを観た。熱心に追っていたわけではないので知らない曲ばかりかもしれないと懸念していたけど、自分が捉えたその景色は紛れもなく当時一時代を築き上げたサカナクションであった。特にAoiが聴けるとは思わず感無量だったし、ミュージックの大サビでは無意識的に涙が頬を伝ってしまった。

「いつだって僕らを待ってる /  疲れた痛みや傷だって / 変わらないままの夜だって歌い続けるよ」

振り返れば随分傷ついていたのだろうと思う。前職時代、目を逸らし続けていた周囲の期待に応えなくては、不出来な自分を上手に隠さなくてはと躍起になっていた自分。社会人生活を一度ずるりと逃げるように抜け出して、風俗生活で不透明な未来を掴もうと甘い夢を見ながらのんびりと怠惰に過ごしている自分。どちらの生活も自分が望んだものであることに変わりはないけど、根本的な救済はなかったし、今もないな、と思う。でもそれはきっと変化を求める度について回るもののような気もするので、だからこうして山口一郎の音楽を聴いて涙を流したりするのだと思う。

少しずつステージ後方へ向かい、新世界でゆらゆらと踊ったりしながらArcaへ。J-pop然としたまとまりのある音楽を鳴らすサカナクションと違い、彼女の音楽は模倣された「何か」なのでその温度差にある意味で身悶えした。Incendioでどうやって作り、そして持ち込んだのかわからない特大バズーカをぶっ放していて爆笑した。いやでも、Arcaのパフォーマー性はトランスジェンダー以前に一人のアーティストとして輝いていて、一挙一動に突き動かされるものがあると思う。

Underworldを観る前に喫煙所で一服していたら、元々近所に住んでいて今は転勤の関係で広島にいるAさんと偶然遭遇した。台風の影響で一日通して飛行機が1本しか飛ばず、その便で運良く間に合ったらしい。東京には度々戻ってきているので、またゆっくり話しましょうと言って解散。Underworld、Two Months OffやPeal's girlなど容赦ない縦ノリテクノでサカナクション以上に大規模なダンスフロアが形成されていた。

深夜1時頃、坂本慎太郎。ゆらゆら帝国時代は兄が大ファンなので知ってはいたものの、まだ幼さゆえあまり魅力がわからなかった。それからほぼ10年越しに観られることになるとは。ゆっくりと口を開いて紡がれる歌声はゆら帝の全盛期と比較してほぼ劣らず、VJ演出で壁面に音の波形が投影されたり、サックス代わりにびっくりチキンを鳴らすなど、決して派手さはないが素っ頓狂なユーモアも展開していて面白かった。「ディスコは君を差別しない / ディスコは君を侮辱しない / ディスコは君を区別しない / ディスコは君を拒絶しない」まるで今何も持っていない自分を見て声をかけてくれているかのようで、暖かかった。

小腹がすきはじめて、ワンハンドのチキンサンドを食べてビールを煽ってから長谷川白紙へ。フェスでは体が軽いに越したことないので、少し物足りないくらいがちょうどよい。ステージに向かうと既にリハーサル中で、しかし通常見られるようなサウンドチェックではなく、「AIの自動音声を吹き込んだガイダンスにならって声量や鍵盤の状態確認をする」というコンセプトのもと行われていて、これは偶然居合わせただけの客も取り込んでしまうぞと思った。

本編も言わずもがな素晴らしかった。魔法学校のトラックを中心に長谷川白紙の脳内を垣間見るようなアニメーションが音と共に乱反射しながら観客一人ひとりに向けて総攻撃していた。SoundCloudにて生まれた才能が大きく花開いてBrainfeeder移籍を通して世界へ。彼を見ているとあたかも自分が世界にアクセスしているような感覚になる。

腰が痛くなり、少し休憩してからラストのTESTSETへ。もう2時だか3時だかで床にへばりつくように寝ている人が多かった。屋内で床も冷たく、これができるのは最高だよなと思う。ばっちいから自分はしないけど。TESTSETは正直砂原良徳目当てで観に来ているし聴いている節があるのだけど、やっぱり4人のバランスが絶妙に保たれていて、互いを補完しているような印象でかっこいいなと思った。ただどうしても小山田圭吾がいたMETAFIVEと比べて何かが足りない、例えばゴンドウと砂原のクリエイティブが目立ちすぎていて均衡とれてないとか、と感じる部分はあり、そういう意味で小山田圭吾にはサウンドプロダクションの才に優れているというか、コライトをフラットにする重要人物としての役割を担っていたのだろうと思う。

ヒップホップ勢は観る予定がなかったのでこれにて全アクト完走、始発で帰ろうかとゲートへ戻ろうとしていたら、まさかの昼間に台風で予約をキャンセルした担当美容師さんと遭遇。キャンセルの件について直接謝るも、全然気にしないでいいっすよ〜と言ってくれて優しかった。せっかくなので記念撮影。スタッフさん全員でソニマニに来ていて、今日は店休日にするらしい。公私共にストレスなく付き合えるチームで素敵だな〜と思うばかりだった。

5時すぎの電車に乗って帰路へ。京葉線の車窓から朝日を浴びるイクスピアリが見えて綺麗だった。最寄り駅まで戻るとじりじり暑く、腰が爆発しそうになりながらもなんとかシャワーを浴びて朝8時頃に寝た。

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