『知ることで…“愛されたかった”が、“愛されていた”に変わる。』
人の目ばかり気にして、
“ちゃんとしなきゃ、愛されない。
利口でいなきゃ、愛されない”
そう、思ってる。
そんな思いは…どこからくるのか。
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〈前世の物語〉
トルコの方の小さい国。
ある国の王子の一人であった。
兄は3人、姉は2人。
褐色の肌に黒髪、黒い瞳。
紺色の服で、ズボンは白。
国王から頂いた短剣を腰に着けている。
名前は「アイーダ」
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生まれた時から隣国の人質になる事は決まっていた。
兄も、姉も、皆が優しかった。
特に一番上の兄はいつも僕を気にかけてくれていた。
お会いするといつも僕を抱き上げ…笑顔で近況を聞いてくれていた。
その年の離れた兄は、とても大きくて、優しく、カッコ良くて…僕は兄に憧れていていた。
大好きであった。
6歳で、人質として隣の大きい国へ…従者一人と共に赴いた。
不自由は無いが、自由ではない暮らし。
その暮らしの中で…
一番上の兄が王位を継いだり…
姉達の婚姻…
そして、政治問題…
様々な事があった。
そして…
16歳の時に、兄が兵を挙げた知らせが入った…。
突然部屋のドアが開かれ、共に来た従者の首を投げつけられた。
そして、兄が兵を挙げた事を知らされる。
兄の軍がここに攻めてくる。
まさかとは思ったが、覚悟はしていた。
元々この国の体制に自国は不満があった。
兄の国が…兄が搾取されるだけで終わるつもりながない事は…何となく理解していた。
部屋から引きずり出された後は、地下に連れていかれて拷問を受けた。
最後、顔に焼き印も入れられた。
そして、城近くの広い広い草原…傷だらけの状態で兄の軍の前に引きずり出される。
遠くに兄が見えた。
無表情の兄。
今兄が引けば命は助けて貰えるのだろう。
時間は流れるが、兄の軍は引かない。
当たり前だ。
…分かってた。
……仕方ないと、分かっていた。
けど、見たこともない無表情の兄。
汚いものを見るような目だった。
それが…一番悲しかった。
「兄上…。」
小さく呟いた瞬間、喉をかっ切られて殺された。
仕方ないと思った。
その為にここに人質として自分は来ていたんだ。
自国の為だ。
そして、この国と戦える程の力を持った兄は…すごいんだ…。
そう…思ったが、
その兄の世界に自分は必要なかったか…。
捨てられたような気持ちになって…
悲しかった。
きっと…、何も感じてくれてはいないだろう。
絶望感、寂しさ、悲しさ…。
“愛されてはいなかったんだ”
兄の表情を見て…そう理解しながら、亡くなった。
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けれど、続きがあった。
今回それを知る事ができた。
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アイーダの遺体をそこに残して、敵軍は一度城へ戻る。
これが戦争の始まり。
敵軍が一度戻ったのを見て、
兄が…アイーダの亡骸を自ら拾いに行った。
部下が止めるのも聞かず。
アイーダの亡骸を抱き上げると…
切られた首が落ちそうになる。
アイーダの亡骸を自身のマントでくるみ、抱き抱えて馬に乗せる。
…その時も、表情は変えない。
冷たい表情であった。
兄の軍も一度引く。
戻った城で…。
たった一人…
兄上は、声をあげて泣いていた。
あの兄上が、私を抱き締めながら泣いていた。
私の血で汚れる事も気にせず。
傷だらけで血まみれの私を抱き締めながら。
「大切なものも守れず、何が国王か!!!
誰が私を国王にした!!!
私には資格があるのか!!!?
痛かったろうな…。
痛かったろうな…。
…血をもって滅ぼしてやる。
私は誓う。
これ以上…愛する者を殺させはしない。
そして…その為に…私は…血を浴びよう。
アイーダ…すまなかった…。」
アイーダを抱き締めながら、そう言っていた。
最終的に…兄は大国だった隣国を攻め落とし、陥落させた。
…なぜ攻めなければいけなかったのか。
それは、更なる徴収を求められたから。
穀物、人、道具、歴史、すべて取られる。
国、民を守るために立ち上がらねばならなかった。
争いの道へ。
そう。そして…沢山の血を流させた。
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この世界に“正しい”“正しくない”
は、存在しないと思う。
ただ、“思い込み”と“事実”がずれている事がある…と。
アイーダは愛されていた。
しかし、目の前の起きている事を見て“愛されていなかった”と思い込んで亡くなった。
“愛されたかった”
そんな想いが、
“愛されていた”
と、記憶を辿る事で知ることができた。
ちゃんとしなくても…
利口でなくても…
愛される。
私は…
「愛されている」
と…。