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さいかい4

“じゃ仕事終わったら行くわ“

あまりにあっさりと決まった予定に期待感と罪悪感が募る。

期待感が、やや優勢だ

案の定、こちらの事情を少し吐露した時点で
分かりやすくトシはわくわくしていた。

そういう人だ。

バカ正直に事情を吐露するわたしもわたしだが。

きっとトシもわかっている。
着信に対して返事をした時点でわたしの心は決まっていたのだ。

明日わたしは“都合よく“してもらう。


ーーーーーーーーー


翌日。

トシから到着の報せが届いてしまった。

ついた

愛想もへったくれもない3文字。

ゾワり

“職場出た時から準備万端なんだけど“

6階から降りるエレベーターの中で追撃のメッセージ

ゾワり

興奮されることに弱いわたしに、こうかはばつぐんだ!



見覚えしかないワンボックス。

当然のように荷物で埋まった助手席を尻目に
当然のように後部座席に乗り込む。

タイミングを合わせるように反対の扉からトシも後部座席に移動する。
運転席でわたしを見つけた時からずーっと、にやにや、にやにや。

「ほんとにきたね」

「約束しちゃったからね」

実に、1年ぶりだった。

「カーテンも閉めないと、えろいことしてるの見えちゃうよ」

「会うとは言ったけどするとは言ってない」

この期に及んでゴネ癖が出る自分にびっくりした。
トシは鼻で笑うだけだ。

無言で、所在なさげにしていたわたしの手を掴む。
こちらの様子を伺いながら、ゆっくりゆっくり
“準備万端“だったそこに、近づけていく。

礼儀というか、何というか、一応、軽く腕に力を入れて抗ってみる。
まぁ、抗っているフリとも言う。

再度トシが鼻で笑う。

「ちからよわっ」

言われたわたしは
気まずさと照れが五分五分ですよ、みたいな顔をする。

1年ぶりとは思えない、丁々発止のやり取りだ。

向こうは恥ずかしがらせたいし
こちらは恥ずかしがりたい

月並みな言い方だが、相性が良いのだ。
小馬鹿にしているような言動にも、腹が立たない。

ひょっとしたらお互いにちょっとだけ見下しあっているのかもしれない。

そんなことを妙に冷静に思っていると
ついに手が触れていた。

何もしていないのに

こんなに硬くなるものだったっけな

自分を省みる。

何もしていないのに

こんなに溢れちゃうものだったっけな

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