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山笑う #1分マガジン
句会のメンバーで、小鷹山にハイキングに行くことになった。花を散らせて葉の茂り始めた桜が、緑の木々に溶け込んでほっと一息ついているような4月の始めのことだった。
参加者9名のうち最年長75歳の小沢さんは人気者だった。俳句の名手で「外出のおしゃれブラウス山笑う」は皆から絶賛された。「山笑う」は春の季語で春の山の明るい感じを表している。それに加え彼女には天性の明るさがあった。
「は、は、は、」
と思い切り明るく笑い、皆の笑顔を誘った。
2キロのハイキングコースを楽しそうに歩いていたが、頂上に着くと急に「腰が痛い」と座り込んでしまった。娘さんに車で迎えに来てもらい、皆の「お大事に」の声に送られて帰って行った。
帰り道、ふと足を止めて振り返ると、山は千の色合いの緑に輝いていた。美しい…と見とれていたそのとき、ふいに
「は、は、は」
と笑い声が聞こえてきた。はっとした。帰ったはずの小沢さんの声だ。
次の月、小沢さんは欠席だった。代表であるわたしに娘さんから電話があり、突然亡くなったとのこと。あまりのことに言葉を失った。あのときの笑い声は、別れの声だったのか・・・
おわり
小牧幸助さんの1分マガジン投稿作品です。
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