見出し画像

【まとめ記事】2024年ベスト現代アート展 〜Xとnoteの投稿で振り返る極私的首都圏の美術展ベスト10〜

 今年見た首都圏の現代アート等のベスト展覧会は、個人的には、この順番です。
① 国立西洋美術館『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』での抗議パフォーマンス
② 内藤礼『生まれておいで 生きておいで』(東京国立博物館)
③ 埼玉県立近代美術館『アブソリュート・チェアーズ』,『吉田克朗展|ものに、風景に、世界に触れる』,『没後30年 木下佳通代』
 世田谷美術館『須田国太郎の芸術|三つのまなざし』,『北川民次展|メキシコから日本へ』
④ 彦坂尚嘉の画像生成AIを使った3つの展覧会『AI芸術展』,『ゾンビ芸術と美女絵画展』,『逆転する文明の教師』
⑤ 『シアターコモンズ』
⑥ 『横浜トリエンナーレ』
⑦ 東京国立近代美術館『フェミニズムと映像表現』
⑧ UESHIMA MUSEUM『オープニング展』
⑨ 豊嶋康子『発生法|天地左右の裏表』(東京都現代美術館)
  白井美穂『森の空き地』(府中市美術館)
⑩ 『例外アートウィーク』
〔番外別格〕横浜人形の家『ひとはなぜ''ひとがた''をつくるのか』

① まずは、国立西洋美術館の『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?――国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ』会期:2024年3月12日~5月12日。展覧会内容もさることながら、オープニングでアーティストらが行った抗議パフォーマンスに注目した。

 2024年3月11日、内覧会・オープニングセレモニーで、飯山由貴がイスラエルのパレスチナ侵攻と国立西洋美術館のスポンサーである川崎重工業株式会社への抗議声明を読み上げ、遠藤麻衣と百瀬文が抗議パフォーマンスを行った。
 これに翌日、政治学者 五野井郁夫が海外事例などにも言及した優れたコメント記事をアップし応答した。その後奇しくも、ナン・ゴールディンの映画『美と殺戮のすべて』が3月29日から公開されたので、さっそく見たのだが彼我の差がまだまだ大きいことを感じた。

 次は、うって変わって東京国立博物館の内藤礼『生まれておいで 生きておいで』会期:2024年6月25日~9月23日。西ヨーロッパの美術とは異なる歴史を辿ったイコン。イコンという〈窓〉あるいは〈鏡〉を通じてその先の神に祈りをささげるがごとく、内藤の消え入りそうなほど物質感のない〈モノ〉の先にある普段は見られないトーハクの内装を見ることを通じて、内藤のキーワード〈恩寵〉を感じる展示だった。
 イコンつながりで、玉川大学の『イコンにであう|キリスト教絵画のみかた』会期:2024年10月21日~2025年1月19日も貴重な展覧会で、明治大学 瀧口美香准教授の講演会も極めて有意義だった。

 ふたつの公立美術館が開催した5つの企画展も光った。埼玉県立近代美術館の『アブソリュート・チェアーズ』会期:2024年2月17日~5月12日、『吉田克朗展|ものに、風景に、世界に触れる』会期:2024年7月13日~9月23日、『没後30年 木下佳通代』会期:2024年10月12日~2025年1月13日。世田谷美術館の『須田国太郎の芸術|三つのまなざし』会期:2024年7月13日~9月8日、『北川民次展|メキシコから日本へ』会期:2024年9月21日~11月17日。
 特に埼玉近美はコレクション展にも連携させ充実していた。今後も吉田克朗、木下佳通代と同じく1970年代を中心に活躍した作家の掘り起こしを期待したい。
 なお、京都の画廊galerie16の『70年代再考|版画・写真表現の波紋』2024年6月25日〜7月20日は、木下佳通代が写真・版画表現に集中していた1970年代の周辺作家の動向を紐解いた小規模ながら、この老舗画廊らしい好企画だった。

【galerie16『70年代再考|版画・写真表現の波紋』】https://x.com/forimalist/status/1813166996634366124

 連続展ということでは、現代美術の長老作家 彦坂尚嘉が画像生成AI(人工知能)を使った作品の展覧会を3つ『AI芸術展』『ゾンビ芸術と美女絵画展』『逆転する文明の教師』開催した。愚老よりもひとまわり上の年代にもかかわらず、新しい技術を果敢に取り入れていることに驚嘆した。また、彦坂はYouTubeで発信もしており、その枯れない意欲にリスペクトを禁じ得ない。

 精力的な活動ということでは、今年も『シアターコモンズ』会期:2024年2月29日~3月12日が充実していた。相馬千秋氏も尊敬に値するキュレーター。現代アートの中にあって、舞台系、パフォーマンス・演劇系も守備範囲とするそのフィールドワークぶりは極めてユニークだ。

 大型芸術祭では『第8回横浜トリエンナーレ』会期:2024年3月15日~6月9日は、会期末にSNS上でディスられていた一面もあったが、現代アートという文脈に松本哉を連接するなど注目すべき点があった。

 今年もフェミニズムとい切り口の展覧会が続いている。その中では特に東京国立近代美術館の『フェミニズムと映像表現』会期:2024年9月3日~12月22日を挙げたい。コレクションを使った小企画ながら印象に残った展覧会だった。1970年代のアナログビデオ作品ということでも愚老の個人的な関心を引いた。

 実業家 植島幹九郎が開設したUESHIMA MUSEUMが6月1日オープンした(オープニング展は12月末まで)。個人コレクションを個人美術館で常設公開するという例はあまり聞かない。また、植島氏は「次世代のキュレーターや評論家、学生の教育の場として...」と語っており、アート分野で最も重要な人材投資に意欲を示していることも高く評価できる。(1986年から1991年までのバブル景気の時期にゴッホほか泰西名画なんぞに〈投機〉せずに〈人材投資〉をしていたら、今のような日本の没落はなかっただろうと思うと、はらわたが煮えくり返る。)
 コレクション自体の質と量は高橋龍太郎コレクションには及ばないものの、人材育成の面で今後も大いに期待したい。(東京都現代美術館『日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション』会期:2024年8月3日~11月10日)

 ベスト2の内藤礼とほぼ同じ世代※の豊嶋康子『発生法|天地左右の裏表』東京都現代美術館、会期:2023年12月9日~2024年3月10日、白井美穂『森の空き地』府中市美術館、会期:2023年12月16日~2024年2月25日の大型個展もふたりの中堅ベテラン作家を回顧的に見るのに良い展覧会だった。※ 内藤礼:1961年生まれ、豊嶋康子:1967年生まれ、白井美穂:1962年生まれ。

 ベスト10のラストは『例外アートウィーク』会期:2024年11月7日~10日でのゲストトーク「なぜオルタナティブ=例外なアートスペースが必要なのか?」。コマーシャルギャラリーの『アートウィーク東京』に敢えて同じ会期にぶつけ、オルタナティブ・スペースの重要さをアピールした。

次点は次の12展覧会です。順不同】
・荒川ナッシュ医『Paintings Are Popstars』(国立新美術館)
・田名網敬一『記憶の冒険』(国立新美術館)
・スプツニ子!『Can I Believe in a Fortunate Tomorrow?|幸せな明日を信じてもよい?』(KOTARO NUKAGA天王洲)
・久保寛子『鉄骨のゴッデス』(ポーラミュージアムアネックス)
・宮原崇広『Syncretic Object|⾁とアスファルト』(HARUKAITO by ISLAND)
・小泉明郎『祭壇』(無人島プロダクション)
・五月女哲平『GEO』(art cruise gallery by baycrew’s)
・『MOTコレクション|竹林之七妍』(東京都現代美術館)
・藤嶋咲子『不和のアート:芸術と民主主義 vol. 2』『On Double-dealings, Demos & Discontent』(藝大陳列館、WATOWA)
・『MUCA展』(森アーツセンター)
・アンゼルム・キーファー『Opus Magnum』(ファーガス・マカフリー)
・高柳恵理『状況の現実』(照恩寺)

【番外別格】友人がキュレーションしたこともあり、客観的な立場になれないが、素晴らしかった展覧会。横浜人形の家『ひとはなぜ''ひとがた''をつくるのか』会期:2024年4月6日~6月30日。展示作品が人形という域を超えていることはもちろん、知られざる重要作家の掘り起こしているという意味でも傑出した展覧会でした。

いいなと思ったら応援しよう!