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スペイン人の友達が教えてくれたスペインオムレツ

イギリスに留学していた時、一番仲良くなった友人がLというスペイン人の女の子。当時彼女は20代だったけれど、あれからもう10年も経つのか。月日が経つのはあっという間だ。

彼女と何がきっかけで仲良くなったかというと、語学学校で同じクラスになったから。スペイン人なのに(?)真面目で几帳面なところがあり、時間にも正確で信頼できる!と思ったし、私達はとても気が合った。

けれどやっぱり故郷スペインを離れて少し寂しいと感じていた気持ちもあったよう。時々スペインを恋しがっていたし、「Kana、一緒にランチを食べよう」「散歩に行こう」と、積極的なタイプでないのにも関わらず、よく誘ってくれた。

私は彼女に出会う前にはスペイン人やイタリア人のパーティーによく呼ばれていた。人数合わせというか、私が一人でいるのが彼らラテン系にとっては見るに耐えなかったのか、よく誘われては出かけた。

そこでホームパーティーで料理を作った時、ラテン系の彼らにとても喜ばれたのが『お好み焼き』。その経験からLにも私の家で作ってあげた。

そしたらLは感動して、「これは本当に美味しい!どうやって作るの?」と聞いてきた。

私は一通り説明して「それでね、欠かせないのはお好み焼きソース」と言った。

「それはスペインで買うのは難しそう」と残念がったL。
「けど作り方はトルティージャと似たようなものだね!」と明るく言った。

「トルティージャ...?」一瞬何のことかよく分からなかったが、よくよく聞くとスペインオムレツのことだった。

「ああ!スパニッシュオムレツね!大好きだよ」

私はスペイン料理の店でスペインオムレツを食べたことがあり、その美味しかったことを思い出した。

「Kana、お好み焼きのお礼に作ってあげる。作り方も教えてあげるね」

「うん、ありがとう!じゃあ、明日にでも?」

「ダメだよ、フライパンがないもん」

「テスコで買おうか?ちょうどフライパンあったらいいなって思ってたし」

私の家(フラットというイギリスのアパート。シャワートイレ共有のワンルーム)には最低限のミルクパンとくっつきやすい薄いフライパン、パスタを茹でる鍋があるだけだった。テスコは近所の大型スーパー。

「違うんだよKana」とLは笑った。

「スパニッシュトルティージャ専用のフライパン。イギリスでは買えないよ。スペインからお母さんに送ってもらわなきゃ」

「え〜!?わざわざ!?」

私はフライパンでも代用できるんじゃ?と説得のようなことをしてみたが、本場のスペインオムレツを知らないアジア人がスペイン人に対して何を言っても始まらなかった。

Lは「お母さんにメッセージして、すぐに送ってもらうから。届き次第作ってあげる」と言った。

本当にわざわざ送ってもらうことだったのかなあ。サイズが問題なら、小さめのフライパンとかあるのに。若いから知らないのかな。など、私は色々と思いを巡らせていた。

それから1週間くらい経った頃、Lから「Kana、今日の夜ひま?トルティージャを作って持っていってあげる」とそう言われた。

それを実際に食べてみて、今まで食べてきた「オムレツ」のイメージは良い意味で壊され、「やっぱりお母さんにフライパン送ってもらってよかったんだ!」と確信することになった。

それくらい美味しかった。

ポテトと玉ねぎはしっかりと揚げた味がするのに、しっとりしてクリーミー。卵には良い塩加減がついているけど、本当にシンプル。オムレツなのに、メインのごはんになるような、どっしりとしたボリューム感。

Lのお母さんがスペインから送ってくれたイベリコ豚のハム、Lが好きなロゼワインと一緒に食べた。私はスーパーでクラッカーにチーズと、ディップを買ってきた。

私は改めて作り方を聞いた。これまたシンプル。

玉ねぎとじゃがいもを1センチ角に切る。それをフライパンに入れて、ひたひたになるほどの100%オリーブオイルを入れる。(Lいわく理想はスペインの上質なオリーブオイル)それでじわじわと揚げて、しっかりと油を吸ったところで一度取り出す。

卵は6個くらいたくさん使って、あらかじめ溶いて塩を入れておく。さっきのフライパンに卵を全部入れ、少しだけ固まったところでじゃがいも、玉ねぎを戻す。ふたをしてじっくり弱火で焼く。

「簡単なんだけど、難しいポイントがあるよ。ひっくり返す時。私は大きなお皿に一回取り出すの。それで落ち着いてお皿を使ってひっくり返す。うまくひっくり返せるならそうしなくて良いけど、失敗すると嫌でしょ」

なるほど。慎重派のLらしい、と私は思った。

「焦げないように、じっくり焼くの。卵に火が通れば良いから。イベリコ豚のハムが入ったバージョンもあるよ。はいこれ」

Lはせっかくだからと言って、二つ作ってくれていた。一つはシンプルなもの、もう一つはイベリコ豚とチーズが入ったものだった。アルミホイルに包まれており、まだ温かかった。どちらも信じられないほど美味しかったし、ワインが進んだ。

どちらかというと私は、何も入っていないシンプルな方が好みだった。けれどスペインからの上質なイベリコ豚は、とても美味しかった。


ついこの前、Lにその話をしてみたら「そんなことあったねえ!」とオンラインの画面越しにとても懐かしがっていた。そして「そういえばスペインにもお好み焼きの店ができたんだよ」と教えてくれた。

私は時々このスパニッシュトルティージャを作ってみる。その時は普通のフライパンで作るし、味もLが作ってくれたものには全く及ばないけれど、いつもとても美味しく食べている。

イベリコ豚ではなく生ハムだったり、アボカドのディップではなくクリームチーズだったりするけれど、できる限りあの時を再現して。

そんな時間がとても贅沢で、本当に美味しい。

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