「年金」#02:税金と社会保険料
※このコンテンツでは年金=老齢(基礎・厚生)年金を指します。
年金シリーズ目次
#00:後悔しない老齢基礎年金と老齢厚生年金
#01:年金に対する考え方と受給のタイミング
#02:税金と社会保険料
#03:年金受給の条件と計算
#04:年金に関する制度
#05:繰上げ・繰下げ受給
#06:年金増額大作戦!!
#07:知っておきたい年金用語
#08:年金がさらにもらえる?!年金生活者支援給付金制度
#09:付加年金最高説
今回は年金にかかる税金と社会保険料についてのお話です。残念ながら年金には税金がかかりますし、社会保険料も納めなくてはいけません。そのため、年金受給額を満額受け取ることはできません。
年金受給額を満額受け取れない原因
結論から言いますと、年金受給額から以下の5つが天引きされるからです。
・所得税 ・住民税
・介護保険料 ・国民健康保険料 ・後期高齢者医療保険料
※国民健康保険料と後期高齢者医療保険料はどちらか一つ
上記の内、所得税と住民税の「税金」については、一定の所得以下の場合、非課税となり、税金が0円になります。
しかし、介護保険料、国民健康保険料、後期高齢者医療保険料の「社会保険料」については、いくら所得が低くても発生するため、ほとんどの方が年金受給額からなにかしら天引きされ、手取り額は減ってしまいます。
では、税金の非課税となる条件や社会保険料がどれくらいになるかなどに注目しながら、天引きされる5つについて、お話ししていきましょう。
税金
年金に課される税金は所得税、住民税です。上記でのお話しした通り、一定以下の所得の場合、非課税となり税金が発生しません。では、所得がいくら以下なら非課税となるのでしょうか?
結論からお話ししますと、一般的に合計所得金額(総所得金額)が
所得税:48万円以下
住民税:45万円以下
で、それぞれが非課税となります。
上記の通り、所得税と住民税の非課税となる所得額が異なるため、所得税は非課税なのに、住民税は課税されることがあり得ます。
以降お話は分かりやすく「収入は年金収入のみ」とします。
所得税
所得税は、すべての所得を合算したものに課税されるため、年金受給額が非課税基準額以下でも、他の所得が高ければ、課税されることがあります。なお、所得は10種類に分類されており、年金収入は「雑所得」になります。
所得税計算方法
①年金受給額(公的年金等収入額)-②公的年金等控除=③雑所得
→(④合計所得金額-⑤所得控除)×⑥所得税率=⑦所得税額
→⑦所得税額-⑧税額控除=所得税納税額
①年金以外にiDeCoや企業年金など受給していたら合算します。
②控除額は、65歳未満=60万円以上 65歳以上=110万円以上
③年金の他に、副業や私的年金(公的年金等控除対象外)もこれにあたる。
④雑所得を含めた、所得(給与・退職所得など全10種類)の合算金額
⑤基礎・社会保険料・医療費控除など、この計算結果を「課税所得」という
⑥⑤まで計算した時点「課税所得」が195万円以下のときは税率5%
⑧住宅宅借入金等特別控除など
所得税が非課税(0円)になるケース
結論からいうと年金受給額が
65歳未満:108万円以下 65歳以上:158万円以下
なら所得税が非課税(0円)となります。
上の計算式に当てはめてみると
・年金受給額①が65歳未満なら60万以下、65歳以上なら110万以下
・④が48万円以下(⑤が基礎控除で最低でも48万円あるため)
この場合に、⑤の計算終了時に0円となり、所得税は非課税となります。
ケース紹介
ケース1:66歳、年金収入160万、医療費控除7万の場合
①160万ー②110万=③50万
④50万ー⑤(基礎48万+医療費7万)=0 0×⑥5%=⑦0
⑦0ー⑧0=0 所得税納税額 0円
65歳以上で158万円超の年金収入でしたが、医療費控除のおかげで0円になりました。なお、医療費控除を受ける場合は、確定申告が必要です。
ケース2:64歳、年金収入130万、社会保険料控除10万の場合
①130万ー②60万=③70万
④70万ー(基礎48万+社会10万)=12万 12万×⑥5%=⑦6,000円
⑦6,000円ー⑧0=6,000円 所得税納税額 6,000円
ケース1より、年金収入は少なく、⑤所得控除額は多かったのですが、年齢による②公的年金等控除の違いで、所得税が発生しました。このように年金を繰上げ受給した場合は、年金受給額の減額と合わせて注意が必要です。
住民税
1月1日現在の住所地で、前年中(1月1日から12月31日まで)の1年間の収入等にもとづき、年度毎に課税されます。
住民税には明確な非課税の条件があります。
住民税が非課税(0円)になる条件
前年1~12月までの合計所得金額(所得税計算方法の④)が45万円以下
※市町村によって38・42万円のところもあり
先ほどの所得税の場合④が48万円以下なら非課税となりますが、住民税はここが45万円となっています。この違いが所得税が非課税なのに住民税が発生する原因となります。
住民税計算方法
①年金受給額(公的年金等収入額)-②公的年金等控除=③雑所得
→(④総所得金額-⑤所得控除)×⑥10%+⑦5,000円=住民税納税額
①~③は上記所得税の計算と全く同じです。
④所得税の④と同じと思っていただいてOKです。(厳密には異なります)
⑤所得税と住民税で同じ控除項目でも、控除額が異なります。
(例:基礎控除 所得税→48万 住民税→43万)
⑥「所得割」と呼ばれ、総所得金額に関係なく10%固定です。
⑦「均等割」と呼ばれ、総所得金額に関係なく5,000円固定です。
ケース紹介
ケース1:66歳、年金収入160万、医療費控除7万の場合
①160万ー②110万=③50万
④50万ー⑤(基礎43万+医療費10万)=0
0×⑥10%+⑦5,000円=納める住民税額 5,000円
所得税ケース1と同じですが、住民税がかかってしまいました。これは、住民税が非課税(0円)になる条件を満たしていない(合計所得金額が45万円超)ため、⑥所得割は0円ですが⑦均等割り5,000円がかかります。
ケース2:64歳、年金収入130万、社会保険料控除10万の場合
①130万ー②60万=③70万
④70万ー⑤(基礎43万+社会10万)=17万
17万×⑥10%+⑦5,000円=納める住民税額 22,000円
⑤の基礎控除が所得税よりも5万円少ない所に注目。⑤所得控除の額は所得税と住民税で異なり、ほぼすべてで住民税の方が少額になります。
社会保険料
介護保険料、国民健康保険料、後期高齢者医療保険料(75歳未満:国民健康保険料、75歳以上:後期高齢者医療保険料となり、どちらか一つ)
社会保険料は税金とは異なり、0円になることはありません(一部例外のぞく)。極端な話、収入が0でも社会保険料は納付しなければなりません。
介護保険料
満40歳の誕生日が属する月から、健康保険料とは別に支払い義務が発生します。
ここでは、65歳以上の方、または40歳以上65歳未満の方で国民健康保険に加入している場合でお話しします。なお、65歳未満で国民健康保険以外の医療保険に加入している場合、医療保険毎に保険料の計算方法が異なります。
介護保険料計算方法
介護保険料は、大まかに以下の2点で決まります。
・住民税が非課税か否か
・前年の合計所得金額(所得税計算方法の④)
上記の組み合わせで「段階」というものが決まり、段階に対して、介護保険料が定められています。
この段階数と段階に対する介護保険料は、市区町村によって異なります。
例として、日本で一番人口の少ない市と多い市を比較します。
少ない:北海道歌志内市 10段階 18,720~112,320円(年額)
多い :神奈川県横浜市 16段階 19,500~234,000円(年額)
両市とも、住民税非課税+合計所得金額が80万円以下は1段階となり、最少額保険料となりますが、保険料が発生することが分かります。
ケース紹介
住民税を払い、合計所得金額が120万円未満の場合
歌志内市:6段階 74,880円 横浜市:7段階 83,460円 となります。
実際の保険料は、お住まいの市区町村に確認してみてください。
国民健康保険料
何かしらの医療保険(会社の健康保険や公務員の共済制度など)に加入していない方は、一部を除き国民健康保険に加入することになります。
国民健康保険料計算方法
所得割、均等割、平等割、資産割の合計金額となります。
所得割:(前年の総所得金額等-43万円)×所得割率
均等割:定額 (加入者ひとりごとにかかる)
平等割:定額 (世帯ごとにかかる)
資産割:固定資産税 × 資産割率
これらの率や額は市町村によって異なります。
ケース紹介
神奈川県横浜市に単身で住んでる場合、以下の通りです。※年額
所得割率:13.3% (うち介護保険分3%)
均等割額:63,710円(うち介護保険分15,490円)※所得により減額有
平等割・資産割:なし(0円)
※65歳以上は介護保険料を別途納めるため、介護保険分はなくなります。
所得割に前年の総所得金額等とありますが、所得税計算方法の④合計所得金額と同じと思ってもらえたら結構です。(細かく言うと異なります)
ご覧の通り、前年の総所得金額等が43万円以下で所得割が0円になっても、定額の均等割は残るため、必ず保険料が発生することになります。
後期高齢者医療保険料
どの医療保険に加入していても、75歳になれば後期高齢者医療制度に加入することになります。
後期高齢者医療保険料計算方法
所得割、均等割の合計金額となります。
所得割、均等割の計算方法は、国民健康保険料と同じですが、率や額は異なります。また各都道府県によっても異なります。
ケース紹介
神奈川県に単身で住んでる場合は、以下の通りです。※年額
所得割率:8.78%
均等割額:43,100円 ※所得により減額有
国民健康保険料よりも低額になっているのが分かります。また介護保険料は含まれていないため、別途発生します。
国民健康保険料と同様に、前年の総所得金額等が43万円以下で所得割が0円になっても均等割は残るため、必ず保険料が発生することになります。
ほぼ全員年金受給額より年金手取り額は減る
結局のところ…
税金は所得が低いと非課税=0円になる可能性があるが、社会保険料は絶対に0円にはならないので、年金受給額より手取り額は絶対減る!! です。
これといった減額方法はないのですが、余計な税金を支払わないために、やらなければいけないこと=確定申告です。
確定申告をしないと損する可能性がある
所得税・住民税計算過程の⑤所得控除の部分、ケース1で医療費控除の例を挙げていますが、医療費控除は確定申告しなければ控除されません。また、⑧税額控除も確定申告しないと多く税金を払うことになります。
確定申告することで行える控除は、医療費控除以外に「社会保険料控除」「小規模企業共済等掛金控除」「生命保険料控除」「地震保険控除」「住宅宅借入金等特別控除」などがあります。
これらの控除を受けたい場合は、自分で確定申告しなければ控除されません。会社で行う年末調整は会社に各種控除関連書類を提出し会社でやってくれますが、退職後は自らで申告する必要があります。
年金手取り額の目安
では、実際の年金手取り額はおおよそいくらになるのでしょうか。
年齢が65歳以上、年金収入のみで年金受給額が180万円だった場合
所得税 : 11,000円 (月額917円)
住民税 : 32,000円 (月額2,666円)
国民健保: 86,000円 (月額7,167円)
介護保険: 87,000円 (月額7,250円)
合 計:216,000円 (月額18,000円)
※国民健康保険料と介護保険料は市区町村によってことなります。
1,800,000ー216,000=1,584,000円
月額で年金受給額が15万円でも、手取り額は13.2万円となります。
年金受給者が、一番家計を苦しめているものは?の問いに「社会保険料」と答える方が最も多いと言われていますが、納得の結果ですね。
個人的に、これだけの税金と社会保険料の負担があるなら、老後の生きていく一つの選択肢として、日本脱出・海外移住はアリだと思っています。
年金手取り額を知ろう!!
実際に受け取れる年金は「ねんきん定期便」などに記載がある、年金受給額ではなく、税金や保険料が天引きされた後の手取り額です。そのため、年金の手取り額を知るには、受給額と税金、保険料がいくらかを知る必要があります。
基本的に、年金受給額が決まれば、税金は試算できますし、社会保険料は住んでいる市区町村の、所得割率・均等割額・介護保険料表を確認すれば試算可能ですので、未来の資産形成計画のために、試算してみてください。
なお、前回お話しした「年金」#01:年金に対する考え方と受給のタイミングで、支出額を検討するとき、年金手取り額で計算すると精度が上がりますので、是非再検討してみてくださいね!!
さいごに、どれくらいもらえるの?いつからもらい始めたらいいの?自分の年金額を試算して欲しい!!など、年金に関する気になることをお手頃価格(1,100円から)でお答えするサービスを提供しております。ご興味ある方は以下のリンクから快惺事務所WEBまでお越しくださいますと幸いです。
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