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“TOP OUT”というシンプルな目的、壮大なプラン

本記事の目的


 「パラグライダーってなんで飛んでるの?」という質問をたまにされる。「スキーってなんで滑ってるの?」と同じニュアンスだから答えは「楽しいから」なんだけど、この質問はパラグライダーをした事ない人がフライヤーという存在を”謎の行動を金かけてしている変人”だと思っているが故の発言だと思う。

 パラグライダーにとどまらず、スポーツの新規参入者を増やすには、時間的、金銭的な投資をした上で得られるリターンを明確(かつエンタメ)にする必要性があると思う。そこで一つ私からパラグライダー業界に、よりパラグライダーの参入者を増やす為、また目標を失いつつあるフライヤーに新たなる目標を作る為の提案をしてみようと思う。

 またその上で現在私が目指す二つの具体的なパラグライダーの目標を紹介しようと思う。

 本記事はパラグライダーに興味がありパラグライダーというスポーツをもっと知りたい方、目標を見失いつつあるパラグライダーフライヤーまた指導者、業界関係者向けのものだ。

パラグライダー競技

 パラグライダーにはいくつかの大会がある。大会はそのスポーツの本質を極めていくものだからそれを紹介するのは意味がある。着地ポイントをどれだけ正確に出来るかを競うアキュラシー。いかに早く定められた地点を巡れるかを競うパイロンレース。空を飛ぶか自身の足で走るかを自身で決めていかに早く目的地に到着するかを競うハイクアンドフライ。主にパラグライダーの競技種目はその三つだ。

 Red BullはこのうちのハイクアンドフライをRed bull X-Alpsと銘打ってエンタメにした上でパラグライダーの目的(と有能性)を端的に提示している。
※アキュラシー要素も入っていて切り取り方が無限にある。

誰しもが大会を志向するわけではない

 ただ私としては別に大会で勝つ事も、ましてや出場する事も目的にはしていない。これは単純にただ楽しいからという理由で続けている意味もあるし、性質上戦闘民族ではないので戦うことがそもそもあまり好きではないからだ。

 これは割と一般的な意見だと思う。ただそうなると「空を飛びたい」という気持ちでパラグライダーを始めた人が初フライトを終えた後やパイロット資格を取った次の目標が見つけられなくなったり、また先の「なんで飛んでるの」の質問に答えられなそうだ。

シンプルな目的、壮大なプラン

 そこでパラグライダーフライヤーの一つの目標として“TOP OUT”という単語を使ってみるのはどうか。

 “TOP OUT”はフライヤーの用語の一つで、「飛び立った地点よりも高度を取ること」もしくは「フライトエリアの主峰よりも高く飛ぶこと」である。
つまりパラグライダーの目的を「自然の力を借りて上昇すること」というシンプルなモノに置き換える

 これはフライヤーだけでなく、一般人に対してもパラグライダーの目的がとても分かりやすいのではないだろうか。

TOP OUTの実践的目標

 ”TOP OUT”は初級フライヤーにとっては実際の意味の”飛び立った地点よりも高度を取る事”としてよい。まずは偶発的に、次に自身の能力で、まずはとにかく飛び立ったテイクオフよりも上昇することを目標とする。JPA(Japan paraglider association)のパイロット資格でいうとプライマリーパイロットあたりの目標として最適である。

 次にパイロットであれば、「フライトエリアの主峰よりも高く飛ぶこと」を目的としても良いし、フライトエリアのテイクオフがそもそも主峰のトップにある場合や主峰の標高が高すぎる場合など、海抜高度1000m TOP OUT、対地高度500mTOP OUT、20minutes TOP OUTなどエリアの高度やソアリングスタイルによってその意味を変化させても良い。

 さらにエキスパートパイロットの域まで行けば、東京都TOP OUT(海抜高度2017m)や関東TOP OUT(海抜高度2578m)など県や土地区分のTOP OUTを設定しても良いし、私が飛んでいるような白馬村である場合主峰が唐松岳(2696m)というすでにだいぶ高度がある為、そこまでの登山道にある目印である第一ケルンTOP OUTや八方池TOP OUTなどの設定をしても良い。

 スクールなどでもこの目標を導入し、ヘルメットスポーツであるパラグライダー用にステッカーなどを作り達成者にプレゼントするなどするとフライヤーも楽しく成長できるのではないだろうか。

日本TOP OUTという目標設定

 いま私はこの”TOP OUT”プランにおいて二つの目標を設定している。一つ目が日本TOP OUTだ。

 日本TOP OUTとは日本の主峰富士山(3776m)よりもパラグライダーという道具を使って高く飛ぶ事である。残念ながら富士山からのフライトは禁止されている為、この目標は非常に気象条件の整った3000m級の山岳エリアにおいて達成されるとイメージしている。

 リュックに入って持ち運び可能なフライトギアでそれを達成するというのはとてもワクワクするものだ。

感動の共有によるTOP OUT

  現在タンデムパイロット(二人乗りパイロット)の受験資格を得る為に勉強中の私だが、これはまだパラグライダーという乗り物の魅力に気づいていない人にダイレクトに「パラグライダーってすごいんだよ!」と伝える為に他ならない。

 感動の共有、そして同乗者の意識的なTOP OUTを目指しているわけだ。「変人がまた変なことを始めたわ」というニュアンスで語られるパラグライダーの魅力をまだ空を飛んだことがない皆の脳みそに刻み付けてやりたい。いや、本当に。

白馬三山TOP OUT

 先日2024年6月14日に唐松岳山荘上空で単独2954mを記録した事で唐松岳TOP OUT(2696m)を達成したと共に、白馬三山TOP OUT(白馬岳2932m)も同時に達成した。

 残念ながら北アルプスTOP OUT(奥穂高岳3190m)とはいかなかったが、自身の最高海抜高度2350m(イントラの力を借りて達成)を大幅に更新した。これは非常にうれしい事だ。

 このまま北アルプスTOP OUT(奥穂高岳3190m)からの日本アルプスTOP OUT(北岳3193m)を一気に推し進めたい。と、言いたいところだが次にコンディションが整うのはきっと冬入り前の秋、もしくは来年の春まで待たなくてはならない。

TOP OUTはTHE DAY到来を読む力を養う

 パラグライダーは動力がない為上昇は天気、気温減率、風向風速、日射角度、地面状況、雲の発生等自然の折り直す環境に大きく左右される。現代ではいくつかの天気予報アプリを遣えばおおよそ空の状況は予報可能である。

 その上で最高の条件が整うのは春もしくは秋である。この気象を読み、また特別な気象を待つ。その楽しみもTOP OUTの楽しみの一つである。

結びに

 本記事はどのようにしたらパラグライダーというスポーツの魅力をシンプルかつ大胆に一般人へ伝えることが出来るか、またどうしたらその魅力(凄さ)を経験者と非経験者同士が共感可能かと言ったことを煮詰めて考え起こしてみた。

 前段の3000m近くまで高度を上げ、北アルプスの稜線を私の少し後に飛んだ友人はコーヒーを飲みながら先ほどまで飛んでいた北アルプスの山頂を見てため息をつき、「俺らって凄い事してるよね。なんでみんなもっとすごいって言ってくれないんだろう」と呟いた。

 その悲しみはとても共感が出来る。このスポーツは凄い、環境スポーツとしてのポテンシャルは恐ろしい。そう常々実感しているからこそ、積もるのは「このスポーツの凄さを何故伝えられないのだろうか」という気持ちだ。

 無動力軟翼飛行北アルプス山頂飛行。唐松岳をTOP OUT。なんだか格好いい響きに聞こえないだろうか。共感してくれる人がこの単語を使い、なにか面白い価値観を生み出していってくれる事、そしてそれがまだ未経験者にまで響くこと。それが私のこの記事の願いである。

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