Roland V-160HDからATEM Constellation HD 2M/Eに替えたので比較してみた
主力スイッチャーを使い慣れたRoland V-160HDからATEM Constellation HD 2M/Eに替えたのですが、比較レビューしてみようと思います。
【参考になりそうな方】
・100万円未満程度のスイッチャーを比較検討している方
・小中規模のハイブリッド配信を行っている方
機材を切り替えた背景
2020年来、コロナ流行という背景もあり、人が最小限のスタジオでのオンライン配信、大きくても数十人規模のホールでのハイブリッド配信を多く受注していました。 その範囲内であれば、5m程度のHDMI、電波による伝送、どうしても長距離伝送が必要であれば光ファイバーのHDMIで対応する事でこなしておりました。
しかし、2022年以降、制限緩和や小規模配信の内製化等によって小規模~中規模、時には大規模なハイブリッド配信が多くなってきました。 それによって、観客増加による会場電波状況の悪化、ケーブル事故(と光ケーブル断線)の増加、会場の大型化によって演者へのモニター種類の増加などが重なり、出力の多様化と30m程度の長距離伝送を同時に達成する必要が徐々に出てきたことで、SDI化を決断しました。(個人事業のため、NDI化は断念)
主な用途
300人規模のホールでのカンファレンスでのオンライン登壇あり有観客オンライン配信
映像入力
V-160HD:8 HDMI、8 SDI
ATEM Constellation HD 2M/E:20 SDI
コンバータがめちゃ必要なので機材の工夫で減らす努力を
Zoom登壇者やスライドの投影などでHDMIしか出力できない機材が多い現場ですが、SDIだけになったことでコンバータが大量に必要になりました。
一つ想定外だったのが、Zoomの正副PCに対してコンバーターが入出力各2台ずつ必要になったことです。当たり前なのですが、「PC2台でコンバータ4台かぁ」っていう釣り合わない感じです。できれば、BMD Ultrastudio Recorderなどを使えるThunderbolt3端子があるPCを用意したほうがコンバータが減っていいですね。
映像出力
V-160HD:3 HDMI、3 SDI、1 USB typeC
ATEM Constellation HD 2M/E:12 SDI+2 SDI(マルチビュー専用)
そもそも出力数がめちゃくちゃ多い
まず、出力数が違います。これまでずっと使ってきた分配器を使わなくなりました。SDIが多いことでコンバータのLOOP OUTがあることで複数台の返しモニタをスター型ではなくデイジーチェーンで作れるというのも副産物として
AUXバスがめちゃくちゃ多いので返しを多様にできる
それよりも大きな違いが、AUXバスの数です。
V-160HDでは1、ATEM Constellation HD 2M/Eでは12ありますので、一度すべての映像をスイッチャーに入れたあと、(コンバータと比べて)電源の心配のないスイッチャーからステージ下のモニターに多くの種類の映像を出すことができます。これがとてつもなく大きい。仕様に縛られて「できません」ということが格段に減りました。機材が足りないことでの制限は機材を買えばいいので問題ありません。
電源の心配、というのは例えばスライドPCから返しとスイッチャーに映像を出そうとすると5m以上のケーブルをPCから2本出す必要があり、信号の強さが心配になりますが、一度スイッチャーを挟むとPCからは1本だけですみます、位の意味です。
USB outがないのが地味につらい。正副系統確保は機材の工夫で
V-160HDを使っていたときは、HDMI outとUSB outの両方からPGMを出力し、PCにキャプチャーボードとUSB経由で入力して正副構成としていました。しかし、ATEM Constellation HD 2M/EにはUSB outがありませんので、使わない選択をするか、別の方法でUSB outを作る必要があります。
私のATEM Constellation HD 2M/Eが入っているラックには、Web Presenter HDが2台あります。WebPresenterにはWEBCAM OUTがありますので、ここからPCに入力しています。余談ですが、MONITOR OUTもATEM Constellation HD 2M/Eに入力して見られるようにしています。
映像処理
PinP、キー、DSK数は互角、設定のやりやすさはV-160HDが上
この辺はほぼ同じです。PinPを4つ、クロマキーやルマキー(ルミナンスキー)あたりについてはV-160HDとATEM Constellation HD 2M/Eの差は余り感じません。設定のやりやすさは設定項目の少なさとほぼイコールになってしまいますが、V-160HDのほうがやりやすいと感じました。
クロマキー(グリーンバック合成)は格段にレベルが高い
僕がV-160HDに対して抱いていた不満は多くありません。その中で強く不満だったのがクロマキーの品質が低いこと。特にエッジ部分の処理がデジタル過ぎてシャギーがかかったようになる上に納得できる品質に至る設定の幅はむちゃくちゃ狭く、少し環境が変わっただけで外れてしまっていました。あまりに品質が低いので、BMDのUltimatte 12 HDを購入して使っていました。
※余談参照
トランジションがエグい
もちろんmixや単純なワイプ、カットについては能力の差はありません。しかし、ATEM Constellation HD 2M/Eではもっと豊かなトランジションを作ることができます。いいなと思ったのは2つ。グラフィック・トランジションとスティンガーです。
グラフィック・トランジションはワイプのボーダーにグラフィックを乗せるものです。見た目が派手なのでちょっと使いづらいと思うかもしれませんが、使える場所としては
・プレゼンの開始、終了
・動画の開始、終了
・セクションの区切り
といった、明確にシーンが変わるところで使うと非常に効果的です。
スティンガーも似たような効果を持ちます。ワイプやディップのときに表彰式で賞の名前を表示したり、トロフィーが回転しているアニメーションを使うことで印象を強くすることができます。
強力なSuperSource
ATEM Constellation HD 2M/Eを使い始める前は「SuperSourceってPinPの組み合わせをメモリーしてるだけでしょ?w」って思っていましたし、似たことはV-160HDでも可能かと思います。
しかし、SuperSourceは1つの入力として扱うことができます。
さらに、キーフレームを併用することでアニメーションを利用することができますし、面倒ならMixEffect Proを使うことで簡単に扱うことができます。下手したらスイッチングではなくこのレイアウトの選択だけで配信が終わるかもしれない、非常にパワフルなものでした。もうちょっと使い込んでみますが、すでにとても良いです。
余談:Ultimatte 12 HDはすごい
余談ですが、Ultimatte 12シリーズの合成はエグいです。これは上記のようにUltimatte 12 HDを挟んでV-160HDで扱っている映像ですが、水のボトルの向う側にあるバーチャルセットが、水のペットボトルが消し飛ぶことなく透過しているのがわかりますが、V-160HDではこんな芸当は無理です。キャップとラベル意外は消し飛んでしまいます。
音声入出力
【入力】
V-160HD:2 XLR/6.3mmTRSコンボジャック、RCA
ATEM Constellation HD 2M/E:2 6.3mmTRS
【出力】
V-160HD:2 XLR、RCA
ATEM Constellation HD 2M/E:なし
貧弱なインターフェース
正直、ATEM Constellation HD 2M/Eの音声処理面は非常に貧弱です。コンセプト的にも「音声と映像を分ける」という専門機材化を進めた先に行き着く機材という位置づけなので当然です。ただし、Software controlで最低限の処理はできるという感じです。音声入力に対してGateやCompをかけることはできますが、ミキサー経由で音をもらうときには意味はありません。一ついいな、と思ったのはオーディオの入力レベルを変えられることですかね。
さすが楽器メーカーは違う
一方、楽器メーカーであるRolandは流石に音声が非常に強いです。XLRで入力できるV-160HDはまず使いやすい。モノラルで入力しても使うことができますし、もちろんステレオリンクで使うこともできます。アナログゲインとデジタルゲインを分けて設定できますし、パネル上でも入力ゲイン調節できますし、マスター出力、AUX出力、USB出力音量を個別につまみで調節できます。
出力についてもMASTERを2系統(XLR L/R、RCA L/R)出力できるようになっていますので、副調整室がある場合にはそこに流すこともできますし、別途録音する場合はここから出せば良かったりします。
切り替えに切り替えてよかったこと、TIPS
光ファイバーHDMIケーブルの断線がなくなった
毎回5~10本は使っていて、たいてい1本は雑な巻き方や引っ掛けて折れたりコネクタカバーが吹っ飛んでいた光ファイバーHDMIケーブルを使わなくて良くなりました・・・
ケーブルの方向を気にしなくても良くなった
ほぼ同じなのですが、光HDMIケーブルは方向があり、アシスタントが30m引き回したあとにdisplayとsource逆じゃん、ってことがよく起こっていたので、方向がないSDIは神。
タブレットのために自前無線APが便利
mix Effect proなどATEMを操作したり、dbxのスピーカープロセッサーVenu360を操作したり、ミキサー(soundcraft Ui24R)を操作するためのタブレットが大量にありますが、その接続を全部有線にすると特性が活かしきれませんので、自前で無線APを作るとめちゃ便利です。
ATEMと周辺機器の連動が取りやすくて良い
hyperdeckとの連動、今までモニターを別に用意していたWeb Presenterのモニタリングなどやりやすいですね。REFはまだ繋いでないので、TCの管理はもうちょっとやりやすくなると思います
ATEMを動かせるサードパーティー製ツールが多い
Streamdeck、Companion、MixEffect proなど、実績が多い便利なサードパーティー製ツールが多いので、最悪(というか、ほぼ)コンパネがなくても思い通り以上の操作ができるようになると思います。
初投入現場で発生したトラブル
IPベースの機材が増えたことによるものと、SDIが主体になったことで発生したトラブルがあります。
LANケーブルが大量に必要になった
ATEM Constellation HD 2M/Eと、その周辺機材はIPベースで動くものが非常に多いので、すべて同じネットワーク上にある必要がありました。そのため、単にネットワーク上にある必要がある機材が激増しました。
しっかりとしたネットワーク知識が必要になった
PTZカメラはPoEで電源供給してLANで操作、ATEM Constellation HD 2M/EとコンパネはLANで接続、などIPベースの接続が増えた結果、各機材のIP設定でネットワーク知識を求められることが増えました。
実際に発生したこととしてはうっかり「ルータに接続しないままDHCPによる接続をしようとした」でしたが、最低でも、
・ローカルIP
・サブネットマスク
・デフォルトゲートウェイ
・DHCPと固定IP
・ルータとハブ
についてしっかり理解する必要があるかと思います。
クライアント持ち込み機材とのレベル違い
ATEM Constellation HD 2M/EはデフォルトでSDI レベルBですが、クライアントのコンバータのSDIレベルがA/B混在で、クライアントがレベルを変えられない機材が1つあったことですべてレベルAに揃える必要がありました。
すべてのコンバータをPCに繋いではレベルAに変える、というのを15台位やりました・・・
圧倒的にケーブル本数が足りない
これまでPCのようなHDMIを出力する機材はスイッチャーまでHDMIだけで良かったのですが、受け側がSDIになったことでHDMI+SDIとなりました。
その分だけSDIケーブルの本数が必要になり、危うく足りなくなるところでした。
熱対策はしっかり
ATEM Constellation HD 2M/Eは結構発熱します。
僕のラックは、サイドをパンチングパネルにして通気性を確保していますが、結構熱トラブルは多いようです。気をつけましょう。
BMDの機材は並べて設置すると風が通るような構造になっていますので、並べるならしっかり並べましょう。
まとめ
まだ運用機会は数回ですが、概ね演出面とSDI化については歓迎しています。切り替えて品質が下がった、ということは全く無かったので満足しています。
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