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ありがとう、寅さん。

僕が『自分の柱』を構築するために、日本への帰国を決意したこと、また、和也との出会いが、自分の背中を押したことは、すでに述べました。実は、僕が「日本に帰りたい」と思うようになったきっかけは、さらにもう一つあるんです。それは、渥美清さんが演じる『寅さん』でおなじみの『男はつらいよ』シリーズです。
 
僕がドイツで中学~高校時代を送っていた頃は、少なくとも僕を取り囲む日本人社会においては、日本に対する偏見が蔓延していました。「ドイツの学生はみんなマジメだけど、日本の学生はみんなチャラチャラしてる」、「日本に住んでいるとストレスばかり溜まる」・・・例を挙げたらきりがありません。
 
かくいう自分も恥ずかしながら、そのような偏見をもっていました。しかし、偏った見方をしながらも、違和感を抱いていたのも事実。「自分達も日本人なのに、自らの首を絞めるようなことばかり言って楽しいのか、そもそも、『日本人は・・・』という発言に根拠はあるのか」と。この違和感に対する自分なりの答えを出したいと思ったのが、日本への帰国を決意した理由の一つです。
 
そんな時に出会ったのが、寅さん。
 
僕が『男はつらいよ』を観る度に、寅さんが訪れる日本各地の郷愁感漂う風景や、寅さんを囲む人々の人間臭さに心を惹かれたことを覚えています。1995年の夏に帰国してから、すでに何度、柴又を訪れたことか。
 
『男はつらいよ』シリーズにレギュラーで出演する寅さんの甥・満男は、勉強や将来のことで不安が尽きない、悩み多き青年。そんな満男と、日本語もドイツ語も中途半端で自信喪失気味だった自分が重なり、ある種の親近感を抱いたことが、僕が『男はつらいよ』シリーズにのめり込むきっかけだったのだと思います。
 
第40作『男はつらいよ・寅次郎サラダ記念日』で、満男は寅さんに「人はなんのために勉強するのかな」と質問します。それに対して寅さんは、こう答えたのです:
 
「人間、長い間生きてりゃいろんなことにぶつかるだろう。そんな時、俺みてえに勉強してないヤツは、振ったサイコロの出た目で決めるとか、その時の気分で決めるよりしょうがない。ところが、勉強したヤツは自分の頭で、きちんと筋道を立てて、「こういう時はどうしたらいいかな?」と考えることができるんだ。」
 
デール・カーネギーがその名著『道は開ける』で述べているように、人間が抱える悩みの原因は、外部の状況にあるのではなく、状況に対する自分自分の考え方にあり、状況がどうであれ、考え方次第で人間は悩みから解放されます。満男に対して寅さんは、この『自分で考えることの大切さ』というものを説いたのではないでしょうか。
 
僕は『自分の柱』を構築するために日本へ帰国することを決意したわけですが、それは正しく自分の考えであり、その判断は適切だったと断言できます。若い頃は「ドイツ語が苦手、日本語も中途半端」など、色々悩みもしましたが、そこから自分で考え、自分なりの決断を下す勇気を持てたことを、嬉しく思っています。まったくもって、寅さんの言うとおりですね。

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