暗黒時代の始まり
前にお話しした『スイッチ』が入ったこともあり、現地校・補習校ともに充実した学校生活を送ってきた僕ですが、ギムナジウムの高等部に進むと同時に事態が暗転しました。その背景には、ギムナジウム高等部の仕組みが絡んでいます。
ギムナジウムでは高等部(11〜13学年)になるといわゆるクラスがなくなり、学校側がつくったカリキュラムを基に、教師との相談の上で、生徒が各自の時間割表を組むという体制に変わります。例えば、「今期の英語の授業はA先生とB先生が担当し、それぞれのテーマが『人権問題』と『ヘミングウェイ』なので、僕はA先生の『人権問題』を選択しよう」といった感じに。このシステム、生徒が自身の関心分野を自ら選び、その理解を深めるという意味においてはとても有益ですよね。
しかし、です。これだと今までのクラスがなくなってしまうわけです。5年生から10年生まではメンバーチェンジがほとんどなく、団結力がもっとも高かった10年生での突然のクラス解体・・・その影響は、僕の当時の想像力をはるかに超えていました。それまでは「多少ドイツ語がおかしくても、心の許せる仲間の前だから、間違って発言しちゃってもいいや」という勇気が持てたのですが、その仲間達がいなくなった今、僕は心の拠り所を失うと同時に、「自分のドイツ語力に自信がない」というコンプレックスを再び抱くようになり、どんどん引っ込み思案になっていきました。
クラスが今までずっといっしょだった生徒とは当然会うし、喋ったりもするのですが、やはり何かが違うのです。そりゃそうです。彼らも彼らなりに、高等部という未知なる世界で、そう遠くないアビトゥアに向けて頑張ろうとしているわけです。過去の思い出に耽ってばかりはいられません。
大半の生徒が、この中等部から高等部への移行を難なくクリアどころか、高等部を「友人関係をさらに広げる絶好のチャンス」と前向きにとらえたのに対して、自分の語学力が原因で完全に乗り遅れてしまった自分。この予想だにしない展開に、行き場のない不安を抱いたことを今でも覚えています。正にこれは、僕にとっての暗黒期の始まりだったのです。