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エクスコーダーズ(特別な印を持つ者たち)🔥 第四話:「試される者」🔥
前書き
人は「選ばれる」ことで、幸せになれるのだろうか?
才能を持つことは祝福か、それとも呪いなのか?
この物語は、ある一人の少年が**「選ばれた存在」として運命を背負いながらも、その意味を問い直していく物語である。
日本最大の製薬企業「ミネルヴァ・バイオテック」が掲げるスローガンは、「遺伝子は、選ばれた者を求める。」**
しかし、その言葉の裏には、誰もが知りたくない残酷な真実が隠されていた。
「SSP(スペシャル・サポート・プログラム)」――それは、特異な才能を持つ子供たちを集め、能力を開発する極秘計画。
だが、その本当の目的は、「次世代兵器の創出」にあった。
そして、その計画の犠牲になった少年がいる。
彼の名は相馬海斗。
選ばれながらも捨てられ、力を持ちながらも知らされず、戦う理由すら与えられなかった彼は、やがて自分の「真実」に向き合うことになる。
これは、運命に抗い、自分自身を取り戻そうとする少年の戦いの記録である。
――たとえ「選ばれた者」としてではなく、一人の人間として生きるために。
1. 回想:霧崎紗月、T-47の生存者
📍 数ヶ月前——霧崎紗月の視点
静かな夜の学校の裏庭。
風が吹き抜け、月明かりが薄く地面を照らしている。
その場に立つ少女——霧崎紗月は、じっと一人の少年を見つめていた。
「……君、**藤堂迅也(ジンヤ)**でしょう?」
不意に名前を呼ばれ、迅也は驚いたように振り返る。
「……誰だ?」
「霧崎紗月。君の”過去”を知る者よ。」
迅也は警戒しつつも、目を細める。
「俺の過去?」
「そう。君は、**T-48の”失敗作”**よ。」
一瞬、時間が止まったように感じた。
「……冗談だろ?」
「冗談じゃないわ。」
紗月は静かに言い切った。
「君は異常な動体視力を持っているでしょう? 普通の人間なら反応できない速度で動くものを見て、理解できる。 それは”訓練”や”才能”じゃない——君が”生まれながらに与えられたもの”よ。」
「……!」
迅也は息を飲んだ。
「君は記憶を消されている。でも、私は知っている。君は、私と同じ”実験体”だったのよ。」
「……実験体?」
迅也の眉がわずかに動いた。
「どういうことだ?」
「君はT-48の”失敗作”として分類され、記憶を消されて普通の生活を送ることになった。」
「……」
迅也は何も答えなかった。
「でもね、記憶が消されても、“身体”は覚えているのよ。」
紗月はゆっくりと歩み寄り、迅也の目を覗き込む。
「君は、瞬時に動く物体を見極める能力がある。これがどこから来たのか、考えたことはない?」
「……」
「それは”テスト”によって強化されたもの。君の記憶は消されていても、身体の反応はテスト時の訓練の影響を残しているの。」
迅也は目を見開いた。
「……だから、俺は……?」
「そう。T-48の被験者。」
「……T-47ってのは?」
「それが私たちの世代よ。」
「私たちは、君より1つ前の実験グループ。そして——私は記憶を消されなかった”生存者”。」
「……!」
紗月は静かに続けた。
「私は記憶を消されずに生き残った。だから、知っているの。君が持っている力の価値を。」
「……価値?」
迅也の手が無意識に震える。
「君の力は、ただの動体視力じゃない。“未来を視る”ための力に進化する可能性を秘めている。」
「……未来を、視る?」
「そう。」
紗月は優しく微笑んだ。
「君の力は、誰かを守るためにある。」
「……俺が、誰かを守る?」
迅也は拳を握る。
「俺に、そんなことができるのか?」
「できるわ。」
紗月は頷いた。
「そして、私はその力を正しく導く役目がある。」
迅也は迷いながらも、ゆっくりと答えた。
「……もし、それが本当なら……俺は、その力を使うよ。」
「いい返事ね。」
紗月は小さく笑うと、指を軽く弾いた。
——その瞬間、迅也の脳内に直接彼女の声が響いた。
(“本当なら”じゃなくて、もう君は持ってるのよ。)
「……ッ!?」
驚いた迅也が思わず後ずさる。
「な、なんだ今の!? お前、口を動かしてなかったよな……!?」
「ふふ、驚いた?」
紗月は悪戯っぽく微笑んだ。
「これは、私のエクスコード。超音波によって、脳に直接言葉を届けることができるの。」
「……脳に?」
「ええ。普通の人には聞こえない。でも、君みたいに”脳が活性化している人”には、私の声が届くのよ。」
「……ってことは、俺の脳も“活性化してる”ってことか?」
「そういうこと。」
紗月は真剣な表情になり、彼を見つめた。
「だからこそ、私は君を導こうと思ったのよ。」
(——そして、もう一人。)
(海斗のエクスコードも、制御できなければ”自分を滅ぼす”ものになる……。)
紗月は胸の奥でそう呟いた。
2. 現在——試される者
📍 体育の授業、ガルシアの試験
ドゴォォォン!!
ガルシアの拳が地面を砕く。
土煙が舞い上がり、衝撃で周囲の生徒がざわつく。
「な、なんだよ……今の攻撃……!」
「ガルシア先生、マジかよ……。」
その異様な光景の中、長内海斗は必死に回避を続けていた。
「迅也、次の攻撃は何?」
「3秒後、ガルシアは焦ってフルスイングの拳を振り下ろす! その隙に後方へ退け!」
「海斗、後ろへ退け!」
(ま、またか!?)
海斗は本能的に後方へ下がる。
次の瞬間——
ガルシアが勢い余って地面に拳を叩きつけた。
ズゴォォォン!!!
地面が激しく陥没し、ガルシアの拳が深くめり込んだまま抜けなくなる。
「……っ!?」
「ガ、ガルシア先生!?」
「何だこの穴!? 先生、大丈夫ですか!?」
他の教師や生徒たちが駆け寄り、混乱が広がる。
海斗は密かに安堵の息をついた。
迅也がそっと近づき、小声で囁く。
「ギリギリだったな。」
「お前の指示がなかったら、今頃俺は粉々だったよ……。」
「俺だけじゃない。紗月のサポートがなければ無理だった。」
海斗は紗月の方を見ると、彼女は何事もなかったかのように腕を組み、静かに状況を見守っていた。
「おい、何見てんのよ。」
「……いや、ありがとう。」
紗月は微笑むこともなく、あっさりと返した。
「別に。あなたに倒れられると困るだけよ。」
その言葉を聞いて、海斗はますます彼女の正体に疑問を抱いた。
(こいつ……俺のことをどこまで知っているんだ?)
「今日はここまで! 授業終了!」
体育教師の声が響き、混乱の中で授業は終わった。
🔥 次回予告:「暴走する鉄の拳」🔥
• 放課後、ガルシアが待ち伏せ。体育の試験は”序章”に過ぎなかった
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