私が海外旅行でまず最初にやること
海外旅行に行くことが、自分にとっては一番ワクワクする人生のイベントだ。
「どんな場所なんだろう?」「どんな人がいるんだろう?」「食べ物はどんな味だろう?」
そんな想像をしながら旅行の計画をしている時、現地へ向かっている飛行機の中、あるいは待っている空港での時間。どの時間も私は大好きだ。
海外に行くと、日本では気づかないことに気がつく。感性が鋭くなっているのか、休暇でリラックスしているからなのか。
私が海外に行って感じるのは、匂い。
空港に降り立った時、ホテルまでの道筋、レストランの中、そこでふと気がつく匂いは、日本では嗅いだことのない、初めての匂いのような気がするのだ。
初めてタイに行った時には、空港から出るやいなや、むっとした空気に包まれた。肌を包み込む熱気、感じたことのない湿度。それに街には、食べたことのない異国のスパイスの香り。
その匂いを思い出す時、私はあの日の光景までも、ありありと思い出すことができる。象が歩いていた道路。炎天下でゆらぐような寺院の景色。
私はそんな匂いをよく書き留めた。もし紙とペンがなかったら、その匂いを記憶しておくようにした。
もちろん良い匂いばかりではない。人々の生活の匂いだったり、工事現場の匂いや、時にケミカルな匂いも感じられた。けれどそれらの匂いは全部、私の海外での思い出としっかりとリンクしているようだった。匂いを思い出すと、同時に光景が昨日のことのように蘇ってくるのだ。
ヨーロッパに旅行に行った時は、コーヒーの匂いだ。もちろんコーヒーの匂いは以前から知っている。なのにドイツやフランスで街を歩いている時、漂ってくるコーヒーの香りはなぜかとても違っていた。爽やかなようでいて、苦くて切ないような。パンが焼けるバターの香りも印象的だった。
私は海外に行くと、匂いと感じたことを書き留めるために、まずは座って落ち着ける店を探す。一人旅であっても、誰かと一緒でも。
ガイドブックに頼らずに、目についたパブやカフェに入る。
そこで注文するのは現地のビールだ。
「おすすめのビールってありますか?」
たいしてメニューも見ずに、ウェイターにおすすめのビールを尋ねる。
日本で旅行をする時だって同じだ。「とりあえずビール。」これは海外でもやってみる価値がある。
「このビールがおすすめだよ。ここで人気のビール。」
私はおすすめのビールを、たいして味も気にせずに注文する。
「じゃあそのおすすめのやつを。」
ビールを待っている間、この国に降り立った時の匂いを書き留める。この匂いを覚えておくことはとても大切だ。何年経ってもこの時間を思い出すために。
「はい、どうぞ。楽しんで」
ビールがやってきたら、まず目で見て、写真を撮って、心の中で「本当にこの国にやって来たんだなあ」という気持ちを噛み締める。いつから計画を始めたっけ?いつ頃から行きたいと思っていたっけ?本当に今この瞬間に、私の夢は叶っているんだ。
そう、空港に降り立った時でも、ホテルにチェックインした時でもない。私が「海外にやってきた」と実感するのは、現地の匂いを嗅いで、目についた店に入り、感じたことを書き留め、こうして最初のビールを飲む瞬間なのだ。
私は喜びの気持ちを感じながら、ビールを乾いた喉に流し込む。
イギリスでは深い味のする冷たくないエールだった。ドイツではコクのある炭酸のきいたラガーだった。香港で飲んだおすすめのベルギービール(Hoegaarden)は白ビールだった。パリではワイングラスのようなグラスにビールは注がれた。東南アジアの島では、瓶ごと出されたまま飲んだ。
飲んだビールは私の体の中に入り、日本から来た1人の人間を、現地の旅行者へとスイッチさせる。
現地のビールを飲むことで、私はその見知らぬ土地に静かに溶け込む。日本での私という人間は、まるで充電するロボットのように眠り始め、1人の旅人がそこに誕生する。
「これから本当の旅が始まる」
一杯のビールを飲み干す時、私はそう考える。どこに行くか、誰と会うか、どんな景色が見れるのか。それを心から楽しみにする。自由なんだ。
私は今目を閉じて、それぞれのビールのこと、その時周囲に漂っていた香りを思い出す。
「海外で過ごした時間が、私をつくっている」
写真を見ることも楽しいけれど、異国の香りを思い出しながら、最初のビールの味を思い出す時間は、至福の時間だ。
色褪せることのない大切な心の思い出となり、私を強くしてくれる。
次の旅も楽しいものになりそうだ。