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右四番小臼歯欠損

「う~ん、だいぶ歯茎の中の骨が侵食されていますねぇ。 ほら、この黒いところ、ここは骨が溶けてなくなっているところです。 だから、この歯は支えがなくてぐらぐらしている。 それに、この黒いところからばい菌が入って、炎症を起こしている。 今回腫れがひいても、またぶり返す可能性が高いですね。 抜いたほうがいいかもしれない。 使えるだけもうちょっと使ってみるか、難しいところですね」

谷川先生は、レントゲン写真をライトに透かして見ながら説明してくれている。 微笑しながら話しているせいか、眼鏡の奥の目が少し楽しそうに見えた。

二週間後また痛み出し、問題の歯は抜くしかない、という結論になった。
3本の麻酔注射の針につかれ、削られた歯はペンチでメリメリと音を立ててはぎとられてしまった。 促されてやっと目を開けてみると、歯茎は思いのほか深く、鋭かった。 根元には、ばい菌の入り口になった、わずかな亀裂が見えた。 長い間、口のなかでわたしの好物をかみ砕いてくれた歯、二度と戻らない歯… 喪失感が胸に迫った。

これからまだまだ歯との別れは避けられそうもない。 そのたびに谷川先生にお目にかかる。 「会うは別れの始め」とはよく言ったものだ。

もし焼死したら
歯型で鑑定してくれるのは
この人かな
行きつけの歯科医
山本学似の谷川先生

               おわり

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チズ
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