知らないとヤバい! 「著作権」は全クリエイターの必修科目です|弁護士・木村剛大先生インタビュー【前編】
インターネットやSNSの利用が広がり、手軽に作品を公開したり情報発信ができるようになった今、著作権に関わるトラブルや悩みも増えています。
フリーランス協会の調査では、「知的財産権侵害についてなんらかの不安を感じたことがあるか?」という質問に対して「侵害されている不安を感じたことがある」と答えた人は48.8%、「侵害している不安を感じたことがある」と回答した人は56.2%に上りました。
クリエイターとして活躍し続けるためには、知的財産の理解が不可欠であることは、多くのクリエイターが実感しているところでしょう。今回は、イラストレーターやデザイナー、カメラマン、ライターなど、クリエイティブ系フリーランスの仕事と密接な関わりを持つ「著作権」について、弁護士の木村剛大先生にお話を伺いました。
クリエイターが著作権について知っておくべきワケ
フリーのクリエイターのなかには、著作権について学んだことがない人や法律や権利についての理解が不足している人も少なくありません。「日々の業務やスキルアップに手いっぱいで、著作権について学ぶ時間がとれない」と嘆く声も聞こえてきそうです。
しかし、木村さんは「知的財産の知識は、もはやクリエイターのスキルの一環です」と語ります。著作権について、きちんと知るべき理由はどんな点にあるのでしょうか。
「オフェンス」のための著作権理解
「『オフェンス』と『ディフェンス』の2つの側面があります。まず、オフェンスの観点としては、「自身の権利」を積極的にどう活用していくかを考えるためです。絵や写真、文章、Webデザインなどの表現には著作権が発生します。著作権の知識を持つことは、自身のサービスの価値を知ることにも関係します。
例えば、トートバッグにプリントするイラストの依頼を受け、納品したとしましょう。無事に発売され、報酬が支払われたあとに、そのイラストがノートやペンケースにも使用されていることがわかりました。
この場合、追加の報酬請求は可能でしょうか? それともクライアントの自由なのでしょうか? これは、著作権についてどのように取り決めたかが、ポイントになります。
著作権を譲渡していた場合は、基本的にクライアントが自由に使うことができます。
他方で、著作権は譲渡せず、「あくまでトートバッグのデザイン」と利用範囲を決めてクライアントに承諾している場合は、その利用範囲外の利用になります。そのため、クリエイターは追加の報酬請求をすることができます。
著作権の知識を身につけ、自身がどんなサービスを提供し、何に対する対価を得ているのかきちんと認識すること。これが、自身の権利を守り、活用するうえでの基本となります」
「ディフェンス」のための著作権理解
「もうひとつのデイフェンスの観点は、「侵害してしまう側」にならないようにするためです。
クリエイターのみなさんは、文章を引用したりイラストを利用したり、他人の著作物を使用する場面が日常的にあると思います。そうしたとき、どのような手続きが必要か、理解しておくことが大切です。
昨今、著作権の侵害について、世間の目は非常に厳しくなっています。当事者間でのトラブルのほか、SNSでの炎上リスクもあり、ひとたび問題が起きれば、その影響は甚大です。著作権や権利について知ることは、クリエイターとしての信頼性やプロフェッショナリズムを高めることにもつながると同時に、自分自身の身を守ることにも直結します」
創作性のある「表現」を保護するのが著作権
クリエイターとして仕事をしていくためには、不可欠とも言える著作権についての知識。ただ、なんとなく創作性のある「表現には著作権が発生する」ことは理解していても、自分自身の仕事においてどう具体的に適用されるかは曖昧なまま、という人も多いでしょう。
著作権とはどんな権利なのか、改めておさらいしていきましょう。
著作権は、「知的財産権」のひとつ。
知的財産権は「財産的な価値ある情報」の利用をコントロールする権利です。そのうち、著作権は、文化の発展に寄与する一定の情報の利用をある程度コントロールする権利である、と木村先生は解説されています。
「著作物は、著作権法に『思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの』と定義されています。また、著作権法ではさまざまな著作物の例もあげられています。具体的には、小説、音楽や舞踊、絵画、建築、地図、映画、写真、プログラムなどです」
「とはいえ、すべての著作物が著作権法に明記されているわけではありません。例えば書道の書や生花は著作物の具体例には書かれていませんが、美術の著作物となります」
また、著作権法では、創作性のある「表現は保護するが、アイデアは保護しない」という考え方があります。
料理のレシピを例に考えてみましょう。
「考案したレシピを文章や写真を使って書籍にまとめた場合、その書籍には著者の個性が表れていますので、創作性のある表現となり、『著作物』にあたります。
ただ、そこに掲載されているレシピの情報自体は著作物ではありません。そのため、読者がレシピに従って料理を作ることは自由です。なぜなら、レシピの情報は、具体的な表現ではないアイデアだからです。
著作権は登録されているわけではないため、あくまで具体的な表現の限度での保護でなければ、権利の範囲があまりにも不明確になってしまいます。そうすると、後発者の表現活動にも支障が生じてしまいますよね。
逆に、同じレシピの情報であっても、表現方法はさまざまです。
著作権法は、多様な表現が生まれることを文化の発展と捉えていますので、さまざまな表現が生まれるアイデアには著作権の保護を及ぼすべきではないと考えるのです。
つまり、オリジナルの料理を考案したからといって、その手順を誰かが真似したり、似たアイデアを使って別のレシピを作成したりすることは、元の書籍のテキストと実質的に同じ表現をしているといった事情がない限り、著作権で禁じることはできない、というわけです。
著作権の保護対象は、明確な線引きが難しい部分があり、判断に迷うこともあるでしょう。“表現”は保護し、“アイデア”は著作権で保護をしないという考え方を知っておくと、ひとつの指針になりますね」
木村先生が共著・法律監修で携わった『著作権トラブル解決のバイブル!クリエイターのための権利の本〔改訂版〕』には、著作権についてさまざまな事例とともに紹介され、わかりやすく書かれています。
自身の仕事に関わりそうな部分だけでもピックアップして知識を入れておくと、知財に関しての迷いが払拭されるはずです。
自分の権利を守るために
自身の権利を侵害されないようにするために、日頃からすべきことはあるでしょうか。
「クライアントワークにおいては、著作権について契約書できちんと定めておくことが大切です。著作権を誰が持つのか、利用の範囲などを事前に確認しましょう」
「著作権を譲渡する必要がない場合は、権利が自分に帰属するようにしておきましょう。また、譲渡しない場合も条項をよく確認し、クライアントの利用範囲を定めておきましょう。そして、その範囲を超える利用がされたときには、すぐに異議申し立てをしてください。ためらわずに記録に残る形で連絡を入れることが大事です」
クレームを伝えないと、後々裁判になった場合に不利になることもあるでしょうか。
「合意した範囲外の利用がされていることをクリエイターが知っていたにもかかわらず、異議を出さないということは、合意した、承諾したことを裏付けるひとつの事情として考慮されてしまう可能性があります。書面でもメールでも、記録に残る形でクレームを入れることが大切です。クレームといっても、喧嘩腰になる必要はありません。認識と異なる点をまずは連絡し、クライアントと協議をすればよいのです」
「例えば、まずはこのようなメールで先方に確認をするだけでもかまいません。大切なのは、事実を認識したらなるべく速やかに自分からアクションを起こすこと。利用の範囲に関して双方で再確認し、契約の範囲外の利用については再度、条件の協議をするようにしましょう」
とはいえ、「おかしいな」と思っても、「クレームを入れることで、仕事を失うかもしれない」と二の足を踏んでしまう人も少なくないでしょう。
「取引条件に関しては、2024年11月にフリーランス保護法が施行されて業務委託時の取引条件の明示が義務になります。そのため、発注者からフリーランスに対して、条件提示が書面でされることが増えていくと思います。
ただ、いずれにしろ取引条件や契約内容は、自分自身できちんと目を通し、確認することが大切です。また、納品したら終わりではなく、自分の納品物がどのように利用されているかをチェックすることも、知財を守るための重要な姿勢、といえますね」
権利を侵害された、と思ったら…
「イラストを盗用されたかもしれない」「たまたま目にした記事の文章が、以前に自分が発表した記事と酷似していた」など、自身の権利を侵害されたと感じるときがあるかもしれません。こんなとき、まずどう行動するのがよいのでしょうか。
「よくSNSで、『盗用された』『パクられた』などと発信する方がいらっしゃいます。気持ちはわかりますが、これはファーストステップとしてはNGです。まずは当事者に直接言うことが大切です」
SNSへの投稿は、あまりにリスクが大きいと木村先生は強調します。
「著作権侵害の判断は非常に難しいです。
結果として権利の侵害ではなかった場合、逆に名誉毀損や不正競争防止法違反で訴えられるリスクもあるのです。SNSの投稿は公に発言しているのと同じこと。頭にきたからといって勢いで投稿すると、反対に自分が訴えられて損害賠償請求をされる可能性もありますし、相手方に有利な交渉材料を与えてしまうことにもなりますので、気をつけましょう」
例えば、バニーガール衣装事件では、バニーガールの衣装を製造、販売する原告が、「被告商品は、原告商品の『コピー商品』や『パクリ』である」とTwitterに投稿した行為が虚偽事実の告知流布(不正競争防止法2条1項21号)にあたるとされ、55万円の損害賠償が認められています。
裁判所は、被告商品の販売が原告商品の権利侵害に当たらないと判断したのです。
自身の権利や他人の権利について、「もしかしたら著作権の侵害になっていないかな」と気になる場合は、文化庁の「文化芸術活動に関する法律相談窓口」へ。専門的な知識や経験を有する弁護士が相談に対応してくれます。
また、2024年9月15日より、フリーランス協会が一般会員向けに提供する弁護士費用保険『フリーガル』の補償範囲が拡充されます。報酬トラブルだけでなく、著作権、商標権、特許権などの知的財産権の被侵害トラブルにも利用できるようになります。
詳しくはこちらをご覧ください。
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