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股関節痛の理学療法①2023【サブスク】

股関節痛の種類と代表的な病態

股関節周囲で疼痛を生じる組織や原因となる疾患は数多く存在します。

では、実際にどんな種類が存在するのかをまずは整理してみます。

股関節周囲で疼痛を訴えやすい部位と原因疾患¹⁾
【股関節前面】
・肉離れ(内転筋、大腿四頭筋、腸腰筋、腹直筋)
・腸腰筋滑液包炎、腸恥包炎
・鼠径ヘルニア
・恥骨結合機能不全
・股関節唇損傷
・大腿寛骨臼インピンジメント(FAI)
・股関節症
・大腿四頭筋打撲
・内側弾発股

【股関節外側面】

・外側弾発股
・ヒップポインター(腸骨稜上部の打撲)
・大腿筋膜張筋症候群
・大転子包炎、変性
・知覚異常性大腿神経痛

【股関節後面】

・坐骨包炎
・肉離れ(大殿筋、中殿筋、ハムストリングス)
・大殿筋打撲
・仙腸関節機能不全、捻挫
・梨状筋症候群
・尾骨損傷

【股関節痛を呈する重篤な疾患】

・疲労骨折(大腿骨頚部、恥骨枝、臼蓋)
・大腿骨頭すべり症
・感染性関節炎
・尿路感染
・大腸憩室炎
・ペルテス病
・鼠径リンパ腫脹
・腎結石
・強直性脊髄炎
・股関節脱臼
・大腿骨頭壊死
・前立腺炎
・虫垂炎
・腫瘍

大腿骨寛骨臼インピンジメント症候群(femoroacetabular impingement;以下FAI)

大腿骨寛骨臼インピンジメント症候群(FAI)は、大腿骨側または寛骨臼側、もしくはその両方の軽微な骨形態異常が背景となり、股関節動作時に骨頭頸部移行部と寛骨臼縁が繰り返し接触・衝突し、力学的負荷が加わることにより関節軟骨あるいは関節唇に損傷をきたしうる病態¹⁾とされています。

FAIは以下の3つのタイプに分類されます(図1)。

FAIの分類
A:cam変形(大腿骨頚部移行部のくびれの減少・平坦化)
B:pincer変形(寛骨臼の過剰被覆、寛骨臼の後方開き)
C:cam変形(A)とpincer変形(B)の混合タイプ

図1 FAIの3つ分類
2)より画像引用一部改変

FAIはいわゆる股関節インピンジメント症候群と混同されやすいですが、FAIは骨形態異常が背景にあるため、その違いを理解しておきましょう。

グローインペイン症候群(鼠径部痛)

グローインペイン症候群(鼠径部痛)は、鼠径部周囲に生じる疼痛全般のことだと一般に捉えられています。(ただし、器質的変化は伴わず、骨盤周囲の機能異常による鼠径部痛³⁾と定義される場合もあります。)
原因は複数存在し、確立された診断方法や評価方法がない⁴⁾のが現状です。

グローインペイン症候群は、その原因によって以下のように分類されています。

グローインペインの分類¹⁾
①内転筋由来
②腸腰筋由来
③鼠径管由来
④恥骨由来
⑤股関節由来
⑥その他
 鼠径または大腿ヘルニア
 ヘルニア修復術後
 神経絞扼(閉鎖孔、腸骨鼠径、陰部大腿、腸骨下腹))
 関連痛(腰椎、仙腸関節)
 骨端症、剥離骨折(ASIS、AIIS、恥骨)

臼蓋形成不全と股関節痛

臼蓋形成不全とは、大腿骨頭に対する臼蓋(寛骨臼)の被覆が浅い状態をいいます。

日本では、臼蓋形成不全の診断基準は、CE 角 20°以下Sharp 角 45°以上ARO 15°以上の値が広く用いられています⁵⁾。

臼蓋形成不全を伴う2次性の股関節症の多くは、骨盤を前傾させる代償によって大腿骨に対する寛骨臼蓋の被覆を増すことで股関節を安定させます¹⁾。

股関節の不安定性を有する例では、姿勢や動作場面で骨盤のアライメントを変化させることで、関節面の接触面積を増やそうとする代償をします。

例えば、デュシェンヌ徴候は、歩行時に股関節面の接地面積を増やして適合性を高めることで、股関節外転筋力の低下を補う代償の一つと考えられています。

骨盤傾斜によって股関節の接地面積は変化します(図3)。

図3 骨盤傾斜と股関節の接地面積
6)より画像引用

骨盤傾斜と股関節の接地面積の関係⁶⁾
前傾増化
後傾⇒減少
対側挙上(同側下制)⇒増化
対側下制(同側挙上)⇒減少
同側回旋⇒増加
対側回旋⇒減少

解剖学的肢位を基準に、骨盤前傾、反対側挙上(同側下制)、同側回旋すると、股関節の接地面積が高い状態になります。

ですが、骨盤が前傾すると寛骨臼の前捻が減少(寛骨臼の前縁が後方に変位)し(図4参照)、股関節前方インピンジメントが生じやすくなります。

つまり、臼蓋形成不全を呈する例では、股関節の適合性を高めるための代償動作が股関節周囲組織へのメカニカルストレスを増大させ、股関節痛を生じる因子となる可能性があります。

そのため臼蓋形成不全を呈するケースのアプローチでは、股関節周囲組織へのメカニカルストレスを軽減するためのアライメント修正や股関節の安定性を高めるための筋機能改善を図る必要になってきます。

MEMO レントゲンでみる骨盤の前後傾を判断する指標「クロスオーバーサイン」
骨盤中間位では、前額面のレントゲン像を見たときに寛骨臼の前縁は後縁と交差しません。しかし、骨盤が前傾位になると寛骨臼は後捻(寛骨臼の前縁が後方へ変位)することで、交差して写ります(図4)。この現象のことをクロスオーバーサインと呼びます。

図4 クロスオーバーサイン
6)より画像引用

股関節前方インピンジメントを引き起こす筋肉

股関節前方でのインピンジメントの原因には、股関節後下方の関節包靱帯筋の伸張性低下⁶⁾が挙げられ、寛骨臼前縁や前方関節唇の圧力が増加するとされています。

タイトネスにより股関節前方インピンジメントを引き起こす代表的な筋肉に以下の2つが挙げられています。

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