相続:子が親を見送るとき。~養子縁組~
おひとりさま・LGBTsの方向けのお話しです。
【シリーズ 相続】
親とは違うということ。
最高の相続対策とは。
親子になるか、他人のままか。
親子になる。~養子縁組~
子が先に旅立つとき。~養子縁組~
子が親を見送るとき。~養子縁組~
すべてを遺せない?!遺留分について。~遺言~
最後のラブレターを書こう。~遺言~
前回は、同性間で養子縁組を行い、先に養子(年下)のパートナーが亡くなった場合の揉め事についてお話ししました。今回は逆、養親(年上)が亡くなった時に想定される揉め事についてお話ししていこうと思います。
※私が話す養子縁組は、全て普通養子縁組です。またここでは、同性パートナー間での養子縁組が唯一の養子縁組で、それ以外では養子縁組はしておらず、配偶者もいない場合とを想定してお話しします。
今回の話に関わる養子縁組・相続のキーポイント
養親が先に亡くなった時に想定される揉め事について、関係する養子縁組・相続のキーポイントをお話しします。
①法定相続人について、配偶者は確実に法定相続人となり、加えて1位:子→2位:親→3位:兄弟の順で、最上位者が法定相続人となる
②同性パートナー間(養親と養子)のみの合意で養子縁組が成立する
③養子と養親の実親や兄弟とはお互いに扶養し合う義務が生じる
④実親との親子関係は継続する
①法定相続人について、配偶者は確実に法定相続人となり、加えて1位:子→2位:親→3位:兄弟の順で、最上位者が法定相続人となる
養親が亡くなった場合は、1位の養子(同性パートナー)が唯一の法定相続人となります。ちなみに、実親と養親、実子と養子の間で扱いの違いはありません。
なお、相続には世襲相続というものがあり、1位の子が亡くなっている場合、2位の親がすぐさま法定相続人になるのではなく、1位の子の子(以降孫といいます)がいる場合は、孫が1位扱いの法定相続人となり、子に代わって相続することになります。
②同性パートナー間(養親と養子)のみの合意で養子縁組が成立する
養子縁組する本人たちの合意の基、役所に届出すれば養子縁組は成立します。実親や兄弟の合意や養子縁組成立後の通知義務などはありません。
③養子と養親の実親や兄弟とはお互いに扶養し合う義務が生じる
直系血族と兄弟姉妹は相互に扶養の義務があります。養子縁組であっても親族関係が成立するため、養子縁組をした同性パートナー間だけではなく、養親の親や祖父母を扶養する義務も生じます。
④実親との親子関係は継続する
養子縁組をしたからといって、実親や兄弟との親族関係が切れることはありません。単純に養親・養子の関係性が増えるだけです。
養親が先に亡くなったとき
キーポイント①から、養子は唯一の法定相続人となります。そのため、法的には何ら問題なく、養親の遺したものをスムーズに相続することが可能です。また、相続税の計算も子として計算されるため、基礎控除や生命保険金などの非課税額への加算が行われ、相続税の2割加算も免れます。
なお、前回養子が先に亡くなった時にお話しした財産分割協議については、法定相続人が1人(養子)しかいないため、生しません。法定相続人が1人しかいないということは、養親が遺したものを養子が全て相続するため、そもそも分割する必要がないからです。
法的に問題なくパートナーの遺産を相続できるなら、揉め事なんて怒らないんじゃない?と思われるかもしれませんが、そうとも言い切れません。やはりこのケースでも”言えない”ことが足枷になってきます。
では、どんな揉め事が想定されるのでしょうか。
実親や兄弟が何も相続できない
養子が先に亡くなった時でもお話ししましたが、上記キーポイント②のため、養親の実親や兄弟は養子(残された同性パートナー)の存在を知らない可能性が低くありません。
①でお話しした通り、法定相続人の最高順位は1位子(残された同性パートナーの養子)となるため、2位親(養親の実親)または両親が亡くなっている場合3位兄弟(養親の兄弟)は、法定相続人にならず、遺産を1円も貰えないことになります。
存在すら知らなかった養子に遺産を全部持っていかれる…実親や兄弟からしたら、いい気がしないのは想像し易いと思います。
養子縁組無効確認
養子縁組は無効だ!!と訴えを起こすとが可能です。これを「養子縁組無効確認」といいます。この訴えを亡くなった養親の実親や兄弟が起こす可能性があります。
この訴えを起こし、養子縁組が無効と認められた場合は、養子縁組がなかったことになるため、法定相続人は、順位2位親または3位兄弟となり、同性パートナー(養子)は相続できず、親または兄弟が相続することとなります。
この訴えによって養子縁組が無効となることは少ないと思われますが、訴訟を起こされた場合、それに対応する時間や労力が必要となるため、被害は何かしら発生すると思ってよいでしょう。
養子縁組のことを言えれば解決できる可能性の高い問題ですが、言えない以上どうしようもないので、養子縁組に包含されたリスクと覚悟しておくしかありません。
思わぬ遺産相続問題が発生?!
上記キーポイント④のとおり、養親・養子とも、実親や兄弟との親族関係は変わらず継続されます。そのため、可能性としては低いですが、下記のようなことも起こりえます。
養親の実親が亡くなった時の遺産の行方は?
養子縁組を行った時、同性パートナー間で養親と養子という関係が成立しますが、養親の実親が健在の場合、養親側で以下のような関係が成立します。
・親=養親の実親
・子=養親(同性パートナー)
・孫=養子(同性パートナー)
そう、養子は養親の実親の孫となるわけです。この関係が成立している時、養子が想定外の遺産相続問題に巻き込まれることがあります。
キーポイント①のとおり、実親(上記でいう親)が亡くなった場合、実親の遺産は、まずその配偶者が相続しますが、加えて1位の子=養親も法定相続人となります。では、養親(上記でいう子)が亡くなっている場合はどうでしょうか。
他人に遺産を盗られる?!意図せぬ遺産相続
まず、養子縁組は養親または養子のどちらか一方が亡くなっても自動で解消されることはありません。ようは、養親が先に亡くなっても、上述した親・子・孫の関係性は継続されます。
キーポイント①の解説文のとおり、1位の子がいない場合、法定相続人は2位の親ではなく、孫がいれば孫が1位として法定相続人となり、世襲相続することになります。そのため、養子が意図せず、孫として遺産を相続することになるのです。
加えて養親に兄弟がいた場合、兄弟は順位3位となるため、養子がいた場合は実親の遺産を相続することができません。兄弟からしたら、実親の財産を他人(養子)に盗られる形になるのです。
と、こうなった場合穏やかにことが運ぶとは想像しがたいですよね、このケースでも養親の兄弟から、養子縁組無効確認の訴えを起こされる可能性が出てくるわけです。
なお、遺産放棄することは可能なので、極力揉めたくないとき、あとマイナス遺産(ようは借金)があるときは、遺産放棄すればよいです。
パートナーが亡くなった後に養子縁組を解消する死後離縁
既述のとおり養子縁組は、どちらか一方が亡くなっても自動定期に解消されません。では、ずっと養親の親族と養子は関係を持ち続けないといけないのでしょうか。
もちろんそんなことはなく、養子縁組の当事者の一方が亡くなった後でも養子縁組を解消することができます。これを死後離縁といいます。
死後離縁を行うには家庭裁判所の許可が必要となります。ちなみに、当事者双方が存命の場合、揉めなければ、家庭裁判所の許可などなく、離縁届を役所に提出すること(協議離縁といいます)で離縁が可能です。
なお、死後離縁を行う場合、キーポイント③について、問題視されることがあります。相続が済んだからとさっさと離縁して扶養義務から逃れようとする、身勝手な行動と捉えられる可能性があるからです。この点も養子縁組のリスクと認識しておく必要があるかもしれません。
当事者間だけの繋がりではない、その先にある繋がりも考える
養子縁組の手続き自体は、当事者間の合意と届出だけで、完了させることができますが、養子縁組をすることは、その先にあるお互いの親族とも法的に繋がる、親族になるということになります。
どれだけ親族と疎遠になっていようが、そんなことは関係なく繋がります。
お互いの親族と繋がることが、自分たちにとってどう影響するのか、そこまでを含めて、養子縁組について愛する人・大切な人・遺したい人と話し合ってみてください。
相続対策に早すぎるということはありません。この先ずっとこの人と一緒にいる、そう想える方とご縁が結ばれたなら、その方と未来のことを話し合ってみてください。
私がお話しすることも参考にしてもらいながら、遺したい方と話し合いを進めていただければ幸いです。今の自分が将来のパートナーを助ける、愛情と思いやりをもって話し合いや準備を進めていってもらえたら嬉しいです。
最後まで読んでいただき、まことにありがとうございます。もし何かご質問等ありましたら、お気軽にコメントくださいね!!
快惺事務所では、同性パートナーや法定相続人以外に財産を遺すことについて、ご相談を承っております。ご興味ある方は以下のリンクから快惺事務所WEBまでお越しくださいますと幸いです。