R6予備 刑事訴訟法 D
第1 設問1
1 甲が事件1の犯人であることを、事件2の犯人が甲であることを推認させる間接事実として用いることができるか。事件の認定は「証拠」によるところ(刑事訴訟法(以下略)317条)、甲が事件1の犯人であることが「証拠」に当たるか問題となる。
2(1)この点について、証拠能力が認められるためには、自然的関連性が認められることを前提として、裁判官に不当な心象を抱かせることにならないかという観点から要求される法律的関連性が認められる必要がある。
(2)まず、甲が事件1の犯人であることは、少なくとも自然的関連性は認められる。
3 では、法律的関連性は認められるか。
(1)この点、余罪(前科)のような悪性格を証拠として採用すると、当該犯罪とは関係のない、犯罪をしたという性格によって罪を証明することとなり、裁判官に事件とは関係のない不当な心象を抱かせることとなる。また、争いの対象が余罪(前科)にまで広がるおそれがあり妥当ではない。そこで、原則として余罪(前科)は証拠として採用できないと解する。もっとも、上記の趣旨からすれば、裁判官に不当な心証を抱かせることにならないのであれば、そのような証拠は採用してもよいと考えるべきである。そこで、①犯罪に顕著な特徴があり、②当該事件との類似性が強い場合には余罪(前科)であっても「証拠」として用いることができると解する。
(2)これを本件についてみるに、事件1は、人通りの少ない夜道で背後から黒色の軽自動車で衝突し、すぐに車から降りて「大丈夫ですか」などと声をかけて心配するふりをし歩み寄り、油断させたところでバッグを奪い取り、直ちに車に乗って逃走するという強盗の事件である。たしかにひったくりからの強盗という犯罪自体はそこまで珍しいものとはいえない。しかし、車で背後から衝突すぐに車から降りて「大丈夫ですか」などと声をかけて心配するふりをし歩み寄り、油断させたところでバッグを奪い取り、直ちに車に乗って逃走するという一連の犯罪は、かなり計画的なものでかつ心理的にも特徴的なものであるといえる。よって①が認められる。また、事件1と事件2は同日、同じ市で、1時間以内という時間の中で起きた同一累計の犯罪である。しかも、黒色の軽自動車で背後から衝突し心配するふりをして近づきバッグを奪おうとするという心理的にも事件1と似たようなものであり、計画もかなり似ている。そうだとすれば②当該事件と類似性が強い場合といえる。
(3)よって「証拠」能力が認められる。
4 したがって、甲が事件1の犯人であることを間接事実として用いることができる。
第2 設問2
1 事件1で甲が金品奪取の目的を有していたことを、事件2で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として、「証拠」として用いることができるか。
2 この点、余罪(前科)証拠によって故意を証明しようとすれば、それこそ当該犯罪とは無関係の犯罪によって裁判官が不当な心象を抱くこととなり不当である。そこで余罪(前科)によって主観的要件を立証することは例外なく認められないと解するべきである。
3 したがって、事件1で甲が金品奪取の目的を有していたことを、事件2で甲が同目的を有していたことを推認させる「証拠」として採用することはできない。
以上