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【映画批評】シビル・ウォー アメリカ最後の日
なんともへんちくりんな映画だ。どう咀嚼すれば良いのか。とりあえずツッコミどころは満載だったので、それらを並べとけばとりあえず一つの記事にはできそうだ。
アメリカでかつての南北戦争のような内戦が起きたら…という割とありふれたテーマなんだが、これは「28日後…」のアレックス•ガーランド監督なんで、この手の「既存秩序の崩壊系映画」は得意なんじゃないかなあ、と。(多分この監督の名前を聞かなかったら観に行ってない)
アメリカは連邦国家なので、小さな国がたくさん集まっている。その中の有力な幾つかの州が反旗を翻し、どんぱちやり始め、連邦政府を追い詰めている…という近未来設定。
内戦で分断されたアメリカ国内のディストピア感に満ちた描写が見どころだ。主人公は伝説の戦場カメラマンの女性と彼女が率いるとあるプレスのクルーだが、要するにカメラを通して観客にカオスに満ちた崩壊した合衆国を見せつけたい訳である。キャラクター描写はとても浅くて、主人公ですら内面や来歴はサラッと語られるのみ。主人公というより狂言回しのような役割だ。
舞台設定に謎解き要素はあるのかないのか。そこまで深読みしなくたって良さそうだ。
というか、この映画は何が言いたかったんだろうか?最後までちゃんと観たけどよくわからなかった。
連邦政府の首都D.Cに迫るテキサス州とカリフォルニア州主体の西部連合軍だが、その軍隊の描写は珍妙そのもので現代戦をこれっぱかしも描写できていない。ウクライナとロシアの死闘があらゆるSF映画を超えてしまったことを思えば、この映画で描写される戦場は現実の足下にも及んでいない。
ドローン爆撃機や自律型無人機など、現実の戦場はとっくにターミネーター4に追いついている。今回のこの映画で描かれる戦場はまるで第一次世界大戦の頃の塹壕戦のようだし、軍隊が小火器しか持ってなくてまるで警察の特殊部隊みたいである。
戦闘機は派手に空を飛び回っているが、彼らは何の仕事もしていない。制空権を争うという概念がないようで、小銃持った兵隊がビルに立て籠って撃ち合ったりとか延々としてる。
1945年のベルリン包囲戦の時でさえソ連軍は空前の大規模火力を集中運用して都市はほぼ灰になったし、守るドイツも総統地下壕は何重にも防御を張り巡らせた、原爆にも耐えられそうな堅牢な要塞であった。しかし、この映画の大統領官邸はテレビで見るホワイトハウスそのもので、単なる大きな建物。こんなもん爆撃すりゃ終わりなのに、何故か小銃持った兵隊が命張って突撃していくのだ。意味がわからん。
核兵器の存在や拡散のリスクなども最重要テーマになるはずなのに、全く誰1人として口にもしない。いくら何でも奇妙だ。
大統領を守る警護隊は軍服すら着ておらず、黒スーツ着てサブマシンガンで武装。もうこの時点でこの映画が軍事をリアルに描く気は皆無なのだと理解できてしまったが、要するに今現在の合衆国の分断が行くとこまで行けばこの映画みたいになるかもよ?と、そう主張したいのだろうかね?知らんけど。
西部連合の軍隊が民間人を虐殺していたことを匂わせるシーンがあって、これがこの映画の最大の見どころなのだろう。ここは「28日後…」で見せた悲惨美みたいなものは描かれていたと思う。とはいえ、このシーンは「炎628」を参考にされたという触れ込みなのだが、そこはちょっとピンと来なかった。ここで登場する赤メガネのキチっぷりはどちらかといえば田舎ホラーとかで見られるような、やり過ぎたサイコパスって感じでもはやコメディだったし、現実感はほとんど感じられなかった。
プレスの連中をヒロイズムたっぷりに描いていたけど、どれほど強いコネを持つ戦場カメラマンでもあそこまで最前線で撃ち合う兵士達の隣で写真を撮るのは不可能じゃないですかね。それも現実感を著しく削いでいて興醒めだった。
多分もっと深いテーマや風刺が隠されてる映画だとわかるんだけど、深掘りしようとかもう一回観ようとか、どうしても思えない映画ですね。酷評してすまんな。ワタシが勝手に期待しすぎたようです。