伊那谷日記⑦りんご園観察記(前編)
買い物へと行く道の途中に、小さなりんご園がある。
4月から花が咲いたり、実がなったりしている様子を書こうと思っていたのに先延ばしにして、もう7月になってしまった。
写真も撮りたかったのに、結局まだ一枚しか撮れてない。
私がぐずぐずしている間に、りんごはあっという間に大きくなって、7月上旬の今はスモモくらいの大きさになっている。
スモモと言うのが大きさの物差しに適切か不安なところだが、テニスボールより小さく、ピンポン球より大きい感じだろうか。
色は緑灰色で日光に当たる上側部分が赤味がかっている。
リンゴの木の樹皮は灰色がかった白色で、樹皮がめくれる様子はあまり無く、白い油絵の具をもったりと塗りたくったような質感をしている。
わい化栽培で高さを出さないように育てられたりんごの枝は斜め下に引っ張られるように伸びているので、葉っぱのない時期には奇妙な幽霊が畑に並んでいるように見える。
初めてのこのわい化栽培のリンゴの木を見たときは木が逆さまに突き刺さっている様に思えて異様な光景に見えた。
作業の安全性や効率、収益確保の早期化などわい化栽培のメリットは十分理解できるのだが、ちょっと美しく思えないのが残念なところである。
しかし、葉が繁ってくると枝の姿は隠され、新芽の透明感のある若草色に心うきうき、りんご園の隣を通るたびに観察してしまう。
桜の花の少し後にりんごも花をつける。桜と同じバラ科の植物なので花の形も、花の付き方も桜に似ている。花の色だけはピンクでなく白、これも品種によって違うのだろうけど。
若草色の葉っぱと白い花の取り合わせは可愛らしい春の光景だ。今年は暑すぎて春らしさというより夏だったが。
この高温は作柄に影響しないのだろうか?
花はあっという間に咲いて、散るのも早い。
虫たち、または人の手による受粉によってりんごは実を結ぶ。
最初のうちはほんとに小さくて、新体操の手具の一つクラブのような形をしている。それが一箇所から5〜6本でている。
それが小さい梅くらいの大きさになる頃、摘果が行われる。摘果と言うのは実を間引くことで、一箇所から5〜6本出ていたものを真ん中の一つだけ残して後は全部取ってしまう事だ。真ん中の実が何らかのダメージを受けてる場合は他の実で一番良さそうなものだけを残す。
この摘果の作業は人の手作業で、全ての実に一度は触ることになるので非常に手間のかかる作業だ。
いくらわい化栽培と言っても完全にハシゴを使わない高さにはできないので、ハシゴを持って木のあちらこちらに回り込み作業するのはかなりの重労働だ。小さな高所作業車みたいな農業機械もあるが、農業機械は高価だし台数は限られるだろう。
このときばかりは小さいりんご園でもお手伝いを頼んで4〜5人で作業していた。
大きなりんご園になると作業が間に合わなくなるからだろうか花が咲いてるときから摘花の作業に入る。本来であれば受粉、結実がしっかり確認取れてから摘果の作業をしたほうがりんごのロスが少ないと思うのだが、摘果が遅れれば遅れるほどりんごの実は小さくなってしまう。
なので摘花から行う園もあれば、摘果のみを行う園もある。
摘花は文字通り花を摘む作業だ。作業が進んで後ろを振り返れば白い花の絨毯がずっと続いている。明日になればカラカラに渇いてしまうだろうりんごの花。作業している者だけ見ることのできる美景だと思う。
摘花、摘果のおかげで6個の実が栄養を取り合っている状況から、1つの実に栄養が集中的に送られるようになる。
すると目に見えてりんごの実は大きくなった。あっという間にピンポン球になって、そこからひと月、もうすぐテニスボール位になりそうだ。
早生品種もできて、お盆過ぎには今年のりんごの収穫が始まり、12月まで続く。
私のりんごの観察もまだまだ続きそうだ。
りんごが赤く色付くのを楽しみに、今日も買い物に出かけよう。
おまけ
農家さんはこの間何回も農薬で殺菌、防虫を行っている。バラ科の植物は非常に虫がつきやすい。農薬は基本風の少ない早朝に散布されているので、その現場に出くわすことはあまり無い。
このクソ暑いなか、全身雨合羽をきてゴーグル、マスク、長靴、ゴム手と完全防備で農薬を散布するのは本当に大変なこと。それでも農薬散布のあとに気分が悪くなったりするらしい。それも慣行農法であればシーズン通して10以上は行っているらしいので本当に頭が下がる。
そして世の中には無農薬でりんごを作った方もいる。本当に奇跡のりんごだと思う。