マガジンのカバー画像

ショートショート

145
ショートショートの数々、知恵を絞って書いています。
運営しているクリエイター

#半分フィクション

沈む寺

沈む寺

裏庭の桜の大木が枯れてしまった。引き抜かれた根のあとに何かが覗いている。そっと掘り起こすとお寺の形をした置物だった。蓋を開けるとバラバラになった数珠のような茶色の玉と、その下に白いものが・・・
これは骨?

曾祖父は医者でこの地に病院を建てた。一番にラジオを買って村の人たちに聞かせた、とか医師会の会合で上京するときは駅のホームに芸者が並んだ、とか派手な話題の持ち主だった。子供に恵まれず夫婦養子をと

もっとみる
【ひと夏の人間離れ】

【ひと夏の人間離れ】

証券マンの彼が初めて我が家を訪問したのは6月、これから訪れる本格的な夏の前触れのような蒸し暑い日だった。背が高く痩せた身体に丸顔でちょっとアンバランスな印象、担当になったからと恭しく係長の肩書の名刺を差し出した。株を売るタイミングを教えて欲しいというと「わからないのです」というそっけない返事。内心むっとした私に「それでも出来る限りやってみましょう」と真剣な顔で答えてくれた。

株価はトランポリンに

もっとみる
秋の空時計

秋の空時計

 あの頃私は都心の商事会社に勤めていた。仕事といったら、郵便物をそれぞれの課にくばる、来客にお茶を用意する、コピーをとる、簡単な書類を作成する、といった、誰にでもできるものだった。40代の先輩もほぼ同じ仕事をしているのを見て、こんな生活をずっと続けていくのだろうか、とぼんやり考えた。

 オフィスはビルの12階で、広い窓からビルの群れとその谷間をゆるく曲線を描く高速道路が見渡せた。車は道路の上を、

もっとみる