見出し画像

幸福日和 #093「大自然のリズムの中で」

毎日の仕事に、家事に、
日常の雑務にと追われながら、
今日が何日で何曜日かも分からず、
時の流れを見失ってしまうことがあります。

そんな時にこそ、
この日常全体を包み込んでくれている、
大自然の速度やリズムを意識する。
そうして、時間の速度を少しだけゆっくりと調整してみる。

そんな、気持ちの余裕が必要なのだと思うんです。

✳︎ ✳︎ ✳︎

自然豊かな故郷を離れ、
都会でもがきながら仕事をしていた頃がありました。

どこまでも広がる高層ビル群の環境の中で、
色彩のない日常の中を、
無機質な時間だけが流れていました。

あの頃は仕事に必死で、
社会人としても認められたくて、
ただただ目の前のことだけを追いかけていたんです。

季節はいつも通りに規則正しく巡っていただろうに、
そんな四季の移り変わりを感じる時といえば、
スマホの中で流れる映像や、
テレビで伝えられる季節の便りだけでしかありませんでした。

そもそも昼間に、空や自然を眺める余裕すらなかった。

日が昇る前に出勤し、日が沈んだ後に帰宅する。
陽の光すら感じられないほどの日常を送る日々だったんです。

故郷の田舎で、
大自然に囲まれて四季を感じて育ってきた自分にとって、
ありえない時間との向き合い方でした。

✳︎ ✳︎ ✳︎

そんな無機質な毎日を送っていた
ある時のことです。

当時、僕が住んでいた都内の部屋に
花が届くようになったんです。

ある春に送られてきたのは、
桜の蕾がしっかり付いた小枝。
その小枝を部屋の花瓶にさして出勤して、
疲れた身体で帰宅すると、
小さく開いた桜の花が迎えてくれるんですね。

冬にも同じように、
今にも花開きそうな蕾をつけた椿が送られてきました。
寒い部屋を温めて、冬のひと時を過ごしていると、
その部屋の暖かさに反応するように
蕾がゆっくりと開いてくれるんです。

花だけではありません。
ある秋には、小箱にたっぷりと詰められた紅葉が
送られてきたこともありました。
そんな一枚一枚の紅葉を湯船に浮かべては、
忙しいない日常の中でも、
少しづつ季節への意識を取り戻すことができるように。

季節が巡るたびに、
無彩色の僕の日常に季節の彩りを送ってくれた人。
それは祖母だったんです。

いつかの帰省の時、
いつも身近にあったはずの故郷の山々を、
僕が目を潤ませながら眺めていたのを
祖母は忘れられなかったのだそう。

それ以来、祖母は季節の変わり目に
都会に住む僕に季節を届けてくれたんです。

✳︎ ✳︎ ✳︎

自分は少し急ぎすぎてはいないだろうか。
今でも、時にそう思うことはあります。

そうした時に、
あの時のことを思い出します。

時代を支える技術の発展は、その速度を加速させ、
そこに追いついてゆかねばと、
産業やビジネスも速度を増している昨今。

気がつけば、本来ゆったり歩むべき日常の速度までもが
異常な速さで巡ってしまっている気がします。

本来、その場所そのものの速度というものが
あったはずだと思うんです。

例えば、日が昇れば沈んでゆく、この星の規則正しい速度。
また、春には桜が咲き、冬には雪が降りそそぐ、
緩やかな四季の速度。

そうしたリズムを忘れてはいないだろうか。

行き過ぎた速度の中で、
大切な何かを見失ってはいないだろうか。

部屋に一輪の花を添えてみるのもいいかもしれません。
週末に大自然に触れたり、
毎朝の数分、陽の光を浴びるだけでもいいかもしれません。

そんなに急ぐ必要はないんです。

ゆったりと、おおらかに。
自然の速度に合わせながら、
ともに伴走しながら。

毎日と向き合ってゆけたら
どれだけ幸せなことだろうかと思うんです。


いいなと思ったら応援しよう!

Ryota【孤島物語】毎日更新
最後までお読みいただきありがとうございます。毎日時間を積み重ねながら、この場所から多くの人の毎日に影響を与えるものを発信できたらと。みなさんの良き日々を願って。

この記事が参加している募集