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『神様…どうか、どうか、この優しい人達をお守りください…。』

私は仕事はチーム戦と思いながら…群れたり大勢でいる事が苦手だった。

頼るのも苦手。

本音も言えない私。

その気持ちをたどってみた…。

最初に見えたのは、凍った石畳の上に自分の血が滴っている場面。

刺されていた。

崩れ落ちる体。

そして、


「ごめんなさい…。」


その言葉。


年はもうすぐ12歳。
名前はエリック。


~~~~~~~~~~~~~~

僕は孤児だった。
物心ついた頃から孤児院にいた。

ある時から“先生”が、特別に読み書きを教えてくれるようになった。

もうすぐ、“訓練の学校へ行くから”と。


それは、数ある子どもの中で僕だけのようだった。


ある時から、“ママ”が会いに来てくれるようになった。


僕を手放さなくいけなくなった経緯や、僕をとても愛してくれている事を話してくれて…抱き締めてくれた。
そして…これからの事を教えてくれた。

もう少ししたらママが迎えにこれる事…。ママと一緒に住める事。


ママはとても美しかった。抱き締めてくれる手がとても温かかった。
優しくて、温かくて、いい匂いがして、ママが来てくれている時間は幸せで…嬉しくて嬉しくてたまらなかった。


僕はたまに会いに来てくれるママが大好きだった。


そして、よく分からない“一通りの事”を学んで、“先生”に言われた“訓練の学校”へ。

すごく遠い所だった。


そこは訓練兵を育てる所だった。


今僕は7才。12歳になるとママが迎えに来てくれる。

それまでをここで過ごすだけ。

とてつもなく広大な場所。広い建物。
沢山の大人もいる。


同じ年頃の子ども達と寝食を共にしながら、色んな勉強をする。


苦痛なんて無かった。
友達もできた。

そして何より、頑張っていればママと暮らせる日が来る。

その楽しみが僕の心を支えていた。

…僕は月に一度だけ、“役割”があった。

そう。先生との内緒の“役割”という名の約束。

ここに来る前、

先生が「エリック、簡単な事だよ。月に一度、“やった事”と、“見たこと”だけ先生に伝える事。それだけ。だけど、この事は絶対に秘密だよ。」

と。

今後、先生は僕の見てきた事を知って、世界を守るための資料にしたいんだって。

人の数・建物の事・行った訓練の事・物の配置の事。
全て。

それは周りにバレてはいけない。

こんな事もできないと、ママも悲しむからと。
ママにも会えなくなるのは嫌だ。
ママはいい子にしてると12歳の誕生日に迎えに来ると言ってくれたそうだ。


その約束を守りながら、頑張って日々を過ごした。

寂しくなる事もあった。
悲しかった事もあった。
痛かった事もあった。

けど、僕は頑張った。


見たものを間違いなく伝える為に注意も怠らず、正確に伝え続けた。

月に一度、“先生”に報告する度、ママからの手紙を貰えた。


それだけが、楽しみだった。


「愛してるわ。エリック。」

文面の最後のこの言葉が欲しくて。


少しずつ大きくなり、色んな事を知り、信頼できる友達と支え合いながら日々乗り越えた。


そして…。


12歳を目前にしたある夜、いつものように“先生”に報告をしていた。

報告するのもあと一度くらいになるのかな?


そんな事を思っている時

先生が近距離に。

「?」

熱い…と思った瞬間、腹を刺されていた。


「エリック、君は本当にいい子だったよ。」


凍った石畳の上に自分の血が滴っていた。

その瞬間、急に鐘が鳴った。


火事だ…!!!

振り返ると遠くの夜空に浮かぶ赤い炎と煙…。


状況が分からない。


すぐに体に力が入らなくなり、膝をついた。


“先生”が言った。

今まで全部が“嘘”だと。
ここは隣国で、僕はスパイ…。
全部僕が情報を流していた。この施設を潰すために。

母も嘘だと。
全て演技だと。

もちろん、迎えが来る事も。

12歳を迎えられず残念だったね。と。

『僕は…誰のために…何をしてたの…?』

混乱する頭。そして火の勢い…。

僕の…せい…?


僕は、ここの人達が好きだった…。


沢山の事を教えてくれた先輩や教官。

多くの事を共に乗り越えた友達。

崩れ落ちる体。

“先生”は

「お疲れ様。よく頑張ったね。」

と笑いながら立ち去った。

僕は…

僕は…


愛されていたのは幻覚で、現実はただの裏切り者だった。

気がかりは…友達や仲間の事…


這うようにして火の上がる建物の中に入った。

どうにも出来ないのは分かってる…。


そこへ、中から友が逃げてきた。

「エリック!!!」

僕の名を呼び、外へ連れ出してくれる。


違うんだ…。

やめてくれ…。

血が出ている事を心配して手当てしてくれる。

やめてくれ…。
手当てなんかしないでくれ…。
ごめんよ…。
ごめんよ…。
全部僕のせいだ…。


そう言いたいのに、声も出ない。


火の上がり方と方向から、犠牲者も出てるはずだ。

それに…火事だけではきっとすまない…。

これは…始まりだ。

何人かの友が側に来てくれていた。
僕の名を読んでくれる。
しっかりしろと叫んでくれる。


僕は…


愛されたかった…。
必要とされたかった…。
役に立ちたかった…。


けど、その行為が本当に愛してくれてる人達(友達)を傷つけた。

泣いてくれてる。

寝食を共にした大切な友達。


そんな資格はない。


本当は“先生”や“ママ”に“違和感”があった時もあった。
けど、それに気付かないふりをしてきたのは僕。

守りたいのは“こっち”だったのに。

ごめんなさい。


ごめんなさい。


ごめんなさい。


全部僕のせいだ…。

泣いてくれる友達。

スパイをしてるなんて知らなかった。
この人達を裏切ってるなんて知らなかった。
悪いことをしてるなんて知らなかった。

けど、知らなかったではすまされない。

きっとこの先何かが起こる…。

“先生”に友達が殺されるかもしれない…。


そう…。
僕はいい子じゃない。

僕は12歳になれなかった。


神様…どうか、どうか、こんな僕に優しい人達をお守りください…。


そして、僕には罰を…。


僕は…僕を、許さない。

ごめんなさい…。


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私は仕事はチーム戦と思いながら…群れたり大勢でいる事が苦手だった。

頼るのも苦手。

本音も言えない私。


それは、自分を愛してくれていた友達を裏切った罪悪感からきていた。

自分が自分を許さないと決めていた。

まだ12歳になる前の自分だった。


“先生”や“ママ”を恨むのではなく、“友達”を裏切ってしまった“自分”を憎んでいた。

ささやかな幸せを望んだだけなのに。


「ごめんなさい…。」


悲痛な叫びが、見ていて痛かった…。

この前世の自分を見つけてから、人に仕事を任せたり頼んだりできる事が増えてきた。

全部自分でやろうとしょいこみ、無理をしすぎる事が減ってきた。


“今世は大丈夫。”


“もう大丈夫。”

とエリックに伝えていこうと思います。

あの時の友達も…あなたを恨んではいないから…。


私は…今、その友達からの想いを…ここで受け取った。

“もう…自分を罰さなくていい…。”


“終えていいよ…。”


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