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「聞く」は「話す」より難しい!? 行列のできるインタビュアーの「聞く技術」とは
ー人には口が一つなのに、
耳は二つあるのは何故か。
それは自分が話す倍だけ
他人の話を
聞かなければならないからだー
これはユダヤの格言です。
人はついつい自分のことを話すことに夢中になってしまいます。
話し手が話し終わらないうちに、自分の話をし始めてしまったこともあるかもしれません。
聞くことは話すことより難しいのです。
また周りを見渡してみると、人が集まっている人は大体が聞き上手な人です。
うんうんとしっかり聞いてくれる人のところに、人は集まるのです。
みんな自分の話を聞いてほしい、と思っているのではないでしょうか。
聞くことは話すことより難しく、
みんな話を聞いてくれる人を求めているからこそ、
聞ける人になれたら、役に立てるシーンも増えそうな気がします。
今回オススメしたいのは宮本恵理子さんが書かれた『聞く技術』(ダイヤモンド社)です。
宮本恵理子さんは大学卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP)に入社し、「日経WOMAN」などの雑誌編集・取材執筆に携わりました。
2009年末にフリーランスとして活動を始め、主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆なさっています。
編集者として書籍、雑誌、ウェブコンテンツなども制作。主な著書は『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』(日経BP)などです。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」も主宰なさっています。
「聞き手はしっかり聞いているつもりなのに話し手は聞いてもらえていないと感じる。」
プライベートでも職場でも、このような場面に遭遇することがよくあります。
みなさんはいかがでしょうか。
もし聞くことが一つの技術であり、その技術を習得することでいまよりも人間関係が良好になったり、仕事がスムーズに進むようになるとしたら、毎日がより豊かなものになるのではないかと思います。
この本には長年インタビューライターとして多くの人の話を聞きだしてきた宮本さんならではのヒントがそたくさん書いてあります。
聞く技術とは?
聞く技術とは、
「聞き手の力で話し手の『本当に言いたいこと』を解きほぐしていく。話をしたくなるような環境を整え、事前の準備や事後のフォローをして、話し手が安心して心を開くための手伝いをする」ことだと書いてありました。
もしこの聞く技術を習得し、聞く力を高めることができたら、プライベートでも職場でもよい対話ができ、よりよい人間関係を築くことができるのではないでしょうか。
本では「聞く技術」を
などの切り口で、宮本さんご本人の実例とともに分かりやすく説明してあります。
いますぐにでも真似したい!と思うことがいくつも書いてありました。
インタビュー開始5分で信頼を得る
初めましての人と話をする場合、冒頭に信頼関係を築くことがとても重要だと書いてあります。はじめに信頼関係を築くことができるかどうかでそのあとの会話の密度がまったく変わってくるそうです。
冒頭に信頼関係を築くために宮本さんがやっていることがいくつか書いてありました。
その中でも特に真似してみたいと思ったことが「話し手の年表を作ること」です。
いつも宮本さんはインタビューする話し手の年表を手書きで作成するそうです。
それを話し手に見せることで、「あなたのことをどのくらい知っているか」を伝えることができ、既知の情報の先にある深い話から話をはじめられたり、年表の空白期間について質問することで、思いがけないお話に繋がったりするということです。
この年表作成はインタビューだけではなく1on1やヒアリングの場でも有効だと書いてありました。
今後、仕事でヒアリングや面談をする際には「あなたの年表」を作って臨もうと思いました。
質問以外の会話力
インタビュアーというと質問のプロというイメージがありますが、プロのインタビュアーである宮本さんはインタビューの場で「質問らしい質問」をあまりしないそうです。
では質問の代わりに何をしているのか。
宮本さんはできるだけ自然体な会話になるように、質問をするのではなく、話し手の言葉に反応する「リアクション」を繰り返すという感覚で話をするそうです。
本には会話の流れをつくるリアクションとして、宮本さんが実際使っている4つの方法が書いてありました。
①掘る
話し手の話を掘り下げることでエピソードの解像度を上げ、その時の状況や感情、前後の変化を明らかにしていくリアクションです。
例えば、
この文面を読んで感じたことが1つあります。
通常、深堀りの質問では「なぜ?」「どうして?」、つまりWhyをよく使います。しかし宮本さんの会話にWhyは出てきません。
「なぜ?」「どうして?」を多用されると質問された方は詰問されている、責められていると感じることがあるそうです。
宮本さんは「なぜ?」「どうして?」ではない言葉で話し手を深堀していきます。
あえてWhyを使わないことで話し手の言葉を深く掘りながらも、自然な会話に繋がっていくのだと思いました。
このテクニックはいますぐにでも真似したいものです。
②繋げる
エピソードとエピソードの中に結びつきを発見して、繋げていくリアクションです。
例えば
このようにエピソードをつなげることで、その人が無意識に大切にしてきた価値観やこだわりを再認識することもあるそうです。
③転がす
話し手の答えを他のシーンに横展開、つまり応用できるかどうかを確かめるリアクションです。
例えば
「転がす」と「繋げる」の差は、「転がす」は話し手がまだ話していない事柄との関連性を探っていくという点です。
「繋げる」と同様、「転がす」ことでも話し手の無自覚な価値観やこだわりの発見につながることがあるそうです。
新しい価値観やこだわりを見つけられたら、そのこと自体が聞き手から話し手へのギフトになるような気がします。
④渡す
話し手が語った言葉を読者の目線に立って、咀嚼し表現を変えてより分かりやすくするリアクションです。
例えば
インタビューを受ける人は一般的に「すごい人」が多いです。
話し手の言葉を「すごい人」の言葉、「別世界の人」の言葉として読者に届けるのではなく、読者の役に立つ言葉として届けるために、この「ブリッジ役」としてのリアクションは欠かせないものなのだと思います。
本の終わりに宮本さんの10年以上前の出来事が書いてありました。
宮本さんがある女性をインタビューした時のこと。
インタビュー後、宮本さんの原稿をみたお嬢様から一枚のFAXを受け取ったそうです。
「もっと単純で愛すべき人物である母の姿を表現してください。」
当時宮本さんはインタビューをした女性に対して、こうあってほしいというイメージにとらわれ過ぎてしまい、その型に引き寄せるようにして話を聞いてしまったそうです。
宮本さんは自戒のためにこのFAXをいまだに見返しているそうです。
プロのインタビュアーになった今でもこのように自分を律している姿勢が素晴らしいと思いました。
私自身、聞くことを生業にしています。
自分の中のバイヤスをなくし、透明な自分になり、相手の心にそっと触れるように話を聞けるようになりたいと思っています。
話を聞くことで相手の心を癒したり、相手の心にエネルギーを貯められるように。
この本の中で真似できることはすぐにでも真似をして少しでも自分の聞く技術を高めたいと思います。
平井圭子
富山県出身。青山学院大学経営学部経営学科卒。
プロフェッショナルファームで10年以上人事業務に従事。妊娠・出産を経て人事系フリーランス&キャリアカウンセラーとして独立。現在はベンチャー企業の人事業務支援、大手法人のダイバーシティ&インクルージョン推進支援、大学・高校での相談業務に携わる。
仕事の目標は仕事が楽しいと思える人を増やすこと。
プライベートでやりたいことは全国の素敵な本屋さん巡りをすること。
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