[書評]『広田弘毅「悲劇の宰相」の実像』/服部隆二(中公新書)
本書は戦前に外相や首相を歴任した広田弘毅の実像を描き出そうとしたものである。外交文書や周囲の人々の日記などから広田自身と広田外交を仔細に検討している。広田は福岡出身で、福岡の国家主義団体「玄洋社」の一員であった。それゆえ広田は冷静沈着な外交官としての1面に加え、「国士」としての1面もあった。広田は外務省主流派である幣原派とは距離を置き、幣原が志す欧米重視の姿勢ではなく、中国やソ連との外交を重視した。とはいえ広田は重光のような亜細亜主義者ではなく、「漠然とせる観念等に捉わるる事