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食糧難の定量化(少しだけ)

専門外の話し

露のウクライナでの特別軍事作戦を受け、G7を中心とした西洋諸国が対露制裁を次々と発表している一方で、エネルギーをはじめとするあらゆる分野においては、制裁を科す側にとっての不都合もうたわれ始めている。今回はその中でも食料について(専門外につき)少しだけ触れてみたい。具体的には、主要情報源として米農務省が先々月(2022年2月)まとめた報告書を利用し、農作物を中心に世間の食糧事情を数字で見て、『来る食糧難』の程度を予測してみたい。
米農務省は律儀に世界の食料事情について定期的に報告している。その最新版は先月公開されている(20年度=20年10月∼21年9月)。40頁程ある、内容もそれなり濃いものとなっているが、今回は主要穀物だけを取り上げてまずはトレンドを把握することを目的としたい。

小麦

米農務省試算によると、20年度全世界小麦生産量は約775.87百万トン(Million Metric Tons)だったのに対し、需要が782.54百万トン、期初時点の在庫も鑑みると一年間の需要に答えた後の期末在庫量は約289.87百万トンだった。上述の生産量の内、輸出されたのは僅か202.66百万トンつまり生産量の約26%相当分のみ。ここからが面白い。この輸出量の73%を輸出上位6か国と国の共同体、即ち露(39.1百万トン)、EU(29.74百万トン)、加(26.43百万トン)、豪(23.85百万トン)、ウクライナ(16.85百万トン)、アルゼンチン(11.53百万トン)が占める。まずここを抑えておきたい、露とウクライナが全世界の小麦の約28%を輸出している。
序に輸入状況も覗いて見ると、20年度は、全世界の小麦輸入量は194.77百万トンだったとのこと。輸入は輸出程分かりやすく限られた数か国に集中していないが、単一国家で輸入量上位ははやはり中国(10.62百万トン)で、ブラジル(6.4百万トン)と日本(6.35百万トン)が次ぐ。参考までにこの参加国が世界の小麦の12%弱に相当する量を輸入している。ちなみに言いそびれたが、小麦生産量で世界トップは中国(134.25百万トン)だが、この生産量は基本的に内需(150百万トン)に当てが割れている様だ。つまり中国の小麦自給率は約90%なのだ。ちなみに日本の小麦自給率は16%弱。単純計算で決まるものではなく、そしてあくまで推定であり、正確値ではなくトレンドとしてみよう。
この部分の結論は、種を撒く時期までウクライナの状況が落ち着いたとしても、農業できる状況にない可能性が高く、来年はウクライナが欧州を中心に輸出している小麦の量に相当する分が不足するだろう。それに露からも小麦を買えない国および地域があるとすると(露は、中国の輸入需要を全て賄う場合、輸出小麦量の4分の1をそこに充てる計算となる、残りは北アフリカや中東、一部東南アジアに回せば、何も失わないどころか、むしろ値上がりを受けて儲かるのではないだろうか)、これは世の中のサプライヤチェーンを荒すだけでなく極端な場合は世界にあらゆるところで飢餓が原因の庶民の不満が爆発する状態を起こすのではと考えている。

日本人はパンの消費量を減らし、米の文化を思い出せばいいのではと考え、上述の報告書の中に『米』について書かれている部分を除いて見るとやはり小麦と大違い。同じく20年度の推定情報では、全世界米生産量は約507.46百万トンだったのに対し、需要が502.74百万トン、期初時点の在庫も鑑みると一年間の需要に答えた後の期末在庫量は約186.42百万トンだった。そしてこの生産量の内、輸出されたのは50.59百万トンつまり生産量の約27%相当分のみ(小麦とほぼ同等な比率)。米輸出量の75%を輸出上位5か国、即ち印(20.17百万トン)、ベトナム(6.27百万トン)、タイ(6.06百万トン)、パキスタン(3.88百万トン)、ミャンマー(1.95百万トン)が占める。一目瞭然に、印の輸出量が他と比べ物にならない程大きい(全体の40%弱)。ちなみに日本は、一般的にも良く知られている通り、米の自給率は90%強(40年程前、GATT(現WTO)加入条件の交渉で譲歩した部分が今や輸入比率8%程まで拡大。僅な輸出も出来ているが・・・)で、ここ10年間の生産量は微減傾向にある。

日本の米事情
出典:農林水産省e-Stat

考えすぎているのかもしれないけど、そもそも緩やかに下がっている生産量が、買取価格がこのまま下がり続けると益々減ってしまわないのかと思えてくる。生産量が減ると当然、需要が供給を超えると値段もあがる。量が足りない時の値上がりは採算性の観点からの値上がりと違い、幅が大きくなるだろうし、そもそも量が足りないとするとカネ出しても買えない人が出てくる可能性がある。当たり前のことなので今の絶妙な需給バランスの維持がいわゆる『食の安全保障』を担保する上で不可欠だと思いきや、水稲の作付面積は、平成20年度は150万ヘクタール、平成26年度は147万ヘクタール、令和元年は138万ヘクタール、と年々減少していると、当の農林水産省が公表していた。減少の理由は『米の1人当たりの年間消費量が、昭和37年度をピークに一貫して減少していること』だと説明されている。つまり、需要が無いから作らないという一見、至ってシンプルで合理的な話し。ただこれは、昨今の世界情勢を見て、いざという時は安全保障そのものに関わる事案だと、前提を変えて考えると、農林水産省任せの米の生産・供給対応は、国の安全保障に対する意識の低さを表すと言わざるを得ない。余談になるが、水稲作付面積減少に農林水産省がどう対応しているかというと、『水稲(主食用米)の需要減少分は、新規需要米(米粉用米、飼料用米等)や加工用米に焦点を当てて、非主食用米の作付面積を拡大させる取組を進めることで対応。このような取組により、水田をフルに有効活用していくことで、水稲の作付面積を維持することが可能となり、新規需要米作付を推進することで、食料自給力の強化が期待される』そうだ。米の量を如何に確保するのではなく、面積の維持を優先している様だ。平和だな。面積があって、上述のウクライナの様に、種すら負けなくなったら、目前の食の確保をどうするか?という発想はどうも無さそう。

おわりに

他の食物(野菜の種、遺伝子組み換え云々)や農薬(ヘクタール当りの使用量!とかとか)にも触れたかったが、ここまでですでに暗い気持ちになってきたので一旦打ち切る。
とりあえず米は、米農家と繋がって安全(遺伝子組み換えでない、無添加、無農薬 等々)で安定的に供給可能な米の確保をやはりちゃんと考えないといけないと思った(ふるさと納税程度じゃダメだ)。

今日はここまで。


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