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【コラム】過渡期を迎えるアビトゥア制度

報道によると、最近ではアビトゥアで高得点を獲得する生徒が増えているようです。少し遡りますが、高得点取得者の割合が、2008年には20%であったのに対して、2018年には26%に上昇。つまり、4人に1人が高得点取得者ということになります。ここで注目すべきは、高得点取得者の割合が州によって異なる点です。2018年の結果を見ると、首位のThüringen州と最下位のSchleswig-Holstein州では、開きが約2倍となっています。

高得点取得者が増えているにもかかわらず、大学に進学した学生については、数学などの教科に関する基礎知識の欠如が指摘されており、大学での学習能力がアビトゥアの好結果に伴っていないことが問題視されています。

それは一体、なぜでしょうか。よく挙げられるのが、『アビトゥアの簡易化』、つまり、「国民の教育水準を底上げするために、アビトゥアを取得しやすくしている」という主張です。

学校中退者を減らし、アビトゥア高得点取得者を増やすことなどを通じて、国民の教育水準の底上げをドイツが図ろうとしているのは事実です。しかし、当該政策と『アビトゥアの簡易化』に因果関係があるか否かについては、今後のさらなる精査を必要とするようです。

アビトゥアに関しては、①各州が独自の学校制度を採用しており、アビトゥアに先立つカリキュラムにも相違が見受けられること、②PISAに代表されるような一律的な調査結果がないことから、単純に今と昔、ましてや各州を比較することができないのが、話を厄介にしています。州間格差が大きいからといって、「高得点取得者が多い州の学校制度が整っていない」とか「高得点取得者が多い州のアビトゥアは簡単だ」などと短絡的に結論付けることはできないのです。

もし仮にアビトゥアの成績が、州が採用する学校制度の影響を受けるとしたら、子ども達の将来が居住地によって左右され、それは公平性を欠くこととなります。そこでKMK(Kultusministerkonferenz・ 常習各州文部大臣会議)は、数学・ドイツ語・英語・フランス語について共通の問題群(Aufgabenpool)を作成し、各州はその中から問題を選択することにしました。各州の比較可能性を高めることが、2017年から執行されている当該政策に秘められた狙いです。

しかし、そこには落とし穴が。各州の教育制度が異なるため、KMKが用意した問題を採用するには、その問題が解けるようなカリキュラムに組みなおす必要性が、場合によっては生じるのです。それがどれだけ大変な作業であるかは、容易に想像がつくでしょう。というわけで各州には、KMKが用意した問題を一部加工することができるという抜け道が用意されています。これでは、KMKの当初の目的であった「各州の比較可能性を高める」ことは難しいでしょうね。

報道をみる限り、アビトゥアは現在、過渡期を迎えており、誰もが納得できる制度が整うまではまだまだ前途多難であるという印象を受けます。僕としては、議論が今後どう展開するにしろ、『学ぶことの楽しさ』を自ら発見できる環境が、すべての子ども達に与えられることを願うばかりです。

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