ショートショート#19『ためしの里の四兄弟』
ためしの里の四兄弟は、日夜ヒト世界に降臨しては悲喜劇の演出に余念がない。
長男の「力試し」は、ヒトの飽くなき下剋上精神と共にある。胸を借りるなんぞと謙遜しながらそのじつ、先輩上司その他上長の吸う甘い汁をあわよくば自分こそ、と虎視眈々と狙うはヒトの常。機を見て「力試し」はヒトに囁く、今がチャンスと。
次男の「腕試し」は「力試し」の一卵性双生児である。表では兄を立てつつ力とは野蛮一般のことで、自分の司る「腕」とは技術を伴うより洗練されたもので、だから自分のほうが高貴であるとの自負がある。
三男の「肝試し」は、ヒトの内面にちょっかいを出す。キュピドと誤解されやすいが、それは「吊橋効果」とのコラボにほかならない。「肝試し」はあくまでヒトの心胆の据わりを試す。
最後の「運試し」は出自不明。いつもひとりジメジメした物陰でニヤつく里の爪弾き者。胡散臭い上にうん〇臭いとは誰彼のいうところ。
ヒト世界の一番人気はこの「運試し」のようで。
(410字)
以下の企画に参加させていただいております。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?