マガジンのカバー画像

優駿たちと「あなた」の物語

33
2024年、予想とともに掲載してきた「序文」。 この馬のコラムをまとめてマガジンにしてみました。過去のものには一部加筆修正を加えてお届けします。 競馬ファンの「あなた」に読んでい…
運営しているクリエイター

#ドウデュース

GⅠ有馬記念

序文:Fool's Gold(愚者の黄金) 黄鉄鉱、英名パイロライトは硫化鉱物(金属元素が硫黄と結合している鉱物)の一種である。鉄と硫黄からなり、化学組成はFeS2で表される。馴染みのない名称かも知れないが、黄鉄鉱は比較的採取しやすく、昔から安価で取引されてきた。 黄鉄鉱は多量の硫黄を含むため、製鉄のための原料としては向いていない。しかしその半導体の性質から、昭和初期頃には鉱石ラジオの検波器などに用いられていた。当然のことながら近年ではそのような需要はない。 近頃では黄鉄鉱

GⅠジャパンカップ

序文:巨人殺しのパラドックス旧約聖書に登場する巨人ゴリアテは、身の丈290cmを超える大男だったと伝えられる。 青銅の兜をかぶり、帷子(かたびら)と膝当てを身に纏い、重さ7キロの鉄の大槍を片手で振り回した。 イスラエル王国に敵対するフィリスティア軍の大将格として、サウル王が治めるエルサレムに侵攻し、多くの敵兵を殺めてきた。 この向かう処敵なしの大男を迎え撃ったのは、ダビデという名の小柄な羊飼いの青年だった。 剣も槍も持たぬ、鎧さえも身につけないまま、ダビデはその拳に掴んだ石を

GⅠ天皇賞・秋

序文:皇帝のいない十月 1985年10月27日15時37分、府中・東京競馬場。 騎手・根本康広29歳。 ゴール板を横切る瞬間、こんなことを考えていた。 「いま横目に見えたの、ルドルフの勝負服じゃね?」 目の前には緑のターフと、空一面の青だけが広がっていた。 さっきまで聞こえていた耳をつんざくような歓声は、いつの間にか何も聞こえなくなっていた…。 第92回を迎えた伝統の一戦、天皇賞・秋。このレースには史上最強の呼び声高い、あの「皇帝」シンボリルドルフが出走していた。 史上

GⅠ宝塚記念

序文:能事畢れり 能事【のうじ】畢る【おわ-る】 とは「できることは、すべてやり尽くしてしまうこと」を意味する。 明治44年「三田文学」に寄稿された森鴎外の自伝的短編「妄想」のなかに、「日の要求に応じて能事畢るとするには足ることを知らなくてはならない」の一文がある。この「能事」という言葉の初出は儒教の経典の一つ『易経』に由来を発している。これは「八卦」、現代でいう東洋占術の起源であり、ここでは「天下の能事畢る(この世界で起こりうるあらゆることを、すべて占うことができる)」と述