モスクワの戦勝記念パレードを再度観てみた
昨日、戦勝記念日パレードでのプーチン大統領のスピーチの中からハイライト部分を少々解説したが、それを読んだ愛妻よりパレードそのものの見どころ、注意点等は一般人から見て分かりにくいかもしれないのでそれを解説した方が良いとの指摘を受けた。そして、啓礼して、パレード全体を見直し、作業に着手。
細かいところまで突っ込み始めるとキリがないないので、とりあえず20点だけ。では最初から:
今回のパレードには外国の大統領や首相クラスの客はほとんどいなかった。2、3度、タジキスタンのエモマリ・ラフモン大統領が映ったぐらい。
2019年から、パレードの指揮者(オレグ・サリュコフ露陸軍大将)と受取人(セルゲイ・ショイグ防衛相)が(日本ではなじみのない露の高級車)アウルスで移動。
プーチン大統領が鉄の扉から出て、視聴席まで移動しているところがかなり詳細に映された。以前はこの部分は放送されることは無かった。
視聴席の一列目にいる退役軍人たちとプーチン大統領の挨拶が1分近く移された。
旗の入場式では、やはり先に露のトリコロール、戦勝旗はその後から運ばれていた。近代では2015年(戦勝70周年記念)の時だけこの順番が逆だった(またいつか機会があったらトリコロールと赤旗の話しをしたい)。旗入場式の際に流されたのは「聖なる戦い」の音楽だった。
レーニン廟はやはり隠されている。飾りには主に赤と白色が使われており、ほとんど青は見当たらない(ここではトリコロールを避けようとしているのか)。
ショイグ防衛相の車両がスパス門を通過する際、判例に従って、門上のスモレンスクのスパス像の前で十字を切った。
今回のパレードはショイグ防衛相にとっては10回目、サリュコフ大将にとっては8回目となっている。両氏とも露国内で不動と言われている。
2017年以来、軍服(パレード用)はスターリン時代後期を思いださせると同じ(縦襟、特徴的なボタン穴)で、一時期あったネクタイ等を使った服はもう出て来なくなっている。
プーチン大統領の祝福スピーチで、和訳だと伝わりにくかったと思しきポイント:
「あなたたちはドンバスで、われわれ国民のために戦ってくれている」(ウクライナで戦っていると言っていない)
「わがソビエト国民の団結」(ソ連の団結の話しは久々だ)
「ネオナチ、バンデラ主義者との衝突」(プーチンは普段ベンデラ主義者という。ベンデラとバンデラは大きく意味が違うのでここにいつも拘ってきたプーチン大統領だが、ここではなぜかバンデラ主義者と言った)
「ロシアが行ったのは、侵略に備えた先制的な対応だ」(米の先制攻撃と同じことをやっているというニュアンス)
「すべての連合国の軍隊に敬意を表する」(やはり欧米諸国の国内(なんなら軍の)分裂を示唆しているのか)
「ニコライ・ワトゥーチン、シドル・コフパク、リュドミラ・パブリチェンコ」(ウクライナ系英雄を列挙)
「生きたまま焼かれたオデッサの殉教者たちを悼む」(2014年の出来事だが、戦勝パレードでは初めて出された)
「戦死者や負傷者の子どもたちを特別に支援する。その旨についての大統領令が、本日署名された」(西側が露の国家総動員発令まで間もないと言っていたのに対し、寧ろ待遇の改善)
「軍病院の医師、救急隊員、看護師、医療スタッフの献身的な働きに感謝」(敢えて強調する意図が分からない)
「ロシアのために!勝利のために!万歳!」(恒例ではあるが、ここでは祖国ではなくロシアの為と言った)
黙祷時、メトロノームの音が響き渡る(どうやら2018年に導入された習慣の様だ)
大統領演説後に流れる国歌に合わせて発砲(意図は理解出来ていないが、個人的に気になった点)
軍事音楽学校のドラム隊が行進を開始。その後、モスクワそしてトヴェリ市スヴォーロフ軍事学校の部隊、ムルマンスクのナヒモフ部隊‥等と続く。これらの行進時にプーチン大統領は着席したままだった(最後にちゃんと実施された戦勝記念パレードは2019年だったが、その際は起立して迎えていた)
戦略ロケット軍行進の時なぜか5歳ほどの子供の映像に切り替えられている(しかもなぜか大将のショルダストラップを付けているので、これは監督の悪意が疑われる)
コサック部隊が久々に行進に参加(やはり多民族とか、ウクライナを意識した判断なのか)
車両の行進はT-34-85(戦車)で開始。ここで注目すべきなのは戦車そのものではなくやはり旗だ。2019年はこれがソ連邦の国旗だったのに対し、今回は第一ソ連戦車軍の旗に変えられている(またもや赤旗を避けようとしている)
Z、V、Oの印は無かった。特別軍事作戦に参加している部隊もいたのに、それを表示するものはどこにも見当たらなかった。
なんと言っても、戦闘機の「行進」は直前に中止された(これの訳も、もう少し調べないと分からないが、どうしても前向きな理由だと考えられない)
恒例だった筈の大統領による高級閣僚順列視察は無かった。
プログラム全体が例年より35分程短縮されている。
終わりに
パレードを見て何となくモヤモヤして、微妙な後味が残った。露が軍事パレードを俯瞰して全体像を見せなくなったのはいつからだっけ?軍事車両の車輪を内側から見せて何が面白い?疑問が山ほどある。一言でいうと、露の軍事力を自慢させたくない力が働いているのではないか。
以前も、サルマトの話しをしたときや和平交渉の話しをした際にも触れたが、露国内の政権争いはやはり強烈なもので、英米のような外国だけでなく、国内にもプーチン打倒を狙う勢力が相変わらず動き続けていると見て良いだろう。この戦いでプーチンが勝ちぬくのかは分からない。分からないのは中国やインド、南米諸国も同じだろう。故に公の場で露に対する支援を堂々と言えない。プーチンが倒されたら、次はどうなるかは分からないからだ。一方のプーチン大統領のスピーチでは「ロシアが行ったのは、侵略に備えた先制的な対応だ。それは必要で、タイミングを得た、唯一の正しい判断だった。主権を持った、強くて自立した国の判断だ」という言葉もあった。これはつまり、プーチンのバックについている力は米英や国内の反対勢力よりも強いのか?それとも、露国民からの絶対的な支持を受ける自信があるのか?ここに注目して今後の動きを見ていきたい。
今日はここまで。