見出し画像

GⅠ朝日杯フューチュリティステークス

序文:火の鳥

「漫画の神様」と言われた漫画家・手塚治虫は『鉄腕アトム』『リボンの騎士』など数々の名作を世に送り出してきた。当時「子供が読むもの」とされていた漫画という媒体においてその作品性にこだわり、ジャンルの普遍性を高めてきた第一人者であり、日本の漫画文化の基盤を築いた開拓者的存在である。
そんな「漫画の神様」の作品の中でも『火の鳥』は最高傑作のひとつに数えられる、時代を超えた名作だ。
不死鳥として黄泉がえりを繰り返し、永遠の命を有する火の鳥。その血を手にしたものは同じくして不老不死となれる…。火の鳥を巡り、人は時に欲望をむき出しに醜い争いを繰り広げ、一方で永遠の命に苛まれ葛藤の日々を送る。仏教の六道輪廻に基づいた「生きるとは?」「命とはなんなのか?」という、シンプルかつ究極的なメッセージを読む者へと問いかける。
火の鳥のモチーフになっているのは、神話の中に登場する伝説の不死鳥「フェニックス」である。
この空想上の幻獣はエジプト神話に登場する神の使い「ベンヌ」が原型となっていて、ベンヌは毎夜ラーの神殿で燃やされ続けている炎でその身を焼き、朝になると灰の中から復活し再び空へと羽ばたいていく…。すなわち毎日沈んではまた昇っていく、太陽を象徴する存在として信仰されていた。

さて、現代日本の競馬において最強の呼び声高い、1998年にクラシックを走った「98年世代」。
この最強世代にあって、幾度の挫折、故障から不死鳥の如く復活を遂げたGⅠホースがいた。

グラスワンダーは97年朝日杯を制覇。
98、99年の有馬記念連覇を達成した。

上記2レースともに12月開催のGⅠ競争。毎年師走になるとこの名前を思い出してしまうのは私だけだろうか?
1995年、グラスワンダーは米国のフィリップレーシングが所有する牧場でその生を享けた。父はシルバーホーク。現役時代の戦績は8戦2勝で、英GⅠのダービーステークス、アイリッシュダービーに挑戦し3着・2着と善戦止まりの馬だったが、引退後種牡馬入りしてから数々の産駒を世に送り出した。海外における産駒の成績は必ずしも優れていたわけではなかったが、このシルバーホークの父はかのロベルトで、この馬から連なるいわゆる「ロベルト系」の血統は現在も世界各国で紡がれており、今回の主人公グラスワンダーもまた引退後にGⅠ馬を生み出すことになる。

96年9月、米ケンタッキー州のキーンランドで開催されたセリ市にて、グラスワンダーはとある日本人調教師の目に留まる。
男の名は尾形充弘。
調教師尾形はこの世界最大級のサラブレッドの競売に、並々ならぬ意欲をもって臨んで来ていた。
90年代半といえば歴史的な円高が進んでいた年代で、日本競馬界のバイヤーは皆こぞって国外のセリに買い付けに行っていた。この時期にいわゆる「マル外」の名馬が多いのはこう言った背景が下地になっている。
この時の尾形は、馬主である半沢社の代表・伊東純一に付き添う形でセリに参加した。目的は日本のGⅠレースで勝てる馬を探すこと。2週間にわたり開催されるキーンランドのセリ市には、多種多様な産駒の馬が売りに出される。始まる前から尾形は期待に胸を膨らませていた。
とはいえ提示された予算には円高期とはいえ予算が決まられており、有名産駒の馬にはなかなか手が出せないだろうというのが事前の見解。うまい具合に掘り出し物があれば、というような心持ちだった。

そこで尾形と伊藤が購入したのが後のグラスワンダーである。尾形が好みの飛節が高い位置にある、スラっとした栗毛だった。ダービーダンファームの馬房の隅にただ一頭だけ佇んでいた。話を聞くとあまり評価の高くないシルバーホーク産駒で、値段もお手頃価格。尾形と伊東は協議の結果、この馬を持ち帰ることに決めた。
競合相手はアラブの馬主・ゴドルフィンだったが、早々にセリを降りたため、結果として25万ドルというリーズナブルな価格で落札することが出来た。現在で言うと2500万円くらいの購入費用だろうか、後の成績を考えれば十分に「お釣り」がくる価格と言える。

帰国後、尾形厩舎に入厩したグラスワンダーは瞬く間にその名を関係者に広げていった。
普段は素直な性格で、尾形に言わせれば「ネコよりも大人しい」馬だったが、調教に入るとその姿は一変する。当初はゲートの発馬に苦労したが、こなせるようになると前脚を90度まで突き上げ、独特かつ豪快なフットワークを見せるようになった。教えて出来るような走りではない、その素質と才能に尾形だけでなく周囲も注目するようになった。
「尾形厩舎に凄い馬がいるぞ」と。
97年、9月の中山新馬戦でグラスワンダーはデビューする。鞍上に選ばれた騎手は的場均。堅実な騎乗が売りな一方、大一番では波乱も起こす寡黙な男は、ライスシャワーによるミホノブルボンの3冠阻止、メジロマックイーンの春天3連覇に待ったをかけるなど、「レコードブレイカー」「ヒットマン」の通り名で、一部の競馬ファンから熱烈に支持されていた。
的場と尾形は以前から親交があり「外国産馬で、ちょっと面白い馬がいるんだが、乗るか?」と声をかけてもらった。
そんな気の置けないやり取りから騎乗を開始した的場だったが、すぐその素質の高さに気づいた。同世代の馬たちと比べるとフットワークがまるで違う。もしかすると、とんでもない怪物かもしれない。ある種の予感めいたものが的場の胸の内に湧いて出ていた。

期待に応えるようにグラスワンダーはデビュー戦を勝利。出遅れ気味のスタートだったが、すぐに追いつくと3コーナー付近で早々と先頭に立つ。直線では的場が軽く気合をつける程度で後続を突き放してしまう。後ろを振り返る余裕が何度も生まれるほどの楽勝だった。
2戦目のアイビーS(OP戦)、3戦目の重賞・京王杯3歳Sも難なく突破すると、この頃にははやくも世代最強の声が上がり始めていた。
この時点では後の「最強世代」の看板を背負うことになるスペシャルウィークはデビューしていない。また同じくしてライバルとなるエルコンドルパサーは、グラスが京王杯を戦った日にデビュー戦を勝利で飾っている。歴史に名を残す世代の急先鋒はいち早く頭角を現し、後のライバルたちへ「早く俺の後についてこい」と言わんばかりに、メッセージを送っているかのようにも見えた。
この後、グラスワンダーの才能に導かれるかのように各レースでライバルたちが勝ち名乗りを上げていく。…運命の歯車が徐々に動き始めていった。

12月、初のGⅠレース・朝日杯3歳Sへ出走。1.3倍の圧倒的1番人気に応えるように、グラスワンダーはその才能を世間に轟かせた。このレースには後にGⅠ馬となるマイネルラヴ、アグネスワールドも出走していたが、グラスワンダーの前では文字通り子供同然だった。
直線、坂の上で勝利を確信した鞍上の的場は最後に手綱を緩めたが、それでも電光掲示板に示されたタイムは1分33秒6。3歳馬レコードを更新していた。
同期のライバルたちを引き離してのGⅠ勝利、それでいてグラスワンダーはレース後も息を乱すことなく、涼しい顔をしている。的場はこの馬の強さに更なる確信を抱くとともに、底知れぬ奥行きを感じていた。間違いなくここで止まる馬ではない、敗けるイメージが全く湧いてこない。
競馬ファンからすればこの時期に来年のクラシックを予想するなど尚早の極みであるが、こう思わずにはいられなかった。マル外でなければダービーも狙えるのに、と…。

朝日杯の勝利を以って年内の活動は一旦区切り。結果としてJRA賞最優秀3歳牡馬も受賞し、順風満帆なデビュー年を過ごしたグラスワンダーだったが、若駒のころから激走を続けた疲れからか、知らずのうちに大きな代償を払うことになっていた。
グラスワンダーは骨折をしていた。幸いなことに完治さえすれば競走生活に支障をきたすものではないとの診断だったため、復帰を信じ長期休養へと放たれることになった。本来であれば当時マル外ダービーと呼ばれていたGⅠ・NHKマイルへ駒を進める予定だったが、是非に及ばず。調教師の尾形は、じっくりとグラスの回復へ向けた調整に向き合うことに決めた。
その頃、グラスワンダーが中央の舞台から下がっていた時期に、もう一頭のマル外が頭角を現し始める。
エルコンドルパサーである。
11月のデビューから4月のGⅡ重賞・ニュージーランドトロフィーまで無傷の4連勝。その名の通り飛ぶ鳥を落とす勢いでクラシック路線に臨むと、次走のNHKマイルカップでも快勝。マル外クラシックで最も頭角を現した一頭となった。
この時、尾形には大きな懸念材料があった。美浦・二ノ宮厩舎が管理するエルコンドルパサーも鞍上もまた、グラスと同じ的場均が務めていたからだ。「才能では甲乙つけがたい」と発する的場に尾形は一抹の不安を覚えた。
グラスがたとえ復帰したとしても、的場は怪我無く順調に走っているエルコンドルパサーを選ぶのではないかと思っていた。

98年10月GⅡ毎日王冠でグラスワンダーの復帰が決まる。
このレースには最大のライバル・エルコンドルパサーだけでなく、武豊騎乗で覚醒した現役最強と名高いサイレンスズカも出走していた。このGⅠ並みのビッグレースとなった毎日王冠では、主戦の的場がグラスワンダーかエルコンドルパサーのどちらを選択するかが大きな話題となったが、的場は迷った末に復帰したグラスワンダーの背に乗ることを決めた。
出走予定が被った時、調教師の尾形は「エルコンドルパサーに乗ったらどうか?」と的場に進言していた。他厩舎の馬を進めるのは調教師として異例だが、グラスは怪我明け復帰初戦、叩きの一戦で勝ち目は薄かった。昔から世話になっている的場には、より勝つ可能性の高い馬に乗ってもらいたいと思った。
2頭がデビューから連勝していく中、尾形はいずれ「的場がどちらかを選ばなければならなく日が来るだろう」と考えていた。もちろん実績上位で、常に結果を残せる的場に乗り続けてもらいたいのが本音である。それでも尾形はグラスが故障する以前から、いつでも的場がエルコンドルパサーの鞍上を務めれるよう、相手馬の関係者にまで根回しをしていた。「敵に塩を送る」という慣用表現が当てはまるこの行為の裏には「公平な立場で選んでもらいたいと」という尾形のまっすぐな気持ちが隠されていたが、的場は尾形の根回しにも本音にも以前から気付いていた。
「2頭の才能は甲乙つけがたい。だったら俺は尾形さんの馬に乗りたい」
普段多くを語らない寡黙な勝負師は、覚悟を決めていた。

やるからには勝ちに行く、と尾形は積極的な騎乗を的場に指示した。男らしいというか、昔気質の競馬人といった二人である。
本番を迎えた毎日王冠、グラスワンダーは3コーナー付近から早めに仕掛けていったが徐々に後退、結果5着と初の敗北を喫した。サイレンススズカが盤石の競馬を見せたレースだったが、最後まで食い下がったエルコンドルパサーとは対照的な走りだった。
次走はジャパンカップ出走を見据え、前哨戦アルゼンチン共和国杯に出走。初の長距離戦に懐疑論もあったが、復活を信じファンはグラスワンダーを一人気に支持していた。だがここでもグラスワンダーは輝きを放つことが出来ず、直線で失速し6着に敗北。この敗戦には調教師の尾形も大きなショックを受けた。
「もしかして早熟だったのではないだろうか」世代最強を信じ、調教してきた気持ちが揺らぎ始めていた。またこの敗戦をもって一部競馬ファンからもグラスと的場を揶揄する声が上がり始めた。曰く「的場均は選択を誤った」と。

ジャパンカップを回避したグラスワンダーだが、その回避したレースで輝きを放ったのがライバルのエルコンドルパサーだった。毎日王冠から鞍上を務めた蛯名正義とのコンビで、この大一番を制した。このレースに的場は出場しなかった。乗鞍依頼もかかっていたが、的場はグラスワンダー以外の馬で出走する気はなかった。ジャパンカップ直後の11Rで騎乗があった的場均は、一人黙ったまま検量室のモニター越しに、自身が選ばなかった馬が世界の舞台で才能を開花させる瞬間を眺めていた…。
ジャパンカップを終え、エルコンドルパサーは早々に有馬記念を回避し年明けの海外へ挑戦を表明。グラスと的場にしてみれば「勝ち逃げ」をされる形になったわけである。
グラスワンダーと的場均、失意に陥った人馬がその自信を取り戻すため、そして復活遂げるために出来ること。それはただ一つ、有馬記念を制覇することしかなかった。

有馬記念まで一か月、再びグラスワンダーの挑戦が幕を開けた。思えば初めてGⅠ重賞を勝った朝日杯から一年が経とうとしている。的場も尾形もあの時の走りを再現するため、毎日のようにグラスワンダーに向き合っていった。
有馬記念の一週前の追い切りで、強めの負荷をかけられたグラスワンダーは猛時計を記録した。本番直前になり、ようやく二人は手応えを感じるようになってきた。がそれに反するかのように周囲からはグラスワンダーを嘲る声も上がっていた。「今の時代に直前で馬にあんな負担を強いるとはどうかしている」「あの馬はもう終わった」そんな声も聞こえていた。
男二人の想いに応えたのか、周囲の喧騒を理解したのか、グラスワンダーは一か月間という短い時間の中で見違えるような仕上がりを見せた。一年前のあの時、ライバルたちに率先した先陣を切ったあの日、「俺についてこいと」と無言で語りかけたかのような、強いグラスワンダーが戻ってきていることを、レース直前に的場はその鞍上で感じていた。

背水の陣で挑んだ有馬記念。エルコンドルパサー不在とはいえ、8頭ものGⅠ馬がひしめき合ったこの年のグランプリは、例年以上の盛り上がりをみせていた。1番人気には同期で皐月賞と菊花賞を勝ったセイウンスカイが、古馬からは「女帝」エアグルーヴ、河内洋騎乗のメジロブライトらが続き、復活を期すグラスワンダーは4番人気だった。
有馬記念の4番人気と言えば、トウカイテイオー、オグリキャップが復活を遂げた時と同じ立ち位置だ。ファンは予感めいたもの、的場は執念を胸に抱き、そしてゲートが開かれた。
レースは2冠馬セイウンスカイが淀みのないペースを作り上げる。前を行くエアグルーヴのすぐ後ろで機会を窺っていたグラスワンダーは、3コーナー付近から勢いを増していった。
馬なりのまま好位に進出するグラスワンダー。前方を射程圏に収めると、ここで的場の鞭が入る。残り200m付近で先頭を追い抜くとあとは独壇場だった。メジロブライトの追撃も寄せ付けず、グラスワンダーは一年ぶり12月の中山でGⅠに勝利。昨年の3歳王者が不死鳥の如く蘇って見せたのだった。

翌年、古馬として再び有力馬の一頭として数えられるようになったグラスワンダーだったが、ここで新たな挫折を味わうことになる。
年明けに右前脚に骨膜炎を発症、さらに目の下を負傷し、予定していた大阪杯を見送ることになった。
復帰後、京王杯SC・安田記念と重賞を立て続けに走り、同世代で後の「マイル王」エアジハードと1勝1敗の戦績を残した。古馬になり貫禄も増してきたが、故障明けの影響か、どこか煮え切らない競馬は周囲をやきもきさせた。
次走、春のグランプリ宝塚記念に出走。このレースでは「最強世代」の代表格となるスペシャルウィークとの初対戦を迎えた。世代で2冠を達成していたセイウンスカイが早々に休養に入っていたため、このレースでは2頭の初顔合わせによる「どちらが強いのか」という話題で持ちきりになったが、グラスワンダーがその勝利を以って、自らが格上であることを見せつける結果となった。
年明けの頃には2度目の故障が報じられていた「不死鳥」はここでも灰の中から這い上がって見せたのである。

夏の休養を経て秋初戦の毎日王冠へ出走したグラスワンダーは、昨年の意趣返しにと、ここを快勝。同期のメイショウオウドウをハナ差で返り討ちにした。宝塚記念でスペシャルウィークに勝ち、秋初戦をものにしたグラスワンダーはようやく充実期に入ったかと思われたが、ここでも競馬の神様は彼に新たな試練を用意していた。
左肩に違和感を覚え、次走のジャパンカップを断念せざるを得なくなったのだ。毎日王冠で脇腹を痛めたことが原因だった。
グラスワンダー不在の秋古馬では、主役の座にとって代わったスペシャルウィークが天皇賞秋、ジャパンカップを連勝。とりわけ当時欧州最強と言われていたモンジューを返り討ちにし、日本馬による上位独占を果たしたジャパンカップは、日本競馬史に残る名場面だったと言える。

秋古馬GⅠで日本競馬界が盛り上がっている最中、グラスワンダーとその陣営は年末の有馬記念へ向けた準備を整えていた。準備といえば聞こえはいいが、実際は短い期間で無理矢理にでもグラスをトップフォームへと戻さなければならない、少しの余談も許さない薄氷を踏むような日々だった。
そんな最中、的場はグラスワンダーと過ごしてきた日々を毎日のように思い返していた。
デビュー初年は有り余る才能と素質の高さに、世代で敵はいないと確信した。この馬となら、はるかな高みを目指すことが出来るだろうと。
だが実際は違った。常に期待に応え、結果を残し続けるグラスワンダーにも、他の馬同様弱い部分はあったのだ。それをこの馬自身が、自らのひたむきさの内に隠し、悟られまいと不屈の努力をしてきていたのだ。
やがてライバルが台頭してきた。皮肉なことにそのライバルに騎乗していたのは自分自身だった。どちらか一方に乗ることを迫られたとき、グラスワンダーを選んだ。両馬ともにかけがえのない戦友だったが、どんなに辛くとも音を上げずに最後まで付き合ってくれたのはグラスだったからだ。
その想いに応えたいと思った。グラスワンダーの戦績を見れば一目瞭然である。決して無敵だったわけでもなければ、順調にここまでこれたわけでもない。
それでも共に歩んできた、傷だらけの道程が何より誇らしかった。
俺はお前に相応しい騎手として、その背に乗れているだろうか。
12月の中山は俺もこいつも、その身に刻んで覚えている。
ここでもう一度、復活を果たそうじゃないか。

99年の有馬記念。一人気に支持されたのはグラスワンダーだった。勢いよりも経験が糧になると競馬ファンは冷静に評していたが、その反面、故障からめげずに這い上がってくるグラスワンダー勝たせてあげたい。そんな気持ちも反映されていたのかもしれない。
一方早々に引退宣言を発していたスペシャルウィークは、ここを勝利すれば秋古馬3冠達成。勇退の道に自ら花を添えることが出来る。
文句なしの現役最強馬として引退を飾るため、誰よりも自信を持って挑んできたのがスペシャルウィークの鞍上、武豊その人だった。
普段は温厚なこの男も、こと大一番となればスイッチが切り替わる。出走直前においては、復活をかけ1人気で臨んできたグラスワンダーを明らかに敵視しているようだった。
武にとってもまた、自身に悲願のダービー制覇というギフトをくれたスペシャルウィークという馬に、当然ながら特別な想いを抱いていた。
そして敗けられない想い同士がぶつかり合ったこの年のグランプリは、歴史に名を残す名勝負となったのだった。

的場は後輩でありながら、競馬界のトップを走り続ける武豊という騎手に対し、一種の畏敬の念を抱き続けていた。そしてその騎乗に対する取り組みをよく理解しているつもりだった。
スペシャルウィークにとって、今回の最大のライバルはグラスワンダーに他ならない。必ず自分の後ろについて、徹底的なマークをしてくるだろうと。
たとえ他の馬に追いつけなくとも、自分を差し置いて1番人気になったライバルだけには絶対に敗けたくない。そんなある種の子供じみた競馬を、このビッグレースでも平然とやってのけるような男だ。的場はそう確信していた。
ならあえて後手を踏ませてやろうじゃないか。発馬直後スタートを決めたグラスワンダーは、いつもより後方に位置を取り、後ろからレースを組み立てることにしたのだ。
的場の読みは当たった。スペシャルウィークは自分よりもさらに後ろ、最後方から追走せざるを得なくなっている。それほどまでに俺を差したいか、それならお望み通りの展開にしてやる。
後は俺とグラス、そして武とスペシャルウィークの根比べだ。ギリギリまで追い出しを我慢して、奴が追い付けないタイミングで先頭を狙いに行く。

武豊は日本競馬の顔であり、競馬界を代表する第一人者だ。その騎乗技術には非の打ち所がない。だが的場均もまた、幾多の激戦を勝ち抜いてきた歴戦の騎手。ライスシャワーで天皇賞を勝った時は、GⅠ制覇にも関わらずブーイングを浴びたこともあった。
例年の有馬記念では、各馬がホームストレッチを通過する際に会場は大きな歓声に包まれるのが慣例だ。その年の総決算GPなればこその光景である。だがこの年の有馬は歓声がいつもより大人しい、というより少し重苦しい雰囲気に包まれていた。
ゴーイングスズカがハナを切りペースメイクをしていたものの、全体の流れは超スローペース。その中で断トツの人気を誇る2頭が最後方からレースに参加しているのだ。この後どのような展開が待ち受けるのか予測がつかない。異様な雰囲気に包まれ、観客は固唾を飲んでレースを見守った。

3コーナー付近、勝負所で的場がグラスへとサインを入れた。徐々に加速していく。そしてその動きを見逃さず、武豊とスペシャルウィークがピタリと続く。この機を待っていたと言わんばかりに追撃態勢を整えていた。
直線残り200m。大歓声の中、先頭に躍り出た的場は後続のことなど微塵も気にかけていなかった。というよりそんな余裕はどこにもない。俺とグラスワンダーの走りをする、ただそれだけ。ここまで来たら、それしか出来ねえだろう。
先に抜け出したグラスワンダーを捕まえようと外からスペシャルウィーク、内からはテイエムオペラオーが猛然と追い上げてきた。
先団がまとまったまま決勝線を跨ぐ瞬間、そこにいた観衆の、ブラウン管越しに見ていた視聴者の、その多くがこう思ったはずだった。
「勝ったのはスペシャルウィーク」だと。
電光掲示板には写真判定の明かりが灯っていた。

ゴール直後、写真判定に裁定が下されるよりも前に、後輩の武豊がにやにやしながら近づいてきた。
「どうでした?どっちですかね?」
自分が勝ったと確信していやがる、相変わらず嫌味な野郎だ。ウイニングランでも何でもして来いよ。
的場には正直どちらが勝ったのかわからなかったが、とりあえず現時点で出来るだけの競馬はした。復帰戦にしては良く頑張った。この仔はどんな時も本当によく走ってくれる、感謝しかない。後は結果を待つだけだ。
99年有馬記念、勝利したのはスペシャルウィークではなくグラスワンダーだった。会場には大きなどよめきが起こったが、写真判定の結果を見れば確かにグラスがハナの差4センチで勝利している。
ごくわずかな差であっても勝ちは勝ち。グラスワンダーはスピードシンボリ、シンボリルドルフに続く史上3頭目の有馬記念連覇という快挙を達成。
1956年の創設以来60年以上続いてきた現在においても、連覇を達成した馬は上記3頭にシンボリクリスエスを加えた4頭しかいない。
同期最大のライバルの引退レースであっても関係ない。
12月の中山、幾度となくどん底から這い上がってきたその馬をファンは「不死鳥」と讃え。勝った者も敗けた者も、彼とその鞍上に惜しみない賛辞を送った。
あれから時を経て、毎年の様に競馬史に残る名場面を作ってきた有馬の舞台。それでも、これほどの名勝負は滅多にお目に掛かれないだろう。

翌年、前年限りで現役を退いたスペシャルウィークとエルコンドルパサーを尻目に、グラスワンダーは現役続行を表明。外国産馬に門扉を開いた天皇賞と、かねてからの夢だった凱旋門賞を目指すことになった。
調教師の尾形は引退も視野に入れていたが、スペシャルウィーク、エルコンドルパサーらと、繁殖牝馬を奪い合うような状況を作りたくないという思いもあった。
いずれにしろ、新たな目標に向け再スタートを切ったグラスワンダーとその陣営だが、この年のグラスは年明けから調子が上がらず戦績は不振を極めた。
脚部に不安を抱えたまま挑んだ日経賞で6着、京王杯で9着と、GⅡ重賞で連続して大敗する。一向に調子の上がらないグラスワンダーへのカンフル剤として、6人気で挑んだ宝塚記念では鞍上に蛯名正義を迎えたがここも6着と惨敗。「グランプリレースになればまた不死鳥の様に復活するはず」そんな淡い期待を抱いていたファンの、僅かな希望も打ち砕かれてしまった。
さらに悪い報せが重なる。宝塚記念の競争中、グラスワンダーは骨折をしていた。そしてこのレース後に尾形は引退を表明。後日種牡馬入りすることが発表された。
同年12月の有馬記念では引退式が執り行われた。前年優勝時のゼッケン「7」を身に纏い登場したが、骨折の影響で足取りはおぼつかなく、参列した的場がその背に跨ることはなかった…。


今年も一年が終わろうとしている。
師走の中山、有馬記念。毎年この時期になるとグランプリホースの座をかけて戦う優駿たちの雄姿を想像しては、気持ちが高ぶってくる。競馬ファンにはお馴染みの恒例行事だ。
ただその一方で、心の中に少しだけ寂寞とした想いが湧いてくる、そんな心持ちになっている自分がいることに気づいてしまう。
数々の名場面、名勝負を彩ってきた有馬記念は、名馬たちがターフに別れを告げるための舞台でもあるからだ。
今年も一頭、引退を表明したGⅠ馬が連覇をかけて挑んでくる。勝負の行く末は誰にもわからないが、最後まで見届けたい。
中山の急坂を駆け上がり、先頭でゴール板を横切った馬は有馬記念優勝馬として歴史にその名を刻む。その瞬間、私たち競馬ファンはいつも思い出す。数々の名場面を私たちに見せてくれた過去の優勝馬たちを。
その中に一頭、かつて「不死鳥」の名で謳われた不屈の名馬がいたことを、私は生涯忘れることはないだろう…。


冒頭で紹介した手塚治虫の名作『火の鳥』は、不死鳥の存在を巡り何人もの登場人物がそれぞれの時代の中で、時として欲望にまみれながらも懸命に生きる、12篇からなる群像作品集である。
その中の一篇『ヤマト編』。主人公ヤマト・タケルは父である自国の王と、恋仲になった敵国の娘との間で激しく気持ちが揺れ動く。葛藤するヤマト・タケルは幾多の困難に打ちのめされながらも、やがて己の使命に気づき、人々の命を救うため父やその家臣である兄弟たちと戦うことを決心する。

「自分はどう生きるべきなのか?」

誰しもが一度は心の中に抱えるそんな問いかけ。漫画の神様は主人公のセリフを用いて、今を生きる者へ力強いメッセージをこう送る。

「怖くないよ、僕は満足してる

 僕の一生は力いっぱい生きてきたんだ

 だから悔いはないよ」

”GⅠ朝日杯フューチュリティステークス
            まもなく出走です”

ジャパンカップに出走することのなかったグラスワンダー。
その仔スクリーンヒーローは父に代わりJCを制覇した。
「不死鳥」の血はこれからも受け継がれていくだろう。
現在は新冠町の名和牧場にて穏やかな時を過ごしている…。

~はじめに~2歳マイル王座統一戦

皆さまお疲れ様です。ここまでご一読くださり誠にありがとうございます。師走の小忙しいなか当noteに貴重なお時間を割いていただけるとは、感謝でございます。
今回の冒頭は最強と呼び声高い「98年世代」から一頭、グラスワンダーの物語をお届けいたしました。また文中で紹介した手塚治虫先生の『火の鳥』は時代を超えた超絶的な名作ですので、読んだことのない方がいたら是非一度お試しください。オヌヌメです。

さあ残すところ今年もあと僅か…。なんとかGⅠでデカいのを当てて、すっきりと次年度を迎えたいところです。すっきりとね。いやホントに。
どうぞ最後までお付き合いくださいませ。よろしくお願いいたします。

怒涛の連続開催。試練の京都マイル芝1600m

本来であれば阪神マイルで開催の朝日杯ですが、先週のJFに続き今週も京都での開催。連続開催が続き京都の芝は先週以上に荒れたい放題だと考えていいでしょう。JFでは外差しが決まりましたが、今週もでしょうか?
2歳馬のGⅠレースは12月最終週のホープフルSが17年にGⅠ昇格して以来、各馬の路線別の住み分けが上手くいっている感があり、朝日杯には昔以上にマイラー気質の強い馬、もっと言ってしまえばスプリンター寄りの馬が集結する傾向が強まっています。従って高速ラップを刻む、スピードに特化したマイル戦となりますので、瞬発力上位の馬を選ぶことが肝要であり、それでいて直線で競り負けしないスタミナも求められます。
今回の出走馬の中で最も相応しい馬は誰か、この後解説していきたいと思います。

昨年のレースを振り返る

1番人気ジャンタルマンタルが盤石の競馬。鞍上は川田将雅騎手でした。新馬、デイリー杯2歳Sに続いて3連勝。中団7番手から早めに押し上げていき、直線で抜け出しました。下馬評通りの快勝だったと思います。
前半5F58秒4で勝ったジャンタルはメンバー3位となる上がり3F34秒8で抜け出して優勝。2着のエコロヴァルツは武豊騎手騎乗で、最後方17番手から直線で一気に追い上げてきました。
3着は牝馬のタガノエルピーダ。先団3番手の好位につけると、驚異的な粘り腰で馬券内に残る結果に。
昨年までは先行馬の前残りが顕著な反面、エコロヴァルツのような後方一気も結果を残してきました。今年は京都外回りになるため、差し・追い込み勢が優勢な展開に向きそうです。荒れた馬場も追い風になるはずです。


朝日杯もTOPIC5で攻略する

ここから有力情報5点に特化したTOPIC5をお届けいたします。過去10年のデータをもとに作成。今年はコース替りなのでどこまで通用するかは未知数ですが…。
愚直に今週もお届けします(;^ω^)

📝前走マイル重賞勝ちの成績がヤヴァイ

前走で重賞を勝った馬の成績は【5-5-4-15】で10連対を記録。前走芝マイル重賞を勝って2番人気以内なら【5-3-2-0】で複勝率100%です。今年はサウジRC勝ちのアルテヴェローチェ一頭が該当。馬券には必ず組み込んでおきたいです。
前走重賞に出走し勝てなかった馬は【0-4-2-50】と勝てていません。

📝1番人気の成績は?

【5-2-2-1】で連対率70%、過去7年に限定して数えれば複勝率100%で悪くないですが、単勝1倍台に支持されるとなぜか勝てません。単勝2倍台の馬が3勝、3倍台の馬が2勝を挙げています。
18年のグランアレグリアは単勝1.5倍の断トツ支持でしたが3着に敗戦。今年はミュージアムマイルが1人気想定ですが、オッズ変動にはよく注意したいです。

📝穴狙いならここ

過去10年で6人気以下から連対した馬は5頭いて、その内3頭は前走重賞を走って敗けていました。残りの2頭は1勝クラスと未勝利戦を上がり最速で勝った馬でした。16年サトノアレスと20年グレナディアガーズです。グレナディアガーズが勝った時の鞍上は川田将雅騎手でしたが、今回も下位人気のアドマイヤズーム騎乗で出てきますね。一発を期待したくなります。

📝京都外回りにつき脚質は「差し」

阪神開催時の10年で逃げ馬の成績は【0-0-1-9】で3着がやっとでした。今年は京都外回りのマイル戦、しかも連続開催で馬場は荒れているということなので、より末脚に特化した馬に注目したいと思います
先週のJFでもそのような結果になっていましたね。

📝ローテには要注目やで

チェックしておきたいのが中4~8週で出走する馬。このローテで連対した馬は過去10年で10頭。その内7頭が前走重賞を上がり1位か2位で勝っていました。今年は一頭、京王杯2歳Sを勝ったパンジャタワーが該当しますね。中9週以上で間隔を空けてくる馬について、サウジRC組は好走例が多いですが、それ以外のレースに出走だと【0-1-1-16】と残念な結果に。今回の上位陣ではトータルクラリティが8月の新潟2歳S、ニタモノドウシが8月札幌のクローバー賞からの臨戦なので不安ですね。


時間がない人用、さっと見れる画像のコーナー


森タイツ式推奨馬の解説

ここからは今回推してみたい推奨馬を解説いたします。一応4頭上げましたが、滅茶苦茶自信あるかというと全然そんなことはなく、今回も難解な予想になりそうです。その他の馬の解説まで合わせてお読みください。

🐎2週連続GⅠ制覇狙う鞍上


前走サウジアラビア・ロイヤルカップを勝利。武豊騎手騎乗のアルテヴェローチェです。
前走がサウジRCからのローテーションは好相性であることは先述した通りですが、小雨が降る10月の東京マイル重賞で最も強い競馬をした馬がこの仔で、当日の鞍上は佐々木大輔騎手でした。
アルテヴェローチェはモーリス産駒。芝のマイル戦は得意とするところで、今年の勝利数は90勝で種牡馬リーディング現在7位ですが、その内35勝を芝1400~1800mのコースで挙げています。
現役古馬ではジャックドール、ノースブリッジ、マテンロウスカイら、先行脚質で脚を長く使えるタイプが多いことが特徴です。
母クルミネイトはJRA未勝利に終わった牝馬ですが、その父はディープインパクトで、サンデーサイレンス18.75%の配合いわゆる「奇跡の血量」と呼ばれる黄金比です。近年ではエフフォーリアやデアリングタクトらがおり、アルテヴェローチェもまたGⅠを獲る器として申し分なしだと思います。
前走サウジRCの勝ちタイム1分33秒0は同レースの2位となるタイム。歴代でもレベルの高い2歳戦だったと思います。しかも馬場状態は稍重でしたから、あの状況において非常に将来性ある走りを見せてくれたのではないかなと感じています。
最大の課題はその気性の難しさにあると思います。なにせ2歳のモーリス産駒ですから、素直に走ってくれるイメージがなかなか湧きません。今回はGⅠで他頭数のレースとなるので、どこまでやれるか難しいところではありますが、鞍上はレジェンド武豊騎手に戻ります。おそらく最後方からの競馬を選択するんじゃないかなと思いますが。レジェンドのその手腕に託したいと思います。

🐎バゴ産駒にはこの鞍上


かつて凱旋門賞を制した名馬・バゴの産駒から一頭。トータルクラリティです。前走はGⅢ重賞新潟2歳Sを快勝。無傷の2連勝で阪神マイルに挑んできます。
バゴ産駒の特徴ですが、最も得意とする距離は芝2000mで、最近では先日引退したステラヴェローチェの走りが記憶に新しいところです。という訳でマイル戦は少し適正距離から外れてしまいますが、全体的に回収値の高い産駒なので大きな問題はないと思いますし、この馬はデビューからマイルを使ってきているので気にしなくてもいいのかなと。むしろ2000mのホープフルを使わずこちらを選択する辺りは、陣営の自信の表れと捉えたいです。
母はビットレートという2勝クラスの馬なのですが、この馬の母父がスペシャルウィークでサンデーサイレンスの系統になります。この配合には先述のステラヴェローチェの他ビッグウィークなどの活躍馬がいます。
母方の血統はいわゆるDeputy Ministerの血を引いており、バゴ産駒ではなんといっても出世頭となった名牝クロノジェネシスがいますね。SSとDeputy Ministerという、バゴ産駒の中では、少々オーバーな表現になりますが、夢の配合といえる血統構成なので、今後も含めて大いに期待したいところです。
鞍上は北村友一騎手です。かつてのクロノジェネシスの主戦騎手を務めていました。その仔の背に跨るわけですから、本人もなにかしらの感慨を感じていることでしょう。
北村騎手は落馬事故による直機離脱からずっと調子が上がらないままでしたが、今年から復調の兆しを見せ、今期重賞6勝を挙げる大活躍をしています。往年の輝きを取り戻したと言っていいでしょう。特に2歳戦に関しては、ホープフルに参戦予定のクロワデュノールしかり得意の一戦だと思います。バゴ産駒から誕生する新たなGⅠホースの将来に刮目です。

🐎今季GⅠ2勝目か?短期騎手の鞍上

前走、黄菊賞(1勝クラス)快勝。ノーザンファーム発のサンデーレーシング所有馬ミュージアムマイルに注目です。
2歳馬戦と言えばなんといってもノーザンF×サンデーRが圧倒的な戦績を残す中、またまた楽しみな一頭が出てきました。前走の黄菊賞は重賞ではなかったですが、強すぎたその走りにここでも期待しないわけにはいかなそうです。
京都の2000mで行われたその前走ですが、ミュージアムマイルは早めのスパートからあっさりと抜け出すと、後続に3馬身差をつける楽勝ぶり。直線での加速は2歳でありながら目を見張るものがありました。
適正距離を考えれば、同じ2000mのホープフルSを選択するべきでは、と思うかもしれませんが、この馬の最大のストロングポイントである末脚を活かすために、中山でなくより広く直線の長い京都を選んだと考えれば納得です。
ミュージアムマイルはリオンディーズ産駒、同年活躍した馬だと春の天皇賞に勝ったテーオーロイヤルがいます。コース適正は芝2000m~の中長距離での成績が優秀ですが、2歳~条件戦は1600~1800mの成績が良く、今回GⅠですが2歳戦である朝日杯の舞台は問題なさそうです。
また母父の血統傾向を見るとSS系の成績が最も優秀なので、ハーツクライの血を引く本馬にはその点でも魅力を感じます。先述したテーオーロイヤルの他に、重賞勝ちのジャスティンロックなどがいます。
この馬もまたサンデーサイレンス18.75%「奇跡の血量」である一頭。
他馬同様まだまだ成長途上でこれからの馬ですが、その末脚の破壊力は出走馬の中でも随一で、血統から期待されるスタミナが加わり、非常に魅力の多い馬だと思います
。鞍上は名手・Rムーア騎手です。京都の直線でそのスピードを活かせる展開、位置取りを期待したいです。
また今回想定1人気ですが、1人気の馬は牡馬に限ると過去10年で【5-2-1-0】の成績で複勝率100%、さらに「前走1番人気で1着になった先行脚質の馬」は【6-3-4-18】というデータがこの馬の勝利を後押しします(開催コースは変わりますが)。
近年は堅めの決着が多い朝日杯FSにおいてデータ的にも推せる馬といえるでしょう。


🐎絶対的安心感のある鞍上

ノーザンF一強体制にありつつなか、社台Fから一頭。アルテヴェローチェと同じモーリス産駒のアドマイヤズームです。
10月京都の新馬戦でデビュー、このレースではまだ馬体が仕上がっておらず、持ち前の気性難もあり4着に敗れましたが、先月の2戦目ではきっちりと未勝利戦を勝利。ポテンシャルの片鱗を見せつけ朝日杯へしっかりと照準を定めてきました。
モーリス産駒ということなので、前述と被りますからここでは割愛させてもらいます(手抜き)。
ただこの馬もまた母父ハーツクライの血統なので、サンデーサイレンス18.75%の配合です。また2歳モーリス産駒の特徴として多々あげられる、若駒時代の気性の難しさにはよく注意が必要だと思います。
鞍上は川田将雅騎手が担います。GⅠで下位人気の馬に騎乗することは珍しいですが、言うまでもなくその手腕は一流ですから、この人気であっても期待は膨らみます。
先日のラヴェルの様に人気薄でも平気で勝たせますから、屋根で競馬を変えることのできる稀有な存在だと思います。
そんな川田騎手の京都芝マイルにおける実績は過去5年統計で勝率32%超・連帯率52%超という驚異的なデータを残しています。後に続く、松山騎手・坂井瑠星騎手を大きく話す数字です(二人とも連対率で20%)。
アドマイヤズームの芝1600mの持ち時計は出走全頭のなかで上位4番目に位置しており、前走はミドルペースの展開に恵まれた感もありますが、これはなかなかに無視できないタイムだと思います。新潟マイルで重賞を勝った今回有力候補のトータルクラリティと比較しても、指数は上位に位置します。
またメンバー中京都のマイルを走った馬は4頭いますが、もちろんアドマイヤズームのタイムがただ一頭抜けています。
京都マイルの鬼・川田騎手と、成長著しい新時代のマイラー候補のコンビに大いに期待したいところです。


🏇その他の有力馬について🏇

📝ランスオブカオス

 鞍上:吉村誠之助
森タイツ式が度々馬券を購入している期待の若手騎手(回収できているとは言っていない)、1年目の吉村誠之助騎手が騎乗するランスオブカオスです。
前走が今月の1日に出走で2番人気からデビュー勝ち。乗り込み量が少ないという触れ込みだったのですが、今レースを見返してみると良い脚をもっているなあというのが率直な感想
それから中1週で、まだまだ本数が足りない中で出走ということですから、もちろん大きな期待はできません。鞍上含め今後の活躍に期待して買い目に入れてみようかなと思います。

📝アルレッキーノ

 鞍上:Cルメール
前走サウジRCを1人気からの5着、華麗に飛んだルメール騎手騎乗のアルレッキーノ(苦笑)です。
前走は好位から先団を窺う形で運んでいましたが、直線では伸びを欠きまさかの5着敗退。当然の如く馬券を買っていたので残念この上ない結果でしたが、馬場が重たかったらという安直な理由で敗因を片付けたくはないですね。私は素直に今回評価を下げます。成長はまだこの先、来年からの馬ということにしておきます。国枝先生も控えめな発言に始終しており、ここは素直に受け止めておいた方がよさそう。
とはいえポテンシャルは出走馬の中でも抜けていると思いますし、ルメール騎手の継続騎乗という点を加味しても、馬券には組み込む予定です。

📝ニタモノドウシ

 鞍上:Rムーア
前走OP特別のクローバー賞を快勝。2連勝中のニタモノドウシですが、その実力はいかがでしょう。前走戦ったメンバーの中でも上位の人気馬。
ウィルオレオール、ソロモン、ミリオンローズとデビュー時からある程度話題になっていた素質馬たちですが、ニタモノドウシに敗れたその後のレースでは皆、重賞クラスに参戦し躓いているところをみると、クローバー賞自体がそこまでレベルの高いレースではなかったのかなと思います。
今回Rムーア騎手に騎乗しある程度人気はしそうですが、そこまで強く推せないですね。初のマイル距離という点も一抹の不安を覚えます。
末脚の切れ味はなかあか魅力的だと思いますので、買いポイントとしてはそこかなといった感じです。

📝パンジャタワー

 鞍上:松山弘平
前走京王杯2歳Sを8人気から奪取。私も印を打っていた(的中したとは言っていない)パンジャタワーに注目です。前走ではヒシアマン、マイネルチケットら強豪を破っての勝利ということで、ここでも大きく期待したいところですが、なんといっても距離適性が課題としてあげられるでしょう。デビューからGⅡまで1200→1400と来てここでさらに1F延長ですから、やはり不安は募ります。血統的には新種牡馬のタワーオブロンドン産駒で、現役時代はスプリントを主戦場としていた馬です。ただし路線変更するまでマイルも走り、アーリントンCなどに勝利しています。
2歳児には同レースGⅠ朝日杯を走り3着の実績。なので、まったく期待できないという訳でもなさなさそう。一方、今年デビューした産駒の勝利数は「9」でその全てで1400m以下の距離を走っているます。やはりマイル戦に関してはまだ未知数なのが現状
でしょう。悩ましいですね。
とはいえ単純な走力ではライバルたちの中でも上位位置すると思いますので、再びの激走を期待して買ってみるのも面白そうですね。

📝エイシンワンド

 鞍上:幸英明
パンジャタワーが勝った京王杯で8着敗退。エイシンワンドはパンジャタワー以上にゴリゴリのスプリントホースと言えそうです。この記事を編集中に枠順が発表されましたが、外枠を引けたようなので、馬群に弱い当馬にとっては僥倖と言えるでしょう。上手く脚をためて直線で一気、展開に左右されますが良い方に転べば上位進出もあり得る、そう思わせるだけの脚は持っていると思います。今期好調のベテラン幸騎手の辣腕に期待です。

📝タイセイカレント

 鞍上:坂井瑠星
前走サウジアラビアRCでアルテヴェローチェの2着に敗れたタイセイカレントですが、この馬は良い脚をもっていると思います。イラスト付きで紹介したいと考えたくらいでした。
サウジRCでは出遅れ最高方のスタートながら、直線で脚を使うと馬場の内側を走り、アルテを除く5頭をなで斬りにしました。直線進入時にGOサインを入れられると、若干ふらつく仕草を見せましたが、それでいてあの破壊力ですから今後に期待したくなるものを持っています
この馬もモーリス産駒ですね、気性にはかなり幼い部分がありそうです。
今回坂井瑠星騎手に乗り替りということで、川田騎手・松山騎手に続く実績を近年の京都マイルでは残してきています。今回外枠を引いたので、思い切って前走同様に後方から運び、下りコーナーあたりから仕掛けるレースを期待したいです。馬券には組み込むと思いますので、お願いだから前目につけすぎないで欲しいです(;^_^A

~終わりに~編集後記的なやつ

お疲れ様でございます。
ここまで、というか最後までご読みいただき改めてありがとうございました。気づけば金曜夕方?夜?んー、どっちにしても予想を投稿するには遅すぎるタイミングになってしまいました。
(;'∀')ごめんなさい💦
最近は読者様も増え期待に応えたい一方で、睡眠不足と年末の進行が重なり一昨日から少し低調気味でした。
Xのポストで暖かいお言葉をかけてくれた方、繰り返しになりますが、ありがとうございました。

次週は休みも取れそうなので、いよいよ年末恒例のGPレース有馬記念の記事を書いていきたいと思います。
冒頭コラムは…まだ白紙(;^ω^)
たぶん池添騎手の話とかそんな感じで、予想の方もいつも以上に掘り下げていきたいと思っていますが、果たして…?(゜.゜)

色々と暖かい言葉もかけていただきましたので、無理せずマイペースにやっていこうと思いますので、どうぞ今後ともよろしくお願い致します。
ではまた…。


今回参照にさせていただいたサイト


























いいなと思ったら応援しよう!

タイツ・競馬ライター【無料予想と馬のお話】
いつかプロライターになることが目標です