やりたい仕事が向こうからやってくる!? 自己ブランディングの第一歩「タグライン」をつくろう
「得意なテーマで仕事がしたい」、「憧れの人と協働したい」、「リスペクトできる仲間とプロジェクトを進めたい」…。そんな目標と、現実のギャップを埋めるのに必要なのがブランディングです。ブランディングするーー「私は〇〇です」と公言し、他者や他社と差別化を図るーーことで、やりたい仕事が向こうからやってくる。一緒に仕事をしたい人が、自分を選んでくれる。これはフリーランスとして活動する上で、誰もが目指す理想のカタチではないでしょうか。
しかしここで疑問に思うのが、フリーランスのブランディングの始め方です。
株式会社サインコサインの加来幸樹さんは、自己ブランディングのキーワードは“タグライン”だと言います。
「現代は、昨日まで正解だったものが今日には不正解になってしまうこともあるくらいに変化が激しく様々な選択肢が新たに生まれ続ける時代。唯一無二のブランドになるには、このような時代の中でも一貫した行動を選択し続けることが大事です。その選択のための羅針盤(コンパス)となるのが『タグライン』だと思ってください」。
タグライン……一体どんなものなのでしょう?
この記事では、タグラインとは何か、タグラインのつくり方、そしてタグラインを掲げた先にどんな変化があるのかをわかりやすくまとめていきます。
※この記事は、フリーランス協会「Independent Power Fes 2023」内のセッション「自分の言葉で自分だけのタグラインをつくる」の内容をもとに作成しました。
タグラインとは、事業をブランド化する指針
株式会社サインコサインの代表取締役の加来幸樹さんは、100を超える企業で、ブランドアイデンティティの共創や、インターナルブランディングの実現を支援しています。今回のテーマとなる『タグライン』とは、ネーミング、ミッション、パーパス、ビジョン、バリューなど、経営の指針となるブランドアイデンティティの1つです。加来さんの言葉でタグラインを説明すると「自分が提供する価値への自分の覚悟を、短い自分の言葉で宣言するもの」となります。
ちなみに身近にあるわかりやすいタグラインの一例として、加来さんの一押しは、日清食品「チキンラーメン」の“すぐおいしい、すごくおいしい”だそう。
「お湯をかけて3分で食べられる“すぐ”の提供価値。そして心地よいリズムにのせて“すごくおいしい”ことを伝えてくれる。このタグラインは商品の、価値への覚悟を表す言葉だと思います」。
フリーランスにとってタグラインが必要な理由を、加来さんはこう説明します。
「会社組織、フリーランスともに、目標は『事業=ブランド』にすることです。ブランドとは僕流に解釈すると、そこに関わる顧客、働く仲間、株主などのステークホルダーが、共通して事業に抱くイメージのことだと思います。タグラインが明確になると、周囲が仕事を差別化してくれる。結果、ブランディングが成功し、共感してほしい人に共感してもらえ、選ばれたい人に選ばれるようになるのです」。
普遍的な価値観がない時代だからこそ、タグラインは大切
しかしそんな加来さんも「今は、一貫したブランディングを継続するのが難しい時代」と言います。生成系AIの台頭なども相まって価値の高いものが低い価格で流通するコモディティ化がどんどん進行しています。そのため差別化してブランドを立ち上げたとしても、持続させることが難しいのです。以前は『何を、いくらで売るのか?』のWHATが必要でしたが、それだけでは持続的な差別化は難しい。今は『誰が、何のためにやっているのか?』のWHYとWHOを大切にしながら継続し、結果としての差別化を目指す必要があるのです。
「よく企業やフリーランスのブランディングは『タグラインや理念を掲げるべきなのか?』それとも、『多くの人が求めているものに合わせるべきなのか?』と質問されます。これについては、僕は迷わず前者だと答えます。パンデミックの発生や生成AIにより、ここ数年で社会が大きく変化しました。住む場所や働き方、生き方の選択肢も増えた上に、普遍的な正解がない。そんな時代に“選ばれるブランド”になろうと思ったら、時代に左右されない『一貫した行動』をとり続けるしかありません。そのためには、行動の羅針盤となるタグラインが必要です。『自分の覚悟を、自分の言葉で掲げる』タグラインを指針にすることで、フリーランスもブランディングができると考えています」。
自分の言葉で、自分らしいタグラインを作ってみよう!
今の時代にこそタグラインが大切だと断言する加来さんに、タグラインの作り方を教えてもらいました。
「あなたが覚悟を持てるタグラインを言葉にするためにはまず企業や個人として表現したい本質を発見することが大切です。僕は言葉の根幹にあたる部分を、言幹(ことみき)と呼んでいます。そこから生まれる言葉こそが、自分にしか作れないオリジナルのタグラインだと思っています」。
加来さんは4つのステップでタグラインを完成させます。ステップ1〜3で、言幹を探り、ステップ4では、掲げる言葉をアウトプットします。
【ステップ1 『事業の自己紹介』を考える】
加来さんの会社、サインコサインの例を下記に示しました。
「1個1個を丁寧に考えるより、10個出すことが大切です。その後、直感で“これは自分にとって重要”と思うのものに〇を、“強いて言えばあまり重要ではない”と思うものに×をつけます」
【ステップ 2 『事業の長所と短所』を考える】
「ステップ2では、自分の事業の強み(長所)と課題(短所)を考えます。でも自分の物差しだけでは長所と短所はわかりにくいもの。そこでライバル社や類似サービスをベンチマークとして置き、自事業と比較することで、自分の事業の長所と短所が探しやすくなります」。
【ステップ3 『大切にしていること』を考える】
「自分の事業における本当の『自分らしさ』を発見するヒントは、実は長所ではなく、短所に隠れているのです。多くの企業では“これができる”とか、“こんな理想がある”といった側面からアイデンティティを探ろうとしますが、それらはどうしても「普遍的にいいこと」に留まっていることも多いです。一方で”これはできない”とか”これはあえて大切にしない”といった、短所だと思うことや手放せていると認識しているマイナス部分を言い換えることで見えてくる部分にこそ、僕は自分の事業の本質や『らしさ』があると思っています」
もう少し詳しく、加来さんは説明します。
「例えばうちの会社の場合、『マネタイズできている手段が少ない』というのも1つの短所です。これは短期的な収入にこだわりすぎず、納得のいく仕事を丁寧にやっていきたいという気持ちの表れです。つまり、短所は裏を返せば“短期的な収益にこだわらない”と言うことになります」。
“あえてこれを大切にしないのはなぜ?”、“なぜ、これを短所だと認めるの?”と自問自答しながら考えてみましょう。
【ステップ4 『タグライン』を考える】
最後はいよいよタグラインを言語化する作業です。
「タグライン作りを調理にたとえると、ステップ3までが食材集めです。質の良い食材が集まれば、あとは『煮る、焼く、蒸す、炒める』といったシンプルな調理法で、おいしい料理が出来上がります。タグラインも素材である言幹が良いものであれば、刺さる言葉が生まれてくるのです」。
タグラインを作るとき、加来さんがよく使う5つの技法を紹介します。
「これらの“調理法”を使う、使わないはどちらでも構いません。それよりも大事なのは、まずは言幹を整理し、タグラインを作ってみることです。タグラインはいつでも変えられますし、常にアップデートされていくものです。この先、意思決定をすればするほど、より明確なタグラインができると思うので、定期的に見直すことも大切です」
あなたらしいタグラインで事業の魅力をアピールする
完成したタグラインは周囲の人に見せてフィードバックをもらい、さらにブラッシュアップするのが重要だそう。このくり返しで目指すブランドのカタチが見えてきます。
「タグラインの始めの一歩は、言幹を探ることです。ここで発見した思いや言葉が、自分の事業の価値につながります」。
あなたの事業を表す、より解像度の高いタグラインを、加来さんの教えてくれたステップを踏まえてつくってみましょう。
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