基本群と被覆空間を読んで
モチベーション
私は応用のある数学のみに興味があるのだが、最近フーリエ解析→(非可換)調和解析と興味のまま学んでいたら表現論や被覆空間の知識が必要な所にぶち当たった。昔から代数や幾何には興味が無く全くやってこなかったのだが、社会人として中堅になっている今になってやる必要性に迫られるとは思っておらず、数学とはどこで交差するか本当に分からない不思議なものであると再認識した。
ど素人の状態から一か月くらいでざっくりと読んでいるので本質的な勘違いがあったらすみません。
本の目次と概略
第1章 位相空間論
第2章 群
第3章 いろいろな位相空間
第4章 基本群
第5章 被覆空間
第6章 組みひも群
第1章と第2章は復習であり、位相幾何学としては第3章から始まる。そしてメインは第4章の基本群と第5章の被覆空間である。第6章は組みひもに対するひとつの応用となる。なのでモチベーション的に第6章は読んでいない。
やりたいのは球面$${S^2}$$とトーラス(浮き輪)$${T^2}$$の区別の数学的定式化であり、硬い幾何であれば全く違うのは当たり前であるが、対象の可微分性を抽象化しある部分で連続変形によって対象は同じと見た時(位相幾何として見た時、例えば直感的にはひもや粘土)にどこにその本質があるかである。抽象的区別を用いれば曲面というのはより判別不能になる。ここで本質的に違う曲面が数的に制御できない分だけ存在するのは複雑すぎるが、反面曲面に開いた穴というのは区別したいというのがある。そしてこの区別法には基本群という考え方を用いる。曲面に輪っかをかける。その輪っかを連続的に縮小させ一点まで縮小できるのかを考える。この時に球面にかけられた任意の輪っかは一点に縮小できるが、トーラス上の輪っかはドーナツの性質を活かしかけられた輪っかについてはどうやっても一点に縮小出来ない。この輪っかを縮小関係について同一視し、同値類をとり、互いに違う同値類を集めれば群になる。これを基本群と呼ぶ。つまり位相幾何における曲面の分類は基本群を通して代数構造の違いと見做せるのである。一般的に基本群の特定は難しい問題である為、補助的な定理を駆使しその情景をどうにか捉えたいという試みがされるが、その補助の森に迷いながらも基本群の計算が究極的な問題という事は見失わぬようにしたい。
被覆空間は基本群の計算の為のテクニックである。ある位相空間(曲面)がある時にそのただ一つの姿をどのようなrepresentationとして把握するかは悩みどころである。例えば$${S^1}$$という位相空間は指数関数$${e^{it}}$$を用いて$${e: \mathbb{R} \rightarrow S^1}$$として把握するのが自然に思えるだろう(※ただし単射ではなくなる)。実際このように単連結な空間(※基本群が自明な空間)で対象の空間を被覆すると基本群の計算が被覆空間(※被覆写像の性質)の問題と変わらない事が示される。この時の写像$${e}$$を被覆写像と呼ぶ。そして例えばこの写像のファイバー(※被覆写像の逆像)を求める事により$${S^1}$$の基本群が$${\mathbb{Z}}$$と同型である事が示される。
第1章 位相空間論
位相空間とは空間に収束の概念が定義され、即ち関数の連続性が定義される可能性のある空間である。位相幾何の問題としての対象は関数の可微分性が本質的に影響しないものになる。
さて、極めて数学の建前的だが、ユークリッド空間という綺麗すぎる空間ではあらゆる奇特な空間が存在してしまい、現実的にそれが本質的かはさておきそれら変な空間も対象として位相空間の分類問題を考えなければならない。つまり残念なことに我々は抽象的な位相空間も学習対象としなければならないということである。故にこの1章にて抽象位相空間においてもある程度の結果を把握しておくことは重要になる。
例えば多項式の系$${f \in T}$$を与えた時、その零点の全体$${f = 0}$$を$${Z(T)}$$と書くとき、これを閉集合とする$${T}$$に対する系を閉集合族と定義すれば$${\mathbb{C}^n}$$に対して簡単に補有限位相と呼ばれる変な位相空間を作成することが出来る。
しかし、あらゆる位相空間があるものの本書における位相幾何的な制御として最も重要な性質は連結性或いは弧状連結性(※櫛空間とよばれる空間はこれらの概念を峻別する反例である)である。これは基本群が輪っかをかける事周りの考察だった事からも近い所にある概念であることが分かるだろう。
第2章 群
繰り返しになるが球面$${S^2}$$とトーラス$${T^2}$$的な幾何の区別は代数的区別(基本群による区別)である。即ち群も復習しなければならない。
準同型定理は良いとして、最も重要な概念のひとつは普遍写像性質という概念とそれが自由性からくるものであるという事である。即ち集合$${X=\{x_1, \cdots ,x_n\}}$$に対して、$${F=\langle X \rangle = \{a_1 x_1 + \cdots + a_n x_n\}}$$と定義する時、$${F}$$を自由と言うのだが、これが普遍写像性質が言える為の本質的特徴づけなのである(※普遍写像性質の詳細は略)。
第4章において自由の概念を群上で展開することで自由群とその演算である自由積が得られ、更にその一般化である融合積が定義できるが、基本群が別の基本群たちの融合積で表される時、大元の基本群はそのオペランドの基本群の計算を行う事に帰着出来るという定理をザイフェルト-ファン・カンペンの定理という。
第3章 いろいろな位相空間
最もメインとなるテーマは位相空間(位相多様体)の分類問題である。ここで例えば2次元位相多様体とは曲面が2次元ユークリッド空間における境界付き上半平面$${\mathbb{R}_{\geq 0}^2}$$の部分集合でrepresentation出来る事である(もちろん同相写像として)。この境界$${\partial \mathbb{R}_{\geq 0}^2}$$は使っても使わなくも良いが、これを使わない場合かつコンパクトな場合に閉多様体、2次元閉多様体を閉曲面と呼ぶ。例としてトーラスは閉曲面である。
クラインの壺などは閉曲面ながら3次元として作成不能なので、等化図を用いると見通しが良い。等化図とはノリ的にはサイコロの展開図みたいなものであり、実分析をする際に扱いやすい。
3章における最も興味深い定理は閉曲面の分類定理である。これによると任意の閉曲面は球面$${S^2}$$かトーラスのg$${\geq 1}$$個の連結$${\Sigma_g}$$か実射影空間のg$${\geq 1}$$個の連結$${N_g}$$のいずれかに同相である。そしてそのいずれも同相でない事を基本群の考え方を用いて後章において示されるというストーリーになる。
第4章 基本群
実はこの基本群の考え方と被覆空間の考え方は「本の目次と概略」の節でざっくり述べているし、具体的に述べると深くてキリがなくなるので止めておくが、ホモトピーという概念について少しだけ述べておく。
概略にて解説した輪っかを縮める行為をするために、その系列を同値と見るための概念がホモトピーである。まずは道、と言っても単に位相空間上の$${[0, 1]}$$上の連続関数を定義する。(念の為確認しておくが関数のクラスとして必要十分なのは常に連続性である。)道が2つある時に、2パラメータのホモトピーと呼ばれる連続関数$${H}$$が定義できれば両道はホモトピックであるといい同値と見なす。ホモトピーは片方のパラメータ$${t}$$により道の最初から最後を表し、残るパラメータ$${s}$$でそれぞれの道中$${t_0}$$の道間の連続的な繋ぎを表すものである。このようにして道のホモトピー類が出来る。そしてホモトピー類は同相より粗く、基本群はホモトピー同値な弧状連結空間に対しては同型になる。前章の曲面の分類問題の同相峻別性はこの考え方を用いて示される。
第5章 被覆空間
深く入り込んでしまうので全面的に省略するが、ひとつ重要なのは概略で述べた単連結な空間による位相空間の被覆(※普遍被覆)であり、これにより基本群の計算をファイバー(※被覆写像の逆像)の計算のみに帰着できるということである。
実は本を読みながら上記記事を参考にさせてもらった。基本的かつ重要な定理とそれに対するコメントが端的に書かれており、私の様な幾何学素人にも分かりやすい素晴らしい記事である。
6章の「組みひも群」は興味の問題で読んでいない。
まとめ
幾何学をやってみて使う脳みそが今までにない所で、なかなか苦しかったです。ただ、イメージ的に可微分多様体とか微分幾何とかよりも面倒そうな計算が無い分良いのかなと思います(※興味も多岐に渡っており、社会人で時間が無いので)。
これで調和解析の謎は一部解けそうです。残りは表現論もやらないとと思っています。しかし、純粋ばかりやっていて大切にしたい応用部分がおざなりになることは避けたいですが。
しかしこういうのも案外楽しかったです。では!