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感動を生む表現とは何か。―ポカリスエットの新旧CMに見る感動とインパクトの差―

映像美が過ぎる最新のポカリスエットのCM

 ここ数日、SNS上の映像クラスタたちが騒がしかった。大塚製薬のポカリスエットのCMがとてつもない出来だという。本編映像の公開と同時にメイキングも公開され「一切のCG無しにこれを作ったのか」という衝撃も相まって、その映像のクオリティの 高さは即座にインターネット上の各所まで広まることとなった。まずは当該の映像をみていただきたい。

 私も仕事として写真や映像の撮影や制作に関わる身として、正直そのインパクトには震えた。アイディア、撮影手法、演者の表現、予算に至るまで、そんじょそこらの宣伝CMと比べて雲泥の差がると想像できる。私はこのCMで久しぶりに“映像表現”の可能性に舌を巻いた。

 しかし同時に不思議に感じた。“映像表現の可能性”というのは、果たして“映像という表現を借りて何かを好きになってもらうよう広告をする”というのは比例するのだろうか。と言うのも、私はこの映像を見て「良いもの見たわー」という感想を抱いただけで、ポカリスエットが飲みたくなったわけではなかったからだ。

 私にはポカリスエットが大好きになったCMがある。大塚製薬のポカリスエットという飲み物がどういうメッセージを持って社会に売り出されているかのメッセージがたった1分間に込められたCMだ。それを見ていただきたい。

 私は心底この映像に感動して、今でも思い立っては見返している。1分間に起承転結とメッセージ性、そして映像美が詰め込まれていて、何だか小さな宝石箱のように感じてしまう。私もこんな映像を作りたいものだと心底思う。

 さて、では私がこの新旧のポカリスエットのCMの違いで思うことは何か。それは、純粋性のあるメッセージの乗った映像は感動を生み、インパクトを重視した映像は驚嘆は生むが感動を生むことが少ないのではないだろうか、ということだ。

 さも映像評論家のような文章を書いてしまったが、これはきっと私がもっとも今思い悩んでいる事を、他人に投影して自分の中で上手く噛み砕いたのだなという事を気付き、とてもショックを受けた。というのも、私もプロのスキーヤーとして、一表現者という立場で常に“次になにを生み出すのか”という無限の螺旋階段を上り続けている。

 階段はとても脆くて、立ち止まるとすぐに崩れてしまい、常に足を動かして上に登り続けるしかない。下の方では過去に作ったものが光り輝いて無駄に眩しく、そちらに目をやりたくなるが立ち止まれば表現者としては死亡する。しかしながら、目指す上はただただ暗闇が広がっているだけで、足取りは重く、辛い。

純粋表現とエゴによるインパクト表現

 私はプロのスキーヤーになった時にいくつか目標を定めた。まず、新規参入者を増やすこと、そして表現者として世界で勝負をすることだ。

 格好をつけて書いてしまったが、そこで僕が何をしたかと言うと。

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 とにかく自分はスキーが好きで、目立つ事が好きだった。なので、どんどん新しい目立ち方を考案して、仲間の力を借りながら死に物狂いでそれを形にしてきた。それは時に辛い事もあったが、基本的にとても楽しい瞬間に満ち溢れていた。

 そして、それはありがたいことにある程度の評価もされていった。すると次にしなくてはいけなくなるのは維持と継続になる。次は何をするのかという事を常に考えなくてはいけなくなり、過去をどう超えていくのかという期待に苦しめられる。

 すると人間は蓄積した経験と知識をもとに楽をしようとし始める。特に自分の中でしたい事ではない事をさも「すごいでしょ?」と提示し始める。いわゆる小手先頼りと言うやつである。

 僕はこれが成長と言うものだと考えていた時期もあった。体を張り、頭を悩ませ、本当に苦しい思いをした経験から、知識と実力とファンを得て、それを元に次の新しい物を提示していく。むろんそれはより楽に、より簡単に、より多くの人々の称賛を得る。そう考えていた。

 ただ、実際にそれをやり続けている内に、神は細部と純粋に宿るのだ、と知るようになった。8割の作品と98%まで作り上げた作品では18%の違いしかない事はない。100倍、1000倍の違いがある。小手先だよりの8割。命がけの9割8分。これはまさに雲泥の差だ。

 恐ろしいことにこれは表現者として、肝に銘じろなどという話ではなく、受け取りては表現者の手抜きに気付くということだ。これこそ私が一番衝撃を受けた事だ。本当にすべてを出し切っている粗が目立つ作品(粗はまた一つの真剣勝負の結果でもある)はプロの小手先の映像を超えてくる。ファンの付き方、感動の与え方が違うのだ。

 つまり、何よりも表現者が楽しむ。そして自分の作りたいものに命をかけて向き合う。これが本当に感動する作品を生む事だと、私は考える。そして、私ももう一度初心に立ち返り、楽しく、命がけで表現をしたいと思う。

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