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なぜ施設より里親の方が良いのでしょうか? ~その5~ 

 4回に渡って政府が「なぜ家庭的養護に舵を切ったのか」、「なぜ子どもにとっては施設より里親が良いのか」について考えてきました。
 施設でも特に定員の多い大きな施設は問題が起きるケースが多いことがわかりました。また一般家庭の日常生活に近い生活を送ることが出来ない施設はやはり自立した後にも影響があることもわかりました。
 ただ子どもの状況や年齢、性格などによっては施設の方が良い場合もあるでしょう。今回は施設養護が必要なケースについて考えてみます。 

施設の方が子どもにとって良い場合もあります


 子どもの意志で施設を選ぶ場合

 ある社会的養護だった女性は、生後すぐに乳児院に入り、3歳から里親家庭で暮らしていましたが、里親のしつけがとても厳しかったのと、彼女が子ども時代から自立心が強かったこともあり、児童相談所に中学からは施設で暮らしたいと申し出て施設に移ったと話していました。彼女は高校を卒業するまで施設で暮らしていましたが、部活に励み、アルバイトを行い、充実した高校生活を送っていたように見うけられました。

  またある男性は、母親が精神疾患で3歳ごろから施設と家庭を行き来していました。そして高校生になる時に自ら施設で暮らしたいと、小舎制の施設に入りました。おそらくそれまではヤングケアラーで多忙な生活をしていたのでしょう。施設に入ってからは勉強にも身が入るようになり大学に進学することが出来たそうです。職員も彼が明るくなって、いろいろなことをスポンジのように吸収するようになったと驚き、喜んでいました。

 
 施設の職員から聞いたこととして、施設ではいつも団体生活になるので、わがままを言えなかったり、自主性が損なわれたりということもあるようで、小さい子どもたちにとってはどうかなと思います。
 ですが、中学・高校では寮生活の学校もあるので団体生活をすることは問題ないのではないでしょうか。もちろん、一般の学校の寮生活が辛くて家に逃げてきたという生徒も知っていますので、そうした生活が皆に合うとは思いませんが。
 中高生の反抗期になると里親家庭で上手くいかないこともあるでしょうから、施設で暮らす方が良い場合もあるでしょう。中高生の子どもについては、子どもたちの個性によって合う合わないがあるので、施設の方が良いと自ら施設を選ぶケースなどは、子どもの意志を尊重することも大切でしょう。
 ただこうした場合でも、良い施設でないと逆に問題が大きくなることもあり得ますので、慎重に考えたいところです。

 見守りが必要な児童の場合

 また不登校や精神的に問題がある子どもの場合は、いつも職員がいる施設の方が良いのではと思います。自室に閉じこもって出てこない場合や自傷行為や自殺の恐れがある子どもの場合は、注意深く職員がいる方が良いかもしれません。

今は夫婦ともに仕事を持っている里親さんも多く、自宅に大人が不在の時間もありますから、子どもたちの安全を確保することが必要なケースでは、職員が必ずいる施設の方が安心という場合もあるのではないかと思います。

専門家の治療やケアが必要な場合 

 虐待や逆境体験で傷ついてた児童には、専門家の治療やカウンセリングを定期的に受けることができるような施設があれば、そうした施設で過ごす方が良いのではと思います。里親の中には子どものトラウマの治療などのために、メンタルクリニックやカウンセリングに通う方もいらっしゃいますが、児童精神科の予約は今、半年から1年待ちのところも多いということです。また仕事の合間に病院に付き添うなどもなかなか大変な面があります。提携している医師がいる施設の方が良い場合もありますね。

 

規律正しい生活が求められる児童の場合

 また、児童自立支援施設に入るほどではないけれど、実親の家では昼夜が逆転して学校にもきちんと通っていなかったり、素行が悪かったり、不良行為をする児童の場合は、まずは規律正しい生活をすることが必要で、ルールがしっかり決められている施設で暮らす方が良い場合もあるでしょう。 

 養育の困難さはなかなか測ることができませんが、里親さんとの相性や施設での団体生活との相性など、様々な側面から「その子どもにって、どこで暮らすことが最善なのか」を考える必要があるのだと思います。

 
 今は婚活のマッチングに、AIの機能が使われているようなので、児童相談所も、この子どもには施設と里親とどちらが良いのか、どの里親さんが合うのか、マッチングにAIを導入するのが良いのではないかと思います。

 

施設養護は短期間で里親の元へ

 ただ、施設養護が選択されたとしても、長く施設にいることはやはり問題です。先ほど紹介した社会的養護だった女性は、今は結婚してお子さんもいらっしゃいますが、小学6年生までお世話になった厳しいしつけをしていた里親さんとも今は交流があり、子どもを見せに会いに行ったりもしているようです。実家のように戻ることができる、頼ることが出来る、相談できる人がいるというのも里親の良いところなので、反抗期が収まったら、メンタルが安定してきたら、特に自立する前には施設から里親に移動することができるのが良いのではないかと思うのです。

施設の役割 

ショートステイの受け入れで虐待予防

  今後期待される施設の役割としては、ショートステイの受け入れを充実させていくことだと思います。子育てに行き詰って虐待をしてしまう前に、育児を休むことができれば心も身体も落ち着くでしょう。かつては祖父母、両親がこどもの面倒を見てくれたので、孤独にはならなかったし相談もできたでしょうが、今は相談できるところもなく子育てが辛いと感じるお母さんやお父さんも多くなっています。3組に1組が離婚する時代なので、ひとりで子育てを担う親も多くなっていますから、育児の相談ができる場所と繋がること、ショートステイでレスパイトすることで虐待の予防になるのだと思います。

 ちなみにショートステイについては、里親が短期で預かる「里親ショートステイ」も始まりました。虐待予防の意義もあるショートステイの活用が広まっています。

  
 

里親さんの養育相談

 2012年から施設には里親支援専門相談員が配置されるようなり、里親のアフターケアができるようになりました。虐待を受けた子どもの養育は難しいので里親さんが育児に悩んだ時に気軽に施設職員に相談できる、そんな身近な存在としての施設になれば良いのではないでしょうか。また子育ての経験がなく里親になった方もいますから、様々な相談ができることはとても有難いことでしょう。
 また、施設の職員はいろいろな子どもたちにも関わっていますし、研修なども経て専門性も持っている職員も多いでしょうから、子育てについて適切なアドバイスをしてくださることが期待できます。児童相談所に相談すると、「そんなに大変なら措置変更しましょう」といって子どもの委託を解除されるのではと常に心配している里親さんも少なくありません。児童相談所ではなく里親を支援してくれるのはとても心強いことでしょう。

 子どもたちのために、多くの人が関わって養育する、「子どもは社会の宝物」ですから、実親さん、児童相談所や里親さんや施設、様々な機関が協力してそれぞれの子どもたちにとってのベストを探しながら養育することが良いのではないかと思います。

 

  以上5回にわたり、なぜ施設より里親の方が子どもにとって良いのかを考えてきましたが、いかがでしたでしょうか?いろいろなご意見があると思いますが、子どものための最善を考えていきたいですね。

  施設偏重の考え方から家庭的養護へと国の方針も変わってきましたが、まだまだ里親委託率は23%に過ぎません。子どもたちにとっての最善を考えて、まず里親、そして子ども自身が、本人が希望する場合は施設を検討していただきたいなと思います。

  今後はなぜ児童相談所が里親ではなく施設に児童を委託してしまうのかについても考えていきたいと思います。さらに里親委託率が急上昇している自治体もありますので、そのあたりについても調べていきます!

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