花束もオーガニック| フランスのスローフラワー
衣食住の選択肢にオーガニックが浸透して久しい。普通のスーパーにも必ずオーガニックの棚がある。そんな中で意外と見落とされてきたのが、切り花である。フローリストに季節関わらずに並ぶ端正な色とりどりのバラ。普通のバラなら価格もだいたい安定的だ。でもちょっと考えたら、そこに違和感はないだろうか。
遠く外国から輸入される切り花
現在フランスで店先に並ぶ切り花の8割から9割は、多くはオランダ、また遠く南アフリカや南米、など外国で生産され、運ばれてきたものだ。安い賃金の人手を用い、生産を効率的にし、収穫後は長持ちさせるための化学肥料や農薬などが大量に使われている。直接口に入るものではないので、あまり神経質にならないのかもしれない。でも、あなたが買おうとする花束、誰かに贈ろうとする花束が、大量のフラワーマイレージと、環境破壊の上に作られていると知るのはそんなに気分の良いものではないだろう。
季節を運ぶ、ローカルな切り花
もともと穏やかな気候と豊かな土壌に恵まれたフランスは、自国で切り花生産ができない環境ではない。しかし輸入の切り花に押されたフランスの花卉園芸は存続の危機にある。80年代には4000軒あった切り花農家が、現在は350軒となっている。季節関わらず安定的な供給をするために、温室などで石油燃料を使って生産され、遠隔地から輸送される切り花生産を取り巻くマイナスの環境を改善すべく、スロー・フラワーのムーヴメントが生まれたのは、2000年代のアメリカでのことだ。ご想像の通り、スロー・フラワーのスローは、スロー・フードから来ている。そして、エシカルな方法で、季節のサイクルに寄り添ってローカルな花を生産供給するスロー・フラワーが、ここ数年でフランスにも着実に根付いてきている。
パリのスローフラワー・ムーヴメント
都市の緑化作戦が大々的に進んでいるパリ。その屋上緑化や都市農業の促進のためのプロジェクトの一つに、若い女性がたった一人で始めた切り花ファームが注目を集めている。デザイナーとしてロンドンで仕事をしていたという創設者のMasami Lavaultは、消費されていくばかりのデザインから離れて、バイオディナミックの農場や様々なところで経験を重ね、母方のルーツである日本にも赴いたのち、自らの切り花ファームを立ち上げた。全てナチュラルな方法で切り花を栽培するファームの土壌では日本から持ち帰ったEM菌が働いているそうだ。
そしてローカルなオーガニックの花を扱うフローリストがいる。北マレにあるパリらしいおしゃれなフラワー&カフェのコンセプト・ショップDésiréeは、二人の女性創設者AudreyとMathildeが2017年に立ち上げた100%フランス産の、エシカルな方法で栽培された花を扱うフローリストだ。注文の花束は自転車で届けられるなど、徹底してエコロジカルであると同時に、ローカルな季節の花で作るブーケは、さすがナチュラルかつ洗練されている。
昨今のフランスの家庭菜園の人気の理由のひとつには、安心安全な野菜や果物が収穫出来るということがある。庭づくりでも、自家製コンポストを設置したり、てんとう虫を導入したりと、なるべくナチュラルな方法が主流になっている。そして、その庭の花や野の花には季節を感じることができる。フローリストで手にする一本の花も、何かにつけて贈り贈られる花束も、美しくかつ、誰もに安心・安全な、季節のサイクルがもたらす自然の恵みを感じられるものであれば素晴らしい。