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20241028の夢/幾何学模様の流れ星(Aztec Meteor Shower)
大学生のぼくは、大学近くの安いアパートにこいびと(?)といっしょに暮らしている。
三階建ての三階の部屋で、間取りは玄関をあがったところにキッチン、ドアで隔てられた奥に六畳と四畳の二間があって、古くさいがバストイレ別のまあまあいい物件である。
立地はちょっと変で、斜面を掘削して均したところに建っているのだが、アパートを取り囲むようにカーブした坂道を歩いているとちょうど路面が二階と同じくらいの高さになるところがあって、そこから二階の部屋がのぞけてしまう。
その二階、ぼくらの階下の部屋は家族で入っているようで、出入りしている人数がみんなそこで暮らしているとすれば、この間取りでは狭いだろうなと心配になる。
一家の母親だと思われる女性は、商店街の一画にある健康食品や漢方薬の類いを取り扱う店舗に勤めていて、買いもの客に声を掛けてはサンプルを配布する仕事をしていた。
ぼくたちはふとしたきっかけでその女性と知り合った。
その商店街では、ぼくとこいびと(?)がいっしょに買いものをしていると、年配の商店主などからはよく若夫婦と声をかけられることがあった。もちろんぼくはただの学生で、こいびと(?)はといえばいつか道端で出会ってそのままうちにいすわるようになっただけの、素性のよく知れないのらねこみたいなやつだった。成人してるというが見た目ではそうは見えず、またその外見からたまに女の子にまちがえられるが生物学的にはオスである。
ある日いつものようにふたりで商店街をあるいていて、なにげなく健康食品屋をのぞいたとき、その女性に声をかけられたのだった。女性はぼくたちのことをおなじアパートの住人だと知っていて、「いつも仲がいいですね」「おともだち?」「うちがうるさくてごめんなさいね」とおっとりとした口調で話しかけてきて、「よかったら」と健康食品だか漢方薬だかのサンプルをくれたのだった。女性は「こんど使ってみた感想を聞かせてくださいね」といって店の外に立ったまま、ぼくたちを見送ってくれた――
それから一週間ほどたって、ぼくは大学が終わるのにあわせてこいびと(?)と待ち合わせをし、買いものついでに例のサンプルの感想を伝えに行くことにした。
こいびと(?)はぼくを見つけると「にゃあ」とよくわからない挨拶で手をあげる。「待った?ごめん」と言うと、「ゆるす」とえらそうな返答が返ってくる。
並んで歩きながらこいびと(?)は「あの店いくの、ちょっとやだな……」と切り出す。「漢方薬って安いものじゃないじゃん? 感想とか伝えてさ、なんか定期的に買わなきゃいけないみたいになったらちょっと困るくない? うちそんなにお金ないし」と、買いもので金を出すところを一度も見せたことのないこいびと(?)が言う。
ぼくが(支払いの件にはあえて触れずに)「だいじょうぶだよ、感想伝えるだけだし」となだめようとすると、こいびと(?)は「ふらんお人好しだからすすめられたら断れないでしょ、とくにああいうタイプには」と不信をあらわにする。
「ああいうタイプ?」ときくと、「こうさぁ、強い口調でグイグイ来る感じのやつじゃなくてさぁ、やんわりにみえるけどじわじわ寄ってきて、気がついたらするって入り込んでるみたいなやつ」って言うから、(それおまえのことな)って心の中でつっこんで(じゃあ、たしかにそうかもな)と納得もした。
まぁお隣さん(縦方向)だし無視するわけにもいかないでしょって言うぼくに、こいびと(?)は「おれ、べつに漢方薬とか好きじゃないし、なんかまた新しいサンプルとか渡そうとしてきても断ってよ」みたいなことを道すがらずっと言いつづける。
お店の前に着くと、こいびと(?)はからだをちいさくしてぼくの背中に隠れようとする。中では女性がサンプルを封筒につめる作業をしていた。ぼくたちの姿をみとめると、立ち上がりこちらに笑顔を向けてくる。
「こんにちは、このあいだのどうでした?」と言う手には封筒が二つ握られている。ぼくが感想を述べ、女性が「もしよかったら……」と言いかけたそのタイミングで、こいびと(?)が急に前に出てきて、「そういうの、もう、けっこうですから!」と言い放ってお店の外に逃げていく。
呆気にとられていたぼくが正気をとりもどすと、あとに残された気まずさが漂いはじめる。女性がもうしわけなさそうに、「ごめんなさいね 迷惑でなければ、これまたどうぞ」と封筒を渡そうとしてくる。(もらってったら、あいつ機嫌そこねるよな)と思うけれどうまく断ることができず、「あ、ありがとうござい(もごもご)」と口ごもりながら封筒を受け取り、こいびと(?)を追いかける。
こいびと(?)は、ぼくが封筒を手にしているのを見て、「ほら、やっぱりね」みたいに蔑んだ視線をこちらに向けてくる。追いついて「ごめん」って言うと、「なにが?」とそっけない返事が返ってくる。
日が暮れかける。街灯が灯り出す。
坂の中腹、アパート二階の高度。つきあたりにねこがねそべっているのをみつけて、こいびと(?)は「にゃーん」と小さく鳴きながらねこに近寄っていく。白い毛並みのそのねこはおとなしくこいびと(?)に撫でられていて、開いた瞳は深い水色をしていた。こいびと(?)は「いいこだね~ かわいいね~ うちくる~?」といつものように声をかけながら撫でもふっている。(てか、おれんちなんだけどな……)と思いながら視線をあげると、ぼくらがしゃがんでいるすぐ横にはアパート二階のあの部屋がある。
明かりがついて、窓が開いている。カーテンが風に吹かれて外にたなびいている。中から若い女性の声で、「わたし奨学金もらえることになったから、来月この部屋でてく」というのが聞こえる。
夕食をすませ、窓を開けて夜風に肌をなぶらせる。階下の部屋の窓もまだ開いたままで、ときおり話す声が聞こえてくる。ぼんやり夜空を見上げていると、太くくっきりした光が走る。さっき見たねこの瞳とおなじ、水色に輝く光だった。
(すごい流れ星だったな……)と余韻にひたっていると、こんどは、夜空に型紙でも描いてあるかのように、アステカの幾何学模様みたいなジグザグの光線が幾筋も走る。光はすぐには消えずしばらく夜空に痕跡を残しており、紺地の帳に古代文明の文様を刻みつける。
(幾何学模様の流星群?)
とっくに寝息をたてているこいびと(?)を起こして見せようかと思っていると、階下の住人も空の異変に気がついたらしく、「みてみて!すごい!」という歓声が聞こえてくる。ふしぎな模様の光はしばらく痕跡をとどめたあとうっすら消えていくが、空のあちらこちらで次々光りだすので歓声がやむことはない。
その声で目を覚ましたこいびと(?)が、目をこすりながら寄ってきて「なに?」と聞いてくるが、目が開いてなくて夜空の光彩に気がつかない。
「空、みて」と教えるが、こいびと(?)はむにゃむにゃ言いながらもたれかかってきてぼくの腕のなかでまるくなる。
その夜、健康食品屋の女性からメールが届く。
文面には短く、「ご気分を害したら申し訳ありません」とだけあった。
どんな仕事でもたいへんだよな、と思いながら、返事はせずメールを削除する。
おふとんのなか、となりでまるくなっているこいびと(?)のぬくもりを感じながら、ぼくはそっとつぶやく……
おやすみなさい またあした
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