【コラム】ドイツにおける学校の外部評価
ドイツには学校の偏差値ランキングはない(と思う)のですが、行政当局による『学校外部評価』があることをご存知でしょうか?
学校外部評価が導入されるに至った経緯を簡単におさらいすると・・・ドイツにおける1960年代~1970年代は、総合学校(Gesamtschule)が導入されたり、「同じ学校種に見受けられる学力差を是正すべき」との議論が展開されたりと、『教育改革の時代』と呼ばれるに相応しい時代でした。1980年代には、「そもそも『良い学校』とは何か」という議論が活発化。それを受けて、1990年代に入ると、学校の自己評価が試験的に実施されるようになりました。2001年の『PISAショック』前後においては、学校教育改革の流れの中で、学校の自己評価と行政当局による外部評価が平行して進められるように。その後、全州に外部評価が導入されるにようになったのです。
学校外部評価の目的は、あくまで『学校教育の質保証および質開発』です。学校ごとの特徴や長所・短所を明らかにした上で、その結果を学校のさらなる開発につなげることを意図しており、学校のランキング化を図っているわけではありません。重要なのは、学校外部評価を受けた後、学校が改善策を策定し、それをどのように実施していくか、という点です。
学校外部評価の大まかな流れは、次のとおりです。評価を受ける学校は、行政当局により選択される場合と、学校側が希望する場合があります。4人前後で構成される評価チームの学校訪問は通常2~4日程度で、その間に書類や資料の分析、授業観察、学校管理職や保護者との面談などを実施します。その数週間後に、評価チームは学校に報告書を送付し、報告書を受け取った学校は改善計画を作成し、行政当局と目標協定を締結します。
外部評価に関する基準は、ヘッセン州を例にとると、州文部省が所轄する質開発庁が作成した『ヘッセン州の学校の質の基準枠組み』に記されています。すべての学校種に統一的に適用されている当枠組みは、複数の質領域(Qualitätsbereich)によって構成され、それは『品質開発の目標』や『学校運営および管理』、『教える・学ぶ』など、多方面にわたっています。各質領域はさらに、いくつもの評価項目に細分化されています。
評価チームが作成する報告書は同じ基準に基づくため、調査方法や学校の基本データ、評価内容の詳細など、各内容が順を追って記載されていると意味においては、すべての報告書は共通しているのですが、報告書の大半が記述形式を採っているほか、分量や構成などに相違が見受けられるため、学校間比較は事実上不可能であるといえます。外部評価が学校のランキング化を図っていない点を鑑みた場合は、それは当然の帰結であるといえるでしょう。
学校外部評価を、教員の能力開発へつなげるという積極的な動きもあり、研修予算を学校に配分し、州教育研究所などが提供する研修を教員が受講できる体制を整えている州もあるようです。その一方で、多くの教員が加入している教育科学組合(Gewerkschaft Erziehung und Wissenschaft、GEW)は、外部評価に莫大な費用が投じられていることや、評価の実施が教員への負担を増やしていることなどから、学校外部評価に対して批判的な姿勢を見せています。様々な意見がある中で、今後の課題としては①評価結果を測定するための手法のさらなる開発や②外部評価実施後の支援(学校が行うべき自己改善と、行政の行うべき支援の明確化など)が挙げられます。
学校外部評価の存在を知らなかった僕ですが、知ってしまった以上は「自分が通っていたギムナジウムの評価報告書もあるのか?」と気になるわけです。というわけで、ネットで検索してみたら…ありました!
まず驚いたのは、報告書の量。80ページにわたって評価結果が詳述されており、完読・理解するにはかなりの時間と気合が必要かなぁと(汗)。また、数値化というよりも記述のほうが多いため、この報告書をもって他校との比較を試みることは確かに不可能であることを実感。
肝心の内容ですが、すべての評価結果が(評価が高い・低いは関係なく)しっかりと説明されているという印象を受けました。例えば、「学習内容を定着させるにあたって、学校は学んだ内容を振り返る機会を適切に与えているか」という問いについては、僕の母校は低評価だったのですが、それについては「授業の理解度を確認する機会が生徒に十分に与えられているとは言い難い」や、「反芻的学習を促す手段が活用されていない」などの理由が挙げられていました。これは、改善のヒントを得るにはいいきっかけとなるのではないでしょうか。
以上が、ドイツにおける学校外部評価の説明となります。気になった方は、お子さんが通っている学校、もしくはご自分が通っていた学校の報告書が一般公開されているか、ネットで検索してみてはいかがでしょうか?