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一万本の蜘蛛の糸

以前蜘蛛の糸バイオリンのことを知り、驚いたことがある。奈良県立医大の大崎茂芳特任教授が、蜘蛛の糸を束ねたバイオリンの絃の作成に成功されたという。

実際のクモの糸は意外に強く、引きちぎろうとすると想像以上の力を必要とするらしい。 この糸を人工的に合成することができれば、建築物の構造材料をはじめさまざまな分野への応用が期待できる。現代では クモ糸の構造を人工的に再現することに成功し、大量生産に向けた一歩に道を切り拓いた、とネットにある。

さて、バイオリンの話に戻る。一本の絃には蜘蛛の糸一万本が必要で、一万本の糸を取るのに百匹の蜘蛛の力を借りなければならないそうだ。そしてその弦は、一般的に使用されているナイロン製の絃よりも強く、はるかに柔らかで深い音色を奏でるというのだ。私には、もちろん弾く腕などはないが、なにか心躍る。

蜘蛛のあの姿かたちを、決して好きなわけではない。払っても払っても、庭の木立にせっせと張られる蜘蛛の巣に、うっかりひっかかってしまった時の、あの気持ち悪さ・・・だが、蜘蛛の巣のハンモックにそっと置かれた水晶のような水滴が、朝日を浴びてキラキラと煌めく美しさに見惚れたことは何度もある。

もしも、バイオリンが弾けたなら、故郷のあの庭の木漏れ日の下で奏でてみたい。
季節は春・・・
空想の世界に迷い込み、他愛もない一日が何事もなく過ぎれば、それだけで幸せと思いたい。

一万本の
蜘蛛の糸束で
軽やかに奏でてみたい
春の風と木漏れ日
譜面に添えて

          おわり

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