ほんの一部スイカ
パパはスイカが大好きだった。それなのに仏壇に供えられたことはない。それどころか何年と食卓に供されてこなかった。
きっかけは隣席の男子の鉛筆だった。削ると黒と緑の縞模様が現れる。「ほんの一部スイカだ」と誰かが言った。次の授業で黒シャツを着た先生が背で黒板を擦り、後ろを向いたとき板書の赤と緑が移って縞をなすのを見て「ほんの一部スイカだ」とまた誰かが叫んで皆を笑わせた。そこでわたしは合点する。こんな具合に命日に向けて「ほんの一部スイカ」が溢れていくのだと。
日曜の朝ママを見て驚いた。緑のスカートに赤のキャミに黒のベルト。紛れもないスイカコーデ。唖然とするわたしに、客が来るから支度してと急かすママ。
一瞥してママの恋人だと悟る。その人はスイカが大好物だと公言し、食卓にスイカが供された。
「スイカは楽しい思い出」
客はそう言って笑った。
「ほんの一部スイカでいいのに」
声にならない叫び。以来わたしは、パパの兆しを日に日に失っていく。
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