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レトロ座 1984年頃~2022年

ナポレオン (1927年/1981年修復)

音楽はカーマイン・コッポラ指揮によるオーケストラ演奏。蘇ったまぼろしのサイレントフィルム。歴史大作ナポレオン。当時のテレビCMの記憶はわずかながらも、宣伝映像の衝撃度は高く観に行きたいと思ったものだった。ただ前頁世界中に散逸したフィルムで述べたようにこの頃(80年代)の私はローティーンというかこどもだったので勿論映画鑑賞に至っていない。

1984年頃に【ナポレオン】のテレビ放映を観た。深夜に観始まったのが終わった時にはもう朝日が昇っていた。どこかしらカットした部分もあったかも知れないが、結局4時間くらいかかったのではないだろうか。そんなに長いものをなぜ最後まで観たのかというと、当時は西洋の歴史(漫画「ベルサイユのばら」と小説「悲しみの王妃」の影響)特にフランス史に興味を持っていた。もう一つはドラマとして人間模様に引き込まれてしまったからである。まず若かりしナポレオンの立身出世渇望のめばえ。革命時代において彼の軍事的知力や胆力を遺憾なく発揮する日々。それらを取り巻くフランスの荒廃した社会情勢が細やかに描かれており、軍人として戦争のたびに己の道を切り拓いてゆく野望の男の物語としてシンプルに面白いのである。但しラストは「俺達の戦いはこれからだ!」的な未来感を期待させつつFin 戴冠式もトラファルガーもワーテルローも出てこず、英雄の生涯を最後まで描ききってはいないものの、フランス革命の過渡期を学べた気もする。なお今作は私が鑑賞したモノクロサイレント映画第一号となった。

ここからは時代が飛んで、2022年現在の自分が調べて分かった範囲での簡素な考察です。元のフィルムはアベル・ガンス監督によるもので、フランス現代音楽のアルチュール・オネゲルが劇伴を担当。(オネゲルはパシフィック231からしてドラマティックですものね)フランスオリジナル版が存在するなら観たいのは山々。しかし噂では六部作のうちの第一部が12時間にも及ぶという。なるほど戴冠式やネルソン提督の出番どころではない。そして第二次世界大戦を経て第二部が製作されることもなかった。長編だったからアメリカ向けに相当カットされ、それでも興行的には上手くいかず(どこかで聞いたような・・・)続編の計画も頓挫したのだろう。しかし興味深いのは戦後、英国の映画研究家でフィルムコレクターのケヴィン・ブラウンローという人が長い年月をかけて【ナポレオン】のフィルム再発掘と修復を行ってきた。その修復版を是非とも世に出したいというフランシス・コッポラやクロード・ルルーシュらの協賛を得て1981年に公開されたということ。となると私がテレビで観たのはコッポラ協力のブラウンロー版なのかな。  言うまでもない事なのだけどブラウンローによる復元の功績は讃えられて然るべきだろう。彼が成し遂げた事はフランスのためだけでなく世界に捧ぐべき文化の補修、保存だと思うのだ。そしてその公開に尽力したルルーシュやコッポラの英断がなければ映画ナポレオンも果たして日の目を見たかどうか。

ただ一気に全編見通すというのはなかなか難しい長編大作であり、疲労がたまるので皆さんに積極的に勧めはしない。もしご興味あらば数回に分けて観てはいかがだろうか。何度も見返す映画ではないが、一度観るとナポレオンという人物の圧倒的存在感がいつまでも残る。そして先人アベル・ガンスの追求した撮影技法のイノベーションとその衝撃的な効果に、忘れ得ぬ作品となるかも知れない。
ブラウンローやコッポラが尽力した公開から更に時を経て、地元フランスでは【ナポレオン】の研究が深まり現在も再修復が続いている。