【コラム】ドイツの学校で求められる発言力とそれを支える思考法
今回は、『ドイツで求められる発言力』について考えてみたいと思います。一般的にドイツの学校では、発言することを通じて授業に貢献することが求められますが、では具体的に、発言力とはどのように身につけられているのでしょうか?自分の記憶を辿りつつ、ドイツで求められる発言力について整理したいと思います。
対比的論述方法を学ぶ
発言力を身につけるに際して、ドイツの学校で重視されているのは、『論理的な構成力』を養うことであり、そのために授業においては『論述(Erörterung)』の練習を繰り返し行います。論述にはいくつかの方法がありますが、ドイツの学校でよく用いられているのは『対比的論述方法(dialektische Erörterung)』。対比的論述方法は、あるテーマの肯定派と否定派がそれぞれの立場を論じるときや、一つのテーマについて様々な意見が出されたときに自分の主張を述べる際に用いられる手法です。様々な意見が出される中、それぞれの立場を相互に説明することによって結論を導き出すことを趣旨とします。
わかりやすい例で言えば、「選挙権を18歳から持つべきか」というテーマについて、「私は18歳から持つべきと思う」と、「僕は18歳は早すぎると思う」と相反する意見について議論し、お互いの言い分を考慮しながら答えを見出す、といった感じです。
また、歴史の授業などでもこの方法が応用されたのを覚えています。例えば、「ドイツを第二次世界大戦に導いた要因は何か」というテーマについて、それまでに学んだ歴史的事実を踏まえながら議論するわけです。「当時のドイツがファシズムに走ったことが原因だった」という意見に対し、「いや、それよりさらに遡り、当時の世界恐慌の背景について考える必要がある」といった具合に。
当時の僕といえば、「歴史は既存事実について学ぶ科目なんだから、今さら議論するまでもないじゃん」と冷めていたのですが、今思えば、既存事実を踏まえた上で自分の意見を持ち、相手の意見も聞き入れることを目的としていたんですね。
議論の方法、学んだはずだが・・・
対比的論述方法を含む議論の方法を、学校ではしっかりと学ぶ・・・のですが、教育の場以外、例えば会社などでもそれはちゃんと機能しているのでしょうか。もちろん、一概には言えないのですが、僕が実際にドイツの会社において経験した限りでは、「機能している」と断言できない面もあると思います。あくまで僕の経験に基づく話ではあるのですが、ドイツの会社における会議、とりわけ社内会議に際しては、相手のペースに合わせたくないが故に議論が平行線をたどったり、揚げ足をとったり、相手に誤解されていると勘違いしたことが無駄な議論に発展するといったような非効率性が散見されます。例えば・・・
A 今回はプロジェクトが延期になって残念だったね。
B たしかに。でも、完全に中止になった訳ではないしね。希望を捨てちゃダメだよね!
A いや、別に「希望を捨てた」なんては言ってないけど。
B いや、あなたが「希望を捨てた」とは言ってないことはわかってるけど。
A いや、あなたがわかってることぐらいは前からわかってるけど。
B ・・・「前から」って??
A ・・・(呆)
一見誇張に見えますが、この手の『議論』は、ドイツではよく起こり得ることです。「でもそれでは、学校で習得したはずの論述テクニックが活かされないではないか」とツッコまれそうではありますが・・・。
演繹法 vs 帰納法
さて、発言するに際しての思考法は、①演繹法と②帰納法に大別されます。前者が一般的原理から結論を導き出す思考法であるのに対して、後者は個別の事象から普遍性を見出します。
ドイツの学校教育においてどちらの思考法が主に適用されているかという点については、あくまで僕個人の見解ではありますが、科目によって使い分けられていると思います。
それは、7年生のときから学び始めたフランス語の授業でのこと。いきなり先生から「Avez-vous passé de bonnes vacances d'été?」というフランス語の集中攻撃を受けて、僕達は完全に度肝を抜かれたわけですが、その後、この文を用いながら動詞の活用形や定冠詞などを勉強していきました。つまり、例文から一般原則を導き出していったのです。これは正に、帰納法の一例ですね。
数学では逆でした。ギムナジウム高等部のとき、ある公式について、それがなぜ成り立つのかを、みんなで議論したのを覚えています。その公式が実際に成り立つことを証明し、クラスの全員が納得して初めて、応用問題に取りかかりました。これは、演繹法の典型ではないでしょうか。
日常生活においては、我々はこれら2つの思考法を自然に使い分けているのでしょうが、学校教育においても、僕が経験した限りではケースバイケースであるのは興味深いですね。
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