爽やかな風吹くころ
爽やかな風が色づき始めた銀杏の葉をゆらし、やっと衣替えの季節になった。衣替えといっても、箪笥からもう着ないだろう夏ものを出してクローゼット前まで運ぶ。そのなかのプラスチックケースを、スルスルと引き出して、冬物を出し、代わりに持ってきた夏物を入れる。出した冬物を箪笥にいれる、という簡単なもので、10分もあればできる。昔と比べ楽になったが風情がない。
子どものころ、この季節になると、母が押し入れの下の段から、よっこらしょっと、行李を出し、冬物を広げた。わたしの成長に合わせてもう着られないもの、これから着るもの、を分ける。何でもないこの仕事を心ときめかせながらで眺めた。半年ぶりに会う洋服たちは、ちょっと珍しくて新鮮で
「ねえ、これ着ていい?」
「まだ、暑いでしょ、これ着るの」
「これは?」
「これはパジャマでしょ」
こんな会話をしながら、せっかく分けられた洋服をかき回してしまったり。
このときの行李(柳の枝で編んだ衣類をいれる箱)を5年ほど前まで使っていた。補強のため、角に緑色の麻生地が縫い付けてあるのだが、それがぼろぼろになり、開けるたびに切れ端が落ちた。でも、母の形見のようで捨てられなかったのだ。母が結婚するとき、母の母親、つまり祖母が買い調えてくれたもの、と聞いた。
思い切って粗大ゴミに出した日、マンション前の銀杏並木が金色に色づき、朝日に輝いていた。振り返ると、三角の葉がきらめきながら、行李の上にも散り落ちていた。
木との別れを惜しんでいるのか
思い出を反芻するように
イチョウ
くるくる
舞い落ちる
おわり
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