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人気作家のエッセイが面白いとは限らないと知った高校生と司書さんの話

大人気の小説家でも、エッセイは全く面白くないことがある。
ページをめくる前の期待と読後の絶望からくる落胆から怒りに転嫁してしまうくらいの仕上がりで世の中に発表してしまうことがある。

高校生の時、人気作家が初エッセイを出したと知って学校の図書室にリクエストをしたことがある。好きな画家の画集や推しが掲載されている雑誌などを少ない小遣いを駆使して貪り購入するタイプの生徒だった私は、読書を好んではいたものの毎回書籍を購入できるだけの財力は無かった。

通っていた高校の図書室は、学生たちが委員制度で運営するタイプのものではなく知識豊富な司書さんが管理をしてくれている恵まれた場所だった。
学校からの予算がどれくらいだったのかは知らないけれど、在学生の要望を聞くためのリクエストボックスも設置されていて、わりとすんなり購入してもらえる。
図書室には体調不良で欠席した日以外ほぼ毎日通っていた。
気さくな物言いをする司書さんとも本以外の話をする間柄となっていた。ある日リクエストボックスに要望書を出している大半があなただよと告げられて、全部読めないでしょと笑われた。
書店で見かけて気になったもの、雑誌やテレビ、ラジオなどで紹介されたものなど各所より集めた情報から気になるものを片っ端からリクエストしていたので、しょうもない本は買えないよと笑いながら忠告を受けた。

ある日、司書さんが私がリクエストした書籍について意思確認をしてきた。リクエストが多すぎるので精査するために、私がどれくらい読みたいのか、その熱意によって購入するかどうかを決めようというのだ。

人気作家の初エッセイ

デビュー作から数冊、情緒的な作風から出版すればヒットするといった現象を起こす作家の初エッセイに期待しかなかった。
本当に読みたいの?
司書さんの質問に、人気作家がどのような日常を送りどういった感情を持つのか知りたい云々、熱心なプレゼンを展開した。
熱のこもったプレゼンを聞き終わって、この人のエッセイなんて絶対面白くないよと司書さん。

結局、購入許可をもらえて数日後に初エッセイが図書室に届いた。
もちろん貸出第一号は私。
やっと購入してもらえた嬉しさで、学校帰りのバス車内で読み始めた。

ビニールカバーでコーティングされた新刊。
熱いプレゼンで勝ち取った本。個人的な思いが次々に乗っかっていき至宝かのように感じ始めていた。

たくさんふりかけた旨味しかないスパイスたちが、わりと早めの段階で流れていく。
ああ、本当だ。
司書さんの言っていたことが正しかった。

まったく全然どこも、どの行も面白くない。
あんなに素敵な小説を書く人なのに…

返却時、全く面白くなかったことを司書さんに告げて完敗を認めた。
そうであろう、そうであろう。
満足げな司書さんと、いっそ仲良くなった。図書館学を専攻し読書量も半端ない司書さんの審美眼が素晴らしく、図書室に与えられた予算をつかさどるに相応しい人物だと再認識した日だった。
高評価しか書かないメディアに踊らされた未熟な高校生の貴重なおこづかいの損出は免れたので、本当にありがたい限りだ。

面白くないものをあえて読んで確認させる。
これも学びとして、与えてもらえたのかな。




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