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映画キングスマンを観て思った「イギリス人はビールを残さない」



イギリス映画キングスマンを観ていて、イギリス人とビールのことについて思いを巡らせてしまうようなシーンがありました。

有名な「パブファイト」のシーンです。

この映画はhigh-budget film(多額の予算が投じられた映画)ということで、迷うことなくイギリス人の夫と鑑賞しました。私は同じ金額を払うなら、high-budget filmはぜひ一度観ておきたいと思うミーハーなたちです。


実際観てみると、コリンファースがあんなにアクションができるなんて心から驚いたし、感心しました。


タロンエガートン演じるエグジーは、やんちゃな若い子でケンカっ早い。だからシークレットエージェントだというハリー(コリンファース)とパブで話をした時も、「お父さんと昔一緒に働いていた。借りがあるんだ」というハリーの話を聞きながらも、次第に腹を立てる始末。

そこに地元ですでにエグジーとトラブル状態にあったギャングたちが乗り込んでくるのです。


その時のパブでのファイトシーンは、おそらくキングスマンの中でもとても有名なシーン。


「ギネスを飲み終わるまで平和にしててくれ」と頼むハリーをギャングたちが受け入れるはずもなく、ハリーも一度は飲みかけのビールをテーブルにおいて、帰ろうとしました。


けれどさらに頭にくるようなことをギャングの一人が言ったためか、あるいははなからそうすることを決めていたのか、ハリーはおもむろにパブのドアに鍵をかけ、こう言います。


「マナーが人を作る。知ってるかその意味を?」

Manners maketh man

礼節が人を作る。


イギリスにおける格言の一つであり、中世イングランドの神学者で教育者・政治家としても知られるウィカムのウィリアム(William of Wykeham)が唱えたものです。



そのセリフの後のアクションシーンが、本当に痛快です。




私は暴力的なシーンはあまり好きではないのですが、ハリーが持っているいろいろなグッズ(ショットガンや麻酔のような役割もこなす傘など)を使いこなしながら敵をじゃんじゃんやっつけていく様子は、まるで魔法使いのようですっかり引き込まれてしまいました。


これにはやんちゃな若者のエグジーもポカーンとしながら、その表情にはだんだんと羨望の色が。


一人残らず倒した後、戦い終わったハリーは疲れてため息をつきながら、もといた椅子に腰かけます。

そして飲みかけだったギネスを旨そうに飲み干すのです。


このシーン、なんともギネスが旨そうに見えてとても好きなのですが、同時に私は、「ビールを飲み干す光景、よく見るよな」と思い当たりました。


イギリスのパブというのは、日本の居酒屋とは違っています。


1番の違いは最初に支払いをすませること。カウンターでバーマンにビールを頼んだら、それを受け取ると同時に支払い、その後空いているテーブルについて飲みます。飲み終わったら帰るだけです。

また、ビール(エール)の種類がたくさんあって、ずっとビールを飲む人も多いことです。(食べ物は二の次であることもしばしば)

イギリス人の友人とビールを飲んでいて「じゃあ行こうか」となったら飲みかけを飲み干すのは普通だし、テーブルに残ったパイントグラスはいつも空っぽです。

パイント・グラス(英: Pint glass)は、1パイント(英国では20 英液量オンス (568 ml)、米国では16 米液量オンス (473 ml) )

パイントグラスはイギリスの方が95mlも多い。それもなんとなく理にかなってる気がします。


イギリス人はビールを必ず飲み干して帰ります。時間がかかっても良いのです。なぜなら「ビールは冷えてなきゃ」という概念があまりないから。

日本人だってビールを飲み干すよ、と思うかもしれません。私もさっさと飲み干してしまうタイプなので。

日本ではビールから比較的に別のドリンクに移行していきますが、イギリスではわりとずっとビール(エール)を飲み続ける人が多い気がします。

日本のラガービールはキンキンに冷えてて美味しいですが、イギリスのエールはキンキンでは逆に風味が損なわれるものも多いので、味わいはまた違ったものです。



ハリーが飲んでいたギネスは、アイルランドの黒ビールGuinness。黒スタウト。イギリスのパブならたいていどこのパブでも置いている、人気ビールです。


生ぬるいくらいでも美味しく飲めるエール。寒いイギリスでは、そんなビールがむしろ一般的なのです。


あれだけの乱闘を繰り広げたハリーですが、礼儀正しく「失礼したね」とエグジーにお詫びを入れます。

あくまでマナーとしてのお詫びであり、まるで心の中では「ギネスを飲み終わるまで待ってと言ったのに、彼らがそうしなかったから(当然の報い?)」と思っていそうな表情です。

私は鑑賞しながら、「このパブに居合わせてしまったらどうしよう」と余計な妄想を膨らませてドキドキしていました。



それはそうと、イギリス人たるもの、礼節を守るジェントルマンたるもの、ビールは絶対に残さない。

これはイギリス人の遺伝子に組み込まれたものなのでしょうか。


ぼんやりとこのシーンのこと、ビールのことを考えていた私は、一つの事件を思い出しました。



2017年6月ロンドンテロ事件。


英国の首都ロンドンにおいて、2017年6月3日土曜日の22時08分(BST)ごろ発生した一連の襲撃事件である。
ロンドン警視庁によりテロと認定された。最初の襲撃はロンドン中心部テムズ川にかかるロンドン橋で、実行犯はワゴン車を暴走させ橋上の歩行者数人を次々と轢いていった。続いて、被疑者はバラ・マーケット付近へ移動し、車を乗り捨てた上で数人を刃物で刺傷させた。実行犯3人はいずれも駆けつけた警察によって射殺された。射殺された容疑者らは自爆ベルトのようなものを身に着けていたが、偽物だと判明した。死者は8人、重軽傷者数は48人以上とみられている。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


楽しい週末だったはずが、一気に悲しいものになり、イギリスだけでなく世界を震撼させました。


私もイギリス人の夫とこのニュースを見て、恐ろしさに言葉を失ったことを覚えています。



このニュースの次の日だったか、とにかく近いうち、新たな写真が今度は世界をちょっと驚かせました。


テロが起こったのは土曜日の夜。近くのパブで飲んでいたたくさんの客たちは、必死で走って逃げていました。大きな不安を抱えながら。



なんとその時ジャーナリストが撮った写真に写りこんでいたイギリス人男性は、飲みかけのビール、パイントグラスを持って走っていたのです。

ビールがこぼれないよう気をつけながら。



さすがに感嘆しました。



「ビールなんか持たないで逃げろよ」と普通の人は思うでしょう。命の危険が迫っているかもしれないのに。少なくとも日本人の遺伝子にはその因子はないと思います。


けれどイギリス人の遺伝子は違う。何といっても、イギリス人たるもの、ビールを残してはならないのです



この写真は全世界に拡散され「ロンドンのビールは高いからな。賢明だ」とか「こぼさないように気をつけてるのすごい」とか「かなり長い間この人たち足止めされたらしい。だから落ち着いたら飲むひまがあったと思う」

などなど、さまざまなコメントが寄せられました。


イギリス人には国民的モットーというものがあります。



Keep Calm and Carry On



どんな時でも落ち着いて、普段通りに。



もともとはイギリス政府が第二次世界大戦の直前に、開戦した場合のパニックや混乱に備えて作成した宣伝ポスターだったのですが、今ではさまざまな形に変えられて広告や宣伝にも使われています。



例えばチョコレート屋さんの前に

Keep Calm and Eat Chocolate とか。



イギリス人(特に男性)たるもの、常にジェントルマンである必要がある。取り乱すのはカッコ悪いのです。

そんな思いが感じられる、キングスマンのパブファイトのシーンであり、そして世界を戦慄させたテロ事件の中、たまたま撮られた写真の中のジェントルマンもまた、生粋のイギリス人なのでした。

Keep Calm and Drink Beer

パイント

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